027全地球守護協会AEDG超常対策室3
「───何だかエッチな夢を見た気がする」
酷い寝汗で芋ジャージとベッドが風邪で寝込んだ時のようだ。
病気か不安になる秋里涼真だが、魔力の消耗以外おかしな点は無い。
もう一つの不安を確かめるべくベッドから出た。
「うん、汚してないな。それにしても夢の内容が思い出せない……変だな」
とんでもなく気持ちよかった!
それしか覚えてない、思い出そうにも靄がかかって朧気だ。
気になるけど諦めざるを得ない。
「十二時過ぎか……確か、三時に迎えが来るんだったよな?」
それまでにベッドと芋ジャーを洗って干さねば。
掃除もして、昼風呂に昼食の用意と一人暮らしは大忙しだ。
「休みなのに予定を捩じ込まれるし、やる事が……やる事が多い!」
魂の格、レベルの上がった身体では随分と日課の肉体労働が楽に感じる。
掃除までやって昼風呂を終えたら、テレビで政府関係者のコメンテーターが噂話を披露していた。
『行方不明事件ね、どうやら終息の見込みだそうですよ! もうこれ以上は犠牲者が出なくなりそうと小耳に挟みましたからね、ええ、これは確かな情報ですよ!』
「このおっさん割と言い当ててる……何でそんなに詳しいんだよ、おかしいだろ」
昼食の料理に悩んでいたら謎のおっさんで気が散ってますます案が浮かばない。
そんな時、足元で音がしたので床を確かめる───
「うめえ棒?……何でうめえ棒?」
それも俺の好きな明太子味。
家にあった分は、ダンジョンへの持ち込み実験で全て持ち込んだ。だから家には一本も無いし、帰りに買ってもない。ポケットから落とす事も当然ない。
サプライズうめえ棒現象。
「どこから現れた?───うお、右腕が急に温かいッ⁉」
突然の未知に取り乱す秋里涼真は、確かに見た。
うめえ棒が自分の右手から飛び出す瞬間を!
「お、俺ェ? 俺の右手はどうなっ……あ゛ダンジョンコアか‼」
じんわりと右手の奥が温かくなった。
まるで返事をした風な反応だったので、話し掛けて意思疎通を試みる。
「もしかして……意思を持ってたりする? うぉ、マジか」
あなたは宇宙から来たパラサイトですか? との質問には無反応。
アレコレ質問を続けて対話した結果、友好的な存在らしい……ダンジョン踏破やダンジョンコア引っこ抜きに怒ってなかった。
ただ、俺の腕から出て欲しいと言うと火傷するほど高温化。
「じょ、冗談です……二度と言わない。だから、ごめんなさい」
右手を優しく撫でながら謝罪した。
嘘は見破られるような気がして誠心誠意に謝り許して貰う。
これにはダンジョンコアの機嫌も有頂天。
料理の献立で悩む彼の力になるべく、自らの有用性をアピールする作戦で行く。
重たい物が床へと落ちる───
「今度は何を……こ、これは!!!!!」
それは、正にスーパーの白身のパックだった。
ダンジョンでナマズ型モンスターがドロップする大きな切れ身の激ウマ食材!
