037動き出す歯車1
「何が! 健康的な! 男の子の証だよ!」
思い出せないが、夢の中で秋里涼真は撫で撫でされまくった。
そのせいで朝から風呂場とは気分が滅入る。
あの後、四人はギルド内で軽食して冒険者から質問攻めされたり、町を観光して過ごした。日も沈み、宿屋で休んでいたら右腕に地球へ戻るサインが走る。全員が蛇革鎧に着替えてリキッドアーマーをダンジョンコア製の袋に入れると、今までの感謝と共に生徒会長へ返却。喜世川有栖が浄化のスキルを使った後で帰還する。
これで汚れもウイルスも大丈夫!
(ハイポーション、鑑定内容のメモ。ポーションも何本かオマケで付けておこう)
異世界お土産セットと、ボディカメラにドローンも生徒会長に預けた。
これは城ヶ崎家に超常対策室の人員が機密と防犯で常駐してるのが理由。
「やっと洗い終わった。次は弁当か、多めに作らなきゃな」
せっせと支度して家を出る。
風の精霊の指輪を緩く使い、あっという間に教室まで到着。
席に着くと喜世川有栖の友人達に囲まれた。
「昨日のホームルームの事で、話あるんだけど」
「「「そうだそうだ」」」
どこか不機嫌な彼女達。何か怒らせたりしたのだろうか?
異世界での活動と昨日の出来事で実質二日分、思い出そうにも大変だ。
秋里涼真は混乱する。
「俺、何かやっちゃった?」
「ヤッちゃったか知りたいのはこっち! あんた有栖と仲良くなったんでしょ!」
「うん、色々あって親しくなれたよ?」
「だったら何で美咲先生と───」
心惹かれる発言に彼女達の目が光る!
流れは変わった。
「「「「色々あって、を詳しくッ!」」」」
「はいストップ。秋里君おはよー!」
「おはよう喜世川さん」
喜世川有栖は間に合った。
ギロリと野良猫のように睨む。
「勝手に尋問禁止」
「違っ、秋里が美咲先生と───」
「それ昨日の時点で校長が否定してたっしょ?」
「「「「でもでもでも───」」」」
「あー、お姫様抱っこ? その時は喜世川さんも居たよ」
その発言で喜世川有栖の方を見る友人達。
「秋里君が言ってるの本当だから」
「それに、生徒会長と兎洞君も一緒だった」
「どういう状況だよ秋里……」
喜世川有栖も加勢して説明していたら担任が来た。
朝のホームルーム開始である。
「ガ……秋里、お前のせいで私は大変な目に遭いました」
朝から職員室で弄られた美咲先生は、機嫌が悪い!
「寝ぼけてたので……すみませんでした。というか、それ昨日も聞きましたよ?」
「?……あ」
超常対策室が借りるビルで本人から叱られている。
それを知らない生徒が、不自然な二人のやり取りに反応して騒ぐ。
「ああ、もう静かに‼」
教室の後ろで壁にプリントを張り付けていた安倍美咲のイライラ状態が爆発。
お前のせいだ!!!!!
八つ当たりで秋里涼真に新品のチョークを投擲してしまった。
任務で鍛えられた必殺の一撃が迫る。だが秋里涼真にはジョブとレベルがある。
例えチョークが当たっても平気だ。
(うおっ、危ない!)
しかし、撃ち落とす。
サブソニック対応45ACP弾とサイレンサー付きMk23を使い、更に精霊の指輪で風を操り、銃声を無音レベルに下げて飛来するチョークを正確に撃ち砕く!
