033異世界の大地に降り立つ1
「おお~、ダンジョンの時と同じだ」
風が気持ちいい。ベッドで寝たら木漏れ日が素敵な山の中に居た。
秋里涼真は経験済みだが、他の三人はダンジョンに囚われたまま踏破をしたからこの現象は初体験で少し挙動不審になる。
(俺もあの時は驚いて固まったもんな)
長官から託されたボディカメラが三人の混乱っぷりをバッチリ録画中。
精密検査の施設で秋里涼真の視界が一時的に異世界側とリンク!
それ自体は数分で切れたものの、異世界へ行けるかも発言から即席ミーティングが始まる。その結果、超常対策室から武器は返却された。
準備万端、今度はダンジョンと違って異世界だ。
「風が吹いてて……ダンジョンの外って感じだ」
「……ここってホントに異世界なん?」
「そうだよ。ダンジョンの残骸空間をパッと通って俺達は異世界側に来た」
「妙に具体的な発言をするが、何故分かるのだ?」
「ダンジョンコアを通しての感覚です」
兎洞雄之助が周囲を観察している。
「……時間帯は違うが一回ここ来てるぞ。ダンジョン崩壊後に飛ばされた場所だ」
「それは確かなのか? 兎洞」
「俺は目が良くなるスキルを持ってるからな。自信あるぜ?」
喜世川有栖が三つの月を目撃した時の話。
異世界側のダンジョンが埋まった地点でもある。地中に潜ったダンジョンコアは長い年月をかけて成長し、魂の帰巣本能で次元の壁を突破。
そうして地球側へと根を伸ばしたのが大量失踪事件の発生に繋がった。
「まずは、人が住んでいる町を探そう。超常対策室で借りたドローンの出番だ」
異世界を調査する。
それなら便利な現代機器を使わない理由は無い。
『異世界を探索するのなら、ドローンはきっと役に立つ。今は長期仕事中で居ない土方が普段使ってた物があるはずだ。持って行け』
「これで上空のカメラから見れば道にも迷わないって後藤長官マジ感謝っしょ!」
「寝る前まで説明書を読んだし充電はバッチリ。確かこっちのリュックに───」
二人が話していると背後で雑木林の擦擦れる音がした。
現れたホブゴブリンは、どこかで拾った剣を振り上げながら二人に襲い掛かる。
はぐれ個体による完璧な不意打ちだ。
「うお、野生のゴブリン⁉」
ホブゴブリンは握った剣を上段に構え、全力疾走。
秋里涼真も即座に敵へ駆け寄った。剣を振り下ろし迎撃するホブゴブリンだが、掲げた剣の柄頭へ伸ばされた掌底によって行動を妨害される。
膠着状態は一瞬───
「この【施条拳】で死ね」
秋里涼真のもう片方の手にMk23が握られている。
コンペンセイターをホブゴブリンの頭へ突っ込んで発射された460Rowland弾の威力が、スキルの特性で163%にまで上昇。
銃弾は頭蓋骨をぶち破って空の彼方へ飛んで行く。
崩れ落ちたホブゴブリンを前に、まだ警戒を解かない秋里涼真。
(死体が消えない?……まだ生きて───まさかゾンビ⁉)
グロック17も出して二丁拳銃、人体の急所を参考に片っ端から撃ち抜く。
兎洞雄之助と城ヶ崎一夏が周囲を警戒する中、秋里涼真を止める喜世川有栖。
「もう死んでる! もう死んでるから!」
「まだ死体が消えないけど?」
「消えるのはダンジョンの中だけなの! 外で殺すと死体は残るから!」
喜世川有栖は詳しそうだった。
そこへ二人が合流する。
「どうやらホブゴブリンは一体だけのようだ。周囲に敵はいない」
「ああ、城ヶ崎の言う通りだ……エグいな、おい」
ホブゴブリンだった物が地面に転がっている。
「放置すると熊が出る的な問題ありそうだし、ダンジョンの外って面倒だな」
「では【ファイヤーボール】で───」
「それは魔力が勿体ないじゃん?」
「穴掘って埋めりゃいいだろ?」
「俺、スコップは持って来てないよ?」
やむを得ず魔法で消し炭にした。
放たずに火の玉を動かすだけなら魔力の消費は半分程度だ。
「よし、終わりだ。早くドローンで町を探すのだ秋里!」
「あっという間に炭かよ。やっぱオーガは頑丈だったんだな」
「……うちらのやり方って、きっと間違ってね?」
「仕方ないよ、俺達は異世界の常識を知らないし」
緊張しながら山の中を移動する四人は、ドローンからの映像を頼りに敵との接触を避けつつ、道なき道を行く。どうしても敵と出会いそうな場面には城ヶ崎一夏の新スキルの出番だ。
オーガ討伐時に覚えた〈魔法使い〉の【魔法付与】スキル!
