026全地球守護協会AEDG超常対策室2
「あのガキンチョめ、えらい目に遭いましたよ……」
四人を自宅まで送り終えて朝日をバックに入室する。
部屋では主だった面々が報告書を見ながら雑談に花を咲かせていた。秋里涼真に真夜中の山中で絶叫コースターを体験させられた安倍美咲。無事に帰れはしたが、何度もアクロバット体験をさせられた後遺症で語気にいつもの元気が無い。
お疲れ気味の顔でドアを閉めた。
「やー、大変だったみたいだね」
「ええそれはもう……あっ熊ァ! あんたが来るの遅いから私が酷い目に遭ったじゃないですか!」
「ん? それは済まなかった。私の名前は土方大和という、今後とも宜しく」
「知ってますよ! また助けた女に言い寄られて奥さんを泣かせてたんでしょ! 仕事に支障はきたすな、大の大人が」
「私は妻一筋だ」
「はいはい、二人ともそのへんで……」
笑顔だが目は笑っていない。
二人の喧嘩を長官の後藤丈晴が何時ものように仲裁する。超常対策室は能力優先なので、我の強いはみ出し者が集まり易く口論も絶えない。
この多少の問題があろうと有用ならば使えは先代からの教訓でもある。
「今回は映像記録があるんだっけ?」
「はい、スマホで録画しながら命懸けの脱出劇だったそうです。何考えてんだか、最近の若者は」
「お前も若いだろう? 確か、二十五か?」
「ま、だ、二十四ですよ!」
「次の給料、二人は減額ね。データこっちに渡してくれる?」
ショックで放心状態の安倍美咲と土方大和、部屋が静かになった。
機材のスロットにメモリースティックを差し込み手早く操作、大型ディスプレイに録画映像が映し出される。
室内の照明を消す長官。
『これは……』
『頭に装着してフリーハンドで撮影する便利アイテムでーす!』
「壁はコンクリートか? 格好もコスプレ?」
「……お嬢が借りていった理由はこれだったか」
「これリキッドアーマーだろ、数年前に米国のAEDGにあるデータ見たな」
「それを何で子供達が着てるんだ?」
「城ヶ崎家の当主が身内専用で許可取ったそうです。大口出資者の一人だし我々も折れざるを得ませんよ」
映像に映る者達は、それからダンジョン内を駆け回り怪物を次々と倒して行く。
映画さながらの臨場感もあって、見ているメンバーはフィクションが現実化した驚きの内容にアレコレと議論して盛り上がる。
(皆、浮かれ過ぎだな。分からなくはないが)
本物の超常体験が記録された映像が手に入ったメンバーのテンションは高い。
というのも、こういった大規模の非現実的事件は中々発生しないのである。日頃やっている業務は、もっぱらツチノコ探しなど都市伝説やオカルト関連が殆どで、他国と比べたら平和寄りの部署になる。当然、そうなると国から支給される予算は少なく、大部分は全地球守護協会であるAEDGからの援助頼みで活動していた。
とは言え、他の省庁と比べれば柵も少なく、業務が業務なので必要な運営費が相応に低い……これが日本の超常対策室の実態だ。
「お前ら、今回の件は相当の数の犠牲者が出てるのを忘れるな。真面目にね、余り過度にはしゃがないように。お仕事中なんだから」
長官は釘を刺す。
だが内心は、この場で一番興奮していた。全地球守護協会AEDGの存在を独力で見つけ出し、紆余曲折を経た今は超常対策室の長官の座に居る。
元は興味が無かったが、今では超常現象が好きな後藤丈晴。
「この緑の不審者、今後こちら側に現れる可能性ってあると思う?」
「無いですね。コアを引っこ抜いたらダンジョンが崩壊したそうなので」
「なら不自然な失踪者が新しく出なきゃ解決でいいな。仮に緑の不審者が一匹出現した場合、警官はどう対応するべきだ?」
大型ディスプレイに映ったゴブリンがこちらを威嚇している。
