031勝ち取った日常、変化した日常3
「失礼します。兎洞君に聞いて秋里君と来ました~」
生徒会室に四人が揃う。
部屋では城ヶ崎一夏が教員から引き受けた雑務を片付けていた。頭の後ろに手を組んで座っている兎洞雄之助。
秋里涼真は最後に入室して鍵をかけた。
「うむ、二人も座ってくれ。話というのは放課後のクラブ以降の予定だが───」
着席している三人に城ヶ崎一夏が語りだす。
「簡単に言えば精密検査だ。ダンジョンから帰還した時も、家に帰って問題ないかトレーラーの中で細菌検査などをしたが、今回のはダンジョンで力を得て身体的にどのような変化が起きているのかを調べる!」
城ヶ崎一夏と秋里涼真の目が合う。
「秋里、お前の右腕の中にあるダンジョンコアもだ。専用の機器を使い調べれば、今度こそ何か分かるかもしれん」
「え、あー、もう大丈夫なんじゃないかな。別に問題も無いですし……」
どこかぎこちない秋里涼真が優しく自分の右腕を撫でる。
それを見て三人は訝しんだ。
この男、また何か隠していないか?
「秋里君、トレーラーの中で不安そうに右腕の検査してたっしょ?」
「どうせバレるんだ。喋っちまえよ」
「お、俺は何も隠してないよ……」
「本当に何も隠しておらんのだな?」
「あー!!!」
喜世川有栖の中で点と点が結び付く。
「お弁当! 秋里君のお弁当、おかずにダンジョン産の白身魚が入ってた!」
「それは本当なのか喜世川⁉」
「頼まれた伝言で行ったら女子に囲まれて箸で食べさせて貰ってたな」
「なっ、不健全だぞ秋里!」
「そういや、公園の抗争も俺に罪を着せようとしやがったよなぁ? お前」
「いかんぞ秋里、反省しろ!」
これで濡れ衣の分はチャラだ。
気の晴れた兎洞雄之助はニヤニヤと満足顔。
逆に秋里涼真の方は萎れていた。
この弱った秋里涼真に、お弁当の白身の件で三人が追撃を開始する。
「んで、白身魚ってナマズのドロップ品だろ? 本当に同じもんか?」
「めっちゃ美味かったし、お弁当箱に形も同じの入ってたから直ぐ分かった!」
「喜世川がそこまで言うなら確かだろう。秋里、説明してくれるな?」
「───うう……分かりました」
昨日の朝の出来事から、今日の朝食にダンジョンナマズの味噌煮を食べた事まで一気に喋った秋里涼真。
その時、撫でていた右腕からスーパーのパックが飛び出す。
「これは……確かに」
城ヶ崎一夏が手に取って確認した。
「銃みたいに出せるのか。どうして黙っていたのだ?」
「この子とは、共に生きると誓ったので……」
「ダンジョンコアと? 大丈夫なん?」
「物を作る時に俺の魔力が使われるけど、他には何も影響ないから問題ないよ?」
「寄生されてるだけじゃねーのか?」
「熱っ⁉」
ダンジョンコアは感情的になったが、それで秋里涼真が悲鳴を上げる結果になり反省した。優しい温もりで『ごめんね』をアピールする。
「分かってるよ。兎洞君の心無い発言で傷付いただけなんだよね……」
「う、悪かった」
配慮が足りなかったと兎洞雄之助は謝った。
同時に、三人はダンジョンコアに人格が備わっていると認識を改める。
喜世川有栖が不思議そうに秋里涼真の腕を覗き込んだ。
「そんなハッキリ意思とかあったりするん?」
悲鳴を上げていた秋里涼真に撫でながら【聖女の祈り】を使うと、右腕を通して全身が癒されていく───
「ありがとう。怒らせても火傷にはならないけどね……回復魔法って便利だ」
腕を撫で撫でされ照れている秋里涼真。
不機嫌なダンジョンコアは、夢の中で撫で撫でする事を誓う!
「他にも【浄化の祈り】が便利だよ。お風呂掃除とかママに褒められるもん」
生徒会室に光の粒子が舞った。
部屋の空気が清々しく、床もピカピカ。四人も風呂上がりのようにサッパリ。
喜世川有栖は〈聖女〉の力を日常生活で有効に活用している。
「これは良い、コンディションに直結する。私の場合は【精神統一】だな、勉強や暗記で重宝している」
「服まで綺麗になるのか……俺のだと【チャクラ】だな、集中力が要るスキルだ。体内で魔力を練って、疲れや消耗を回復出来る。力と体力の強化:小も入るか」
「チャクラ? オーガ戦でのレベルアップで得たのか?」
「おう、あん時だ」
グロック17を手に持つ秋里涼真。
「どしたん? 急に銃なんか出して」
「いや、俺のジョブって日常生活で何の役にも立たないなって───」
「立ってはいかんだろう⁉」
「お前が居なきゃ俺等はダンジョンで死んでた。お前の銃の力には感謝してるぞ」
ダンジョンコアに色々と出して貰える生活。
秋里涼真も事件解決を通して恩恵を得たが、それはそれとして隣の芝生が青い。
お昼休み終了のチャイムが鳴って四人は解散した。
◆
あっという間に放課後のホームルーム。
秋里涼真は眠気と戦っていた。エッチな夢のせいで寝起きの仕事が増加、元から朝食に弁当と大変だったので正直シンドイ。
(もっと早寝早起きしなきゃ!)