「また一個頼む。これ便利でいいな」
城ヶ崎一夏から渡される地面の手頃な石を、兎洞雄之助が敵近くの木に投げる。
魔力による肉体の強化具合を操作出来る〈求道者〉のジョブの特性、投球のみを考えた身体強化で放つ剛速球。ただの拾った石が木にぶつかると同時に大きな音を立て爆散‼
驚いたゴブリンの群れは、恐怖のあまり散り散りに逃げていく。
「ファイヤーボールよりも、そんなにコスパいいん?」
「その中の爆発を司る部分だけを抜き出して付与するからな。早く矢じりに付与して射ってみたいものだ」
城ヶ崎一夏は自身の背中を指差す。
そこにはオーガ戦で得た矢筒と、新品のコンパウンドボウがあった。
「みんなはオーガ戦でスキル覚えてたんだな~」
ドローンを操縦しながら秋里涼真が言った。ちょっぴり不満気に。
オーガ戦でスキルを覚えなかったのは一人だけ。
「ボス倒せば後は脱出して終わりだろ。だから言う必要も無かった」
「私が黙っていたのも兎洞と同じ理由だ」
「うちはダンジョンから解放される嬉しさと宝箱に夢中だったんで、ごめんね!」
喜世川有栖は【守護の祈り】を覚えていた。
光の盾を展開する〈聖女〉のスキルで物理や魔法も防ぎ、周辺に設置するだけで仲間の受けたダメージを肩代わりもしてくれて、耐久力が無くなれば消滅だ。
秋里涼真が上に乗って飛び跳ねても平気なので足場にもなりそう。
「秋里、まだ人は見かけないのか?」
「ないですね。ドローンは広範囲を眺められるから、居たら発見できるんで……おっ、遠くに町を発見!」
三人も一緒になってドローンの撮影映像を覗き込む。
秋里涼真が持つコントローラーのディスプレイに映る石壁に囲まれた町。日本の小さな田舎が楽に入る中々の大きさだった。
ドローンを回収して片付けた四人は、町の方角へ一直線に行く───
◆
「想像よりも、石壁おっきくね?」
門に立つ兵隊の顔が見える。
立ち姿が頼もしい。丈夫そうな金属鎧の門番に四人は注目されていた。
町へ入るべく門に向かう。
「すいませーん、町に入りたいんですけどー」
一瞬ビクッと反応した門番の返事が何を喋ってるか理解出来ない。
互いに言葉が通じてはいなかった。
「やっぱ異世界だし、日本語は通じなくない?」
めげずに秋里涼真は英語で話しかけるも撃沈。
弱々しく喜世川有栖に助けを求めた。
「いや、うちにも無理だから!」
「作戦会議だ! この場を一旦離れるぞ!」
城ヶ崎一夏がリーダーシップを取っての一時退却。
少し離れた位置で話し合っている四人。門番はそれを訝しげに見張った。
「これは困った問題だな」
「言葉の壁はヤバ過ぎんだろ……」
意見を言い合うが名案は出て来ない。
(何かスキルでパッと解決とかやれたら楽なのにな)
秋里涼真が現実逃避を始めると右腕が熱くなった。
ダンジョンコアが魔力を消費して何かしている。
「うお、何?……何だコレ?」
秋里涼真の手には見た事の無い小さな小瓶。
三人も小瓶に気付く。
「それ、どうしたん?」
「何か勝手に───」
余りの頭痛に言葉が途切れる。
頭の中を掻き毟るような激痛で座り込んでしまう。
「わわ、大丈夫⁉」
「……凄い痛かったけど、もう治まった。ん?」
【異世界言語ポーション:飲むと異世界言語スキルを得られて町にも入れるよ】
「おおう……」
「どうした秋里? やはり、どこか具合が悪いのか?」
「異世界の言葉の壁……何か、解決が出来ちゃいそうです」