「んー、発砲許可を得て三人がかりで……といったところだろう。武装している剣の材質が分からんが、一般的な金属と同等の重さだとすれば振り回せるに足る筋力があると見ていい。そうだな、もし人通りが多い場所で暴れられたら有名な通り魔事件より被害は大きくなるはずだ」
今回の事件を終息させた者達に後藤丈晴は感謝の気持ちが絶えない。
(だが約一名がな~、個人情報を握り潰して協会に報告するか?……漏れるな)
『何? この場所! いきなり宇宙とか、ダンジョンってどうなってんの?』
「階段を降りて、宇宙?」
「風邪の時に見る夢だな」
星々が遠くで煌き幻想的な風景が広がる。
作り物では出せない迫力がそこにあった。
「この景色、AIに解析させて一致する銀河があるか調べよう」
「声が反響してるし空気あるんですね」
「音で敵が集まるのか……これは大変だな」
四人は必死になって敵を倒す。
そして、お待ちかね宝箱の発見。次々と駆け回り開けて行く。
「瓶か?」
「ポーションとかじゃないっすかね? ゲームあるあるの」
四人が順調にダンジョンを攻略中。
準備を整えてのアタックなので危な気がない。
「記憶の持越しが大きかったそうですよ?」
「なるほどな。秋里が異常なのではなく、皆あれだけの身体能力に成りえるのか」
「そう言えば武術を指南したとか」
「ええ、リキッドアーマーを借りると聞いた時はチンピラ狩りでもするのかと……その時は組織にスカウトしたら断られましたが」
「お、物々しい扉ですね」
いよいよ最後の戦いだ。
フルプレートメイルの兵隊、有り得ない大きさの巨人、最後に相応しい敵。
これ等を相手に誰一人として欠かさず勝利したのかと全員が感心する。
「ほほう」
倒れた女の子のピンチに駆け付け、流れを変えた一撃に目が釘付けになった。
「古いポリゴンゲーム染みた今の、ガキンチョが頭を撃ったら終わってません?」
「たらればだな。叫んで己を鼓舞していた余裕の無さ、追撃をキッチリやれただけマシだ。銃を撃つ戦闘スタイルで、巨人の一撃に教えた合気道でカウンターを取るその度胸は褒めてやりたい。あれはお前より強くなるぞ」
「おのれ生意気な。まあ夜の山じゃ確かに身のこなしは凄かったですね、熊と一緒の意見で癪ですが」
大型ディスプレイでは、ラスボスを倒した四人が互いの健闘を称え合っている。
「それなりに二人は秋里涼真と接していたな。端的に言ってどんな子でした?」
「なんです藪から棒に……そこら辺に居る無気力なガキンチョですよ? 女の子を助けたシーンは見直しましたが」
「特には。どれだけ追い込んでも根を上げないので教え甲斐がある若者、といったところですかね」
目だけ真剣に、後藤丈晴は二人を見ながら話し出す。
「彼、いや……アレは、少年期を米国で暮らしていた時期に、とあるAEDG事件に関わっている。悪魔崇拝集団が子供を攫って生け贄に……儀式を繰り返す大事件があったんだが───」
「ちょっ、ガキンチョは過去にも?」
「ある意味、だ。米国のAEDGに長官クラスしか閲覧の許可が下りないファイルが二つある。片方が件のソレ。もう片方は……その悪魔崇拝集団を、どうやってかは知らんが全貌を暴いて一人残らず殺して回った。自身に繋がる証拠を全て消し去りながらな」
それはあり得ない、のオンパレードだった。
どれだけ米国の全地球守護協会AEDGが捜査しても巧妙に痕跡が消されており、宛ら完全犯罪の難事件。一番大きな力を持った世界的大組織を相手に、どこの誰がバックアップして、何故少年にやらせたのか?
最終的に執念で秋里涼真へと辿り着けたのは、アメリカの長官マーク・ボウマンの力があってこそ。
「最高ランク、第一級AEDGの悪魔の少年。人間でAEDG指定にされた