そのタイミングで銃を消せば、教室を飛ぶ銃弾も消えて当然。
「「⁉」」
安倍美咲と喜世川有栖のみ気付けた一幕。
砕けたチョークは、ブワッと騒がしい生徒の頭上に降り注いだ。
高音ボイスがシャウトする。
「グワァー。何だよ突然ふざけんな、これも秋里の仕業に違いない!」
「俺がやった証拠とかあるの?」
「やめとけ紐手川。我が校のヤンキー潰しセカンドが相手じゃ分が悪いって」
「俺は暴力になんか屈しないぞ。チクショー何で秋里ばかり、ズルいぞォー!」
「非モテが騒ぐから超常現象が起きたんじゃね?」
「早く電子黒板を導入しろォー!」
途中から黒板の話題に変わっていく。
今日も平和な一日となるはずだったが───
◆
「今日のも美味いじゃん。これ何の野菜?」
「俺の両親は共働きで今は海外なんだけど、これ外国の食材で……」
ずばり、異世界の食材である。
今日もオカズ交換会は開催された。あーん! が恥ずかしくて未だ慣れない。
しかも廊下の生徒会長と目が合った‼
「なんと破廉恥な⁉ モテモテではないか秋里」
「これはモテるのとまた別のやつです。B組に何か用ですか?」
「うむ、お土産の件でな。二人とも食べ終わったら来てくれ」
そう言うなり帰って行く。
「何かトラブルなん?」
「うーん……俺はポジティブな方向で考えたいかな」
友人達が心配する中、食べ終えた二人が生徒会室に向う。
「「失礼しまーす!」」
生徒会室に全員が揃った。
鍵をかけると、城ヶ崎一夏が集まった経緯の説明を始める。
ハイポーション購入の希望者が早くも現れたらしい。
「今日の朝に常駐してる超常対策室の人に渡して、朝の十時に海外から電話?」
「情報漏れるの早過ぎじゃん!」
「スパイとかじゃねーのか?」
日本支部のセキュリティ云々では無いと電話で言及した希望者。
詳しくは後藤長官と相手方、そしてこの四人で今日の放課後に話し合う予定だ。
本日のチア部は自習。生徒会の仕事も、弓道部を辞めた会長が片付け済み。
「……ダヴィンチがホワイトボードの後ろに居る」
「モフモフ丸この部屋に来てるん?」
使い魔が学校に来ていた。
『ふむ、お前の名前はダヴィンチか……モフモフ丸だな!』
『あ、鑑定でも名前がダヴィンチって付いた』
『モフモフ丸……』
落ち込む主の足に抱きついて心配する使い魔。
本命はそっちかと三人が思っていると───
『ニャア~~~~~~~~ン!』
俺は野生を辞めるぞ~~~!
とでも叫んだのか、全身の毛並みが野生では不利な真っ白の姿に変わる。
名前もダヴィンチ・モフモフ丸と鑑定に出ていた。
この激カワ使い魔、名付け確定後は城ヶ崎一夏にだけ懐いていた。
ビクビクと余りに可哀想でダンジョンコア製バッグを作ったら、中に入ったまま出て来ない───
今は出てるのか、オート鑑定による名前のポップが横にスーッと移動する。
「…………」
前足でホワイトボードの端を掴み、顔を半分だけ見せている。
群れから逸れた寂しさと好奇心から大蛇との戦闘後もこうして覗いていた。
片目でこちらの様子を伺うダヴィンチ・モフモフ丸。
「ガチでモフモフ丸じゃねーか」
「兎洞も気付けなかった程だぞ、秋里は何故分かったのだ?」
「鑑定スキルが名前を視覚的にポップさせるので……」
「私のジョブスキルも使えるから完璧な気配消しを練習させたが、盲点だな」
「ニャッ」
兎洞には勝利した隠れるチャレンジ。
二つの気配希釈スキルによるシナジーは強力だ。
「俺の右手にあるの、な~んだ?」
魔力を消費して目の前で大好物の木の実を作った秋里涼真。
使い魔の表情は恍惚としたものへ変わり、上半身も丸見えだ。
城ヶ崎一夏と木の実を交互に見ている食べ盛りの使い魔。
「クッ、やむを得んな。食べたがっているのがテレパシーで伝わって来る」
「ニャーオ」
テーブルに飛び乗って秋里涼真の前に来たダヴィンチ・モフモフ丸。
サッと仰向けに寝転ぶと身体をクネらせて撫でろ! 撫でろ! と催促した。
初日の警戒心は何だったのか……木の実が使い魔を惑わせる!
「俺にこの手でモフれというのか」
木の実を支払うとモフる権利が得られるようだ。
お触りは有料……無料なのは主だけ!
「ダヴィンチの撫で心地は癖になるかも」
「ニャーン!」
「う、うちもモフモフ丸モフる!」
城ヶ崎一夏の持つ袋には沢山に木の実が入っている。
しかし無くなると面倒なので、モフ権の購入は秋里涼真が木の実を生産して四人で存分にモフった。もうみんなはダヴィンチ・モフモフ丸と仲良しだ。
(モフモフ丸とテレパシーで繋がる私まで皆の撫でモフりで変な気持ちに……)
「気を付けねばならんな。今回は声を我慢出来たが……クッ」
城ヶ崎一夏は【使い魔[狩人]】の危険性に気付く。
使い魔とテイム主は、互いが影響し合う一心同体だ。
◆
ホームルームが終わる頃───
天之御中高等学校の校門に一台の高級車が停車した。車にはAEDG超常対策室の日本支部長官と、米国支部への高額出資者である大富豪が乗っている。




