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032勝ち取った日常、変化した日常4

「失礼します」



 秋里涼真は、ビルの屋上で警官を振り切った。

 ビルを次々と飛び越えた先、ビルの間を三角飛びして下に降り立つ。身バレ防止の変装セットをどう処分しようか……すると脱いだ物が全て消失、ダンジョンコア自身が作ったアイテムは分解吸収が可能らしい。

 問題も即解決。そうして予定通り買い物してから超常対策室の部屋に入室。


「全員が揃ったな。事前の連絡通り検査をするだけだったが……問題が起きた」


 長官の後藤丈晴が、真剣な雰囲気で喋り始める。



「緊急事態という事で学校を抜けて来ました」



 安倍美咲が入室するなり秋里涼真を探して(にら)み付け───


「このガキンチョ! お前が変に誤解される発言をしたから、あの後が大変だったんですよッ!」


 思い出して喜世川有栖が先生に同情している。

 クラブ活動時に校長から先生の呼び出し放送がされたのだ。

 これが学校中に噂が広まる決定打に。


 約一時間後、校長直々に件の噂は誤解で問題は無い、と放送でお墨付きが出る。

 忙しかった後藤丈晴は、この一件をまだ把握していない。


「学校で何かあったのか? それは今取り扱う必要のある問題か?」

「いえ……問題自体は既に解決しています」


 秋里涼真の方を一瞬だけ睨み、空いている席へ座る。


「では続けるぞ。二時間ほど前に近くで銀行強盗があったんだが───」



 嫌な予感のする秋里涼真。

 話を聞くにつれて……それは確信に変わる!



「───この精霊を自称する存在が撮影された動画は二つある。SNSに投稿された物と、警察官のボディカメラが撮影した映像だ」

「ネットにアップされたのは、やっぱ削除済みなん?」


 喜世川有栖の質問に、後藤丈晴は困った表情で答えた。


「それが困った事に、撮影者は一番最初の通報主でもあるんだよ」


 犯人に隠れて通報後、リアルタイムで配信を開始したという。

 秘密は着ていた服に秘密があった。外から中が透けず、中から外は透けて見える新素材で先日発売された新作。当初は銀行強盗リアル配信としてバズっていたが、途中から精霊が犯人相手に罰を下して更に大バズり。


「って事は、超常対策室は隠蔽(いんぺい)を出来てねぇのか?」

「我々にも限界はあるんだよ。例えば、人々が行き交う都会のスクランブル交差点ど真ん中で、ツチノコが現れたら隠蔽は無理だ」

「今回の場合は……どう対応するんですか?」



 ───変装しておいて良かった。



 秋里涼真が(おそ)る恐る聞く。

 正直いい感じに握り潰して欲しかった。


「ノータッチだな。事前に介入出来なかった時点で正直どうにもならん。今回限りなのを(いの)るだけだ」


 陰陽師が予知出来ていたらと心の中で愚痴(ぐち)りつつ端末を操作する長官。

 室内の照明が消され、大型ディスプレイに映像が映し出された。


『闇バイト舐めんなよ、大人しくリュックに金を()めろ‼』

『わ、分かった。分かったから、山田さんの首筋にナイフを当てるのを止めろ』


 閉店後なので銀行員とその関係者しかいない。

 犯人達は、下調べをした上で非常階段の鍵を複製後に行動に及んでいる。

 計画的な犯行だった。


「声の大きさから考えて、助けてママ~と叫んだ今の子が撮影者ですね」

「アカウント名が、満月もちもち。本名は竹中月姫。月の姫と書いてアルテミスちゃんだ」


 配信者の情報に三者三葉の反応。


(はじ)っこに居たツインテールの小さな子が撮影者だったのか)