「ダ、ダンジョンを潰したから……もう、手に入らないと思ってた」
ギラついた目の秋里涼真が、ダンジョンコアの埋もれた右手を熱く見つめる。
「もうお前を離さない、ずっと俺の傍に居ろ。これから生涯を共に生きよう!」
いつか見た映画を真似して、最後にアイラブユーと付け足す。
より固く運命は結ばれていく───
舞い上がる秋里涼真。
ダンジョンコアも舞い上がったので、秋里涼真の魔力を使用して白身のパックを次々に量産した。
そして秋里涼真は倒れた。急激な魔力の減少が原因だ。
「おまっ、もしかして何か生成する時に俺の魔力を使ってたりする?」
じんわりとした温もりの返事が右腕にあった。
「マジか……じゃあ、寝起きの魔力が減ってたのは? もしかして、エッチな夢もお前の仕業なのか?」
その質問に何の反応を返さないダンジョンコア。
「あれ、違う⁉───嘘ついてない?」
無反応。
秋里涼真からはダンジョンコアの嘘を見破る方法が無い。
そうこうしている間にも時間は過ぎていく。
「やっべ、もうこんな時間か、魔力不足でダウンしてる場合じゃないな。早く白身を使ったスペシャル料理をせねば。食べる分だけ、使わないパックは冷蔵庫へ……よし、今日はお高い調味料を解禁して、いっちょ作りますか!」
時短で、素材がいいし味付けは繊細な淡口で。
煮物ともう一品、二種類の塩を使い分けて手軽に串焼きだ。目分量で出汁粉末と味醂を鍋に入れ、火加減を見ながら横で小型の珪藻土製の七輪をセットする。炭は残っていた量で十分足りる、一定のサイズに切った白身を串で差し込み片側へ粒の大きな塩を掛け焼く。鍋に葉野菜とネギに生姜のスライスを入れ蓋をすると、焼いていた串をひっくり返して一般的な馴染みの塩をサッと振る。遠赤外線で良い感じに両面を焼いて、皿に乗せる為に串を抜けばジュッと音が鳴った。まだまだ炭火は赤い……もう一本焼くぞ‼───
鍋の蓋が持ち上がりだし日本酒と白身を丸々投入、醤油で味を調えると蓋をして弱火に変える。二十分後に料理は全て完成した。
「うめえ棒風ファイヤーボール焼きも十分美味しかったけど、別格にヤバいな」
このナマズの白身は、淡白な味でありつつ旨みが強い。
他の食材と味の相乗効果も取り易く、どんな味付けも出来る極上の白身。改めて秋里涼真は決意する。こんなにも素晴らしい食材を齎すダンジョンコアを、この先何があろうと手放してなるものか!
「この力は、俺とお前だけの秘密だ。普段は右腕の中で大人しくしてるんだぞ?」
了解の返事を返すダンジョンコア。
これから一緒に居られる以外の事は、どうでもいい。
「焼いた身は一口噛むだけでジュワッと濃厚な旨い脂が溢れ出て堪らない。それでいて塩の甘みが後味に余韻を引き立たせて箸を進ませる危険性な一皿だ。煮物は、身がホクホクで野菜や生姜の風味をしっかり吸った味は奥が深く、噛む度に満足感で天を舞える。その魚の旨味を纏った葉野菜とネギは主役級の価値がある───」
(味噌……味噌との相性を試してみたい)
◆
(いかんいかん、ダンジョンで手に入れた不思議な取っ手は台所に置いとこう)
食べ終わったので後片付けをする。
調理場の手入れに七輪の灰落とし、鍋や串を洗い食器は簡単に濯いで洗浄機へ。ある程度は乾かした洗濯物を取り入れて乾燥機にぶち込むと、食後の身だしなみを整えた。三時まで時間がある、だらっとリクライニングチェアに座って環境音楽を流し休憩していると───玄関のテレビドアホンからチャイムの音。
「迎えの車が来たか」
椅子から起きてリモコンで音楽を停止、リビングモニターのスイッチを押す。
見覚えのある黒服が立っていた。
「夜の山に居た新人っぽい人だ」
ドアを開けると車に案内され、そのまま直行。
特に名乗ったりせず名刺も渡されなかった。無駄が無く情報管理の徹底した様に身の回りをウロウロしていたポリス達を思い出す。もしかしたら米国のポリス達も何か事件の調査だったのかも……秋里涼真は当時の記憶を振り返って懐かしむ。
しばらくして車が停車すると建物内へ先導された。
(警察署じゃないんだな、ここは電話関係の設備があるだけの場所だったはず)
このビルを超常対策室が借りたのか?
建物の一室へ通されると、部屋には三人が既に着席していた。
笑顔の喜世川有栖が手を振ってくれている。
「お、揃ったようだね、どうぞ好きな場所に座っていいよ。……よし! じゃあ、まずは自己紹介と行こうか。私が超常対策室の長官、後藤丈晴だ」
おじさんが捲し立てるように一気に喋りだし、四人は固まる。
「君等は人間消失事件を解決してくれた上に、我々が事件の全貌を把握する手助けもしてくれた。撮影映像は証拠として十分だ……そこで───」
後藤丈晴は、ニッコリ笑う。
「君達を超常対策室にスカウトしたい。断っても構わないが、その場合は外国のAEDGが君等の身柄確保に乗り出して来るだろう……どっちがいいか選んでくれ」