担任の変更でもだが、今日のクラスは賑やかだ。
秋里涼真モテモテ事件と夜の公園でヤンキー退治の二本立て。
ずっと教室がザワつくのも仕方ない。
「あと少しで終了なのに……皆さん静かにして下さい!」
「先生、秋里が女から不正にモテだしておかしいんです」
「二大ヤンキー集団を秋里が潰したって噂が……」
「ガ、秋里……」
「ふぁ……いえ先生、俺のせいじゃないです」
「あなたが!───」
「んん……うるさいで言えば、先生もうるさかったですよ? 俺の腕の中で」
静かになる教室。
安倍美咲は猫被りの演技が崩れかかるも、バリキャリ女子なので持ち直した。
野良猫のような表情で秋里涼真を見ている喜世川有栖。
「嘘はダメですよ秋里、先生は───」
「もうやめて。止まって。って耳元で……俺、ああいうの初めてだったし」
「出鱈目を、この───」
それはダンジョン帰還後の真夜中に下山ジェットコースターした事実の話。
秋里涼真は席から立って、お姫様抱っこポーズを取った。
「……あ゛」
安倍美咲の反応は致命的。
「え、駅弁⁉」
誰かがそう言った。
勘違いは指数関数的に膨れ上がる。
安倍美咲が『あれは夜の山でお姫様抱っこをしただけなんです』と説明をしても誰も信じなかった。当然である。
「もうちょっとマシな言い訳にしなよ先生」
機密に抵触スレスレの発言も無駄に終わる。
クラスが混乱する隙に匍匐前進で風の様に教室を抜け出す秋里涼真。
色々と限界だった。乾燥機に入れっぱなしの布団も気になった。
◆
「超常対策室の検査まで時間はある!」
家に帰り、諸々を終わらせ仮眠も取った後、時計を確認。冷蔵庫が空なので補充する為の買い出し。その途中で悲鳴が聞こえて、通りすがったビルの三階を路地裏から見上げる。
「早く金を───闇バイト舐めんなよ───助けてママ~」
「事件だ……警察警察っと」
スマホを取り出す手が止まった。
俺は、今日の昼休みに生徒会室で自分のジョブは日常生活で役に立たないと自虐したのを振り返る。
「それを……今から覆す!」
こんな時の為にある。ダンジョンコアも応援していた。
作り出した袋に履いてた靴を入れ、代わりの靴を作って履き替える。
薄くても破れない皮手袋も作って装着。
(準備完了!)
二階のベランダからビルに侵入出来そうだ。
目撃者が居ないのを確認してから、ダッシュジャンプ!
「へへ、窓が空きっぱなしで助かった」
部屋に侵入後、身バレ防止アイテムの生成。
薄着だったので上から被るローブで誤魔化す。
声を変えたいという俺の要望で中世的な鳥マスクも生成された。クチバシ内部に仕掛けがありそうだ。
今回の変装セットはコストが高く、魔力を四割も消費した。
(目指すは三階!)
閉店直後に襲われた三階の銀行支店。
怒号飛び交う部屋のドアが勢い良く開く。
『私は通りすがりの精霊バードメン。そこんとこよろしく、罪を重ねるな咎人よ』
適当に役をこなす。
空間に響く不思議な声色───侵入者を見た犯人と被害者が悲鳴を上げる。
怪しい存在が入店した。
「誰やゴルァ!」
「なんやお前、どうやって声響かせとるねん⁉」
(今、名乗っただろ!)
犯人の持つ凶器をMk23と【みね撃ち】で吹き飛ばす。
苦痛に呻く犯人、スキルでの非殺傷化は便利だ。
「あれは、ソーコムピストル⁉」
「なんだそりゃあ?」
人質にされていた銀行員は銃に詳しく、ジョブの知識にない薀蓄なども聞けた。
「そんな銃を持っとるお前は何者や!」
(もう名乗った後なんだよ……)
パトカーのサイレンが近づいて来た。
もう面倒臭くなったので、グロック17も出して犯人達を撃ちまくる。
スキルで殺傷力が衝撃に変換されて、壁に激突した犯人達は気絶。
『……さらばだ』
「ありがとー、ばーどめん!」
少女の声援をバックにヒーローは去る。
そこへ銃声を聞き一階から突入した警官達と階段で出会ってしまった。
俺は指輪の力で階段を爆走しながら屋上まで逃げていく。
「やっべ、ここからどうしよう⁉」
取り乱していると、追い付いた警官がこちらへ急接近!
俺は勇気を出して屋上をダッシュジャンプ!
ビルからビルへと飛び移って、どうにか国家権力から逃げ切れた。
「ガチでヤバかった。ダンジョンで力を得ていて助かった───」