 秋里涼真は思いを()せた。

 通報した行動力。

 (おび)えた少女の態度(たいど)は、端末(たんまつ)操作の誤魔化しと臨場感(りんじょうかん)を狙った演技。

 今、記憶の中の少女の印象が違って見える。



『私は通りすがりの精霊バードメン。そこんとこよろしく、罪を重ねるな咎人(とがびと)よ』



 急にドアが開き、奇妙な見た目と異質な声色の存在が登場。


「うち、これどっかで見た気がする」

「ペストの病と関わりのある仮面だな、歴史的にも有名な品物だ」

「なんでコイツの声は響いて聞こえてんだ?」


 突然の乱入者に犯人達は罵詈雑言(ばりぞうごん)───

 それを見て少女は小さく(つぶや)く。


『精霊は、怒ってるよ』


 犯人が大声を出す度に手を強く握り締め、震わせる。

 犯人の意識が逸れた瞬間、どこからか銃を取り出し凶器のナイフを撃ち飛ばす。

 少女は悪い人を懲らしめる為に来てくれたと小声で喜んだ。


 それを見た三人が横目で秋里涼真を見る。


『あれは、ソーコムピストル⁉』


「「「ソーコムピストル?」」」

「何か気付いた事でもあるのか?」


 後藤長官から質問をされた三人は歯切れが悪い。

 パトカーのサイレンが聞こえ出すと、事態は急変する。

 精霊が犯人達を二丁拳銃で撃ちまくったのだ。


 それで安倍美咲が気付いた。


「ガキンチョ! お前か!」

「お、俺は関係ないです。何か証拠でもあるんですか?」

「私は一度、お前に二丁拳銃で狙われたので分かります! また面倒な事を……」


 後藤丈晴と目が合った秋里涼真。


「ッ⁉」

「あの精霊、君とは無関係なんだな?」

「はい!」

「その上で意見を聞くが、精霊は再び現れると思うか?」

「も、もう出ないかも……」

「次に現れたら、銃刀法違反で逮捕せにゃいかんからな~」


 笑顔で大人の対応をした後藤丈晴。


(やれやれ、素直に反省する分あの二人よりはマシなのか?)


『ありがとー、ばーどめん!』


「ここからは警察官による撮影だ」


 部屋から退出した精霊は警官に呼びかけられビクつくいた後、階段を凄い速さで駆け上る。


『待ちなさい! ま、速過ぎるだろ。待ちなさい!』


 屋上に着くと、不審者が迫る警官をチラ見して動き出す。

 素早い指示で出口を固めて不審者の包囲に動く。二手に分かれた。

 日夜平和を守っている日本の警官は優秀だ!


『大人しくしろ! 無駄な抵抗(ていこう)をするな』



 ビルの手摺(てすり)を踏み台に、不審者は十メートル以上もの跳躍(ちょうやく)

 隣のビルの屋上へと着地した。



『……本物の、化け物なのか?』


 化け物は警官の方に振り返ると、ビルからビルへ。みるみる後ろ姿が遠ざかる。

 そして遠くで、スッと消えてしまう……そこで映像は停止。


 しばらく部屋が無言で秋里涼真は凄く居心地が悪かった。







 精密検査は専門の施設で行われる。

 四人は、長官と先生に連れられて車で移動。


「貸し切りなんですか?」

「関連団体が運営してて営業時間外だからね」



 教員の首すげ替えが二年だけだったのは予算が通らなかったから。

 上と国の援助で運営が成り立つ日本の支部は、何かと立場が弱そうだ。


 精密検査では特におかしな点が見つからず細胞やDNAも普通の人間と変化なし。血液成分も年齢相応で安心の結果。ダンジョンコアは影すら映らない。

 ただ、運動テストは異常だった。



「一番足が遅いのが秋里涼真なのは意外ですね。てっきり一番速いのかと」


 オリンピックのメダリストと同等の身体能力を獲得していた四人。

 ただの学生でもダンジョンで力を得るとそこまで凄くなるのかと大人達が(おどろ)く。


「あの指輪が無ければ秋里は私よりも遅いのか?」

「俺は銃を撃つジョブの一つだけですし……」

「うちが二番なのは〈戦乙女〉の性能が凄いからかも?」

「俺が一番なのは、二つとも近接戦闘ジョブだからだな」

「兎洞は元から学年で運動の成績が一番だったな、喜世川も私と同じくらいか?」


 特にパッとしない枠(モブ)の秋里涼真。

 それと比べて全学年でも上澄みな三人。


「やはり弓道部は辞めて正解だったな」

「そうなん?」

「主将の座も他に(ゆず)った、帰還後で弓の精度が違い過ぎてな。趣味では続けるが」

「俺も今じゃ喧嘩(けんか)が出来ねぇ、パンチングマシーンでも368とか出た(機種によります)からな」


 全員が引く。

 元のスコアは241だ。握力も128から236と倍近い。


(凄すぎる。そりゃオーガと喧嘩だってやれちゃうよ……)


 まったりしながらそう考えていた秋里涼真。

 当分は自由と長官から説明されて気が(ゆる)んでいた。



「うおッ!」



 目の前にゴブリン。

 即座に銃を構えるが、こちらが見えていないのか通り過ぎて行く。

 よく見れば景色が重なっており周囲に木々が見えている。


 ダンジョンコアと一体化している秋里涼真は感覚的に理解が出来た。


「どうした! 何があったんだ?」


 長官が驚き、遠くで先生がプンスカ怒っている。

 突然の奇行で注目されながら爆弾発言をしてしまう───




「あー、その……異世界、行けちゃうかも?」

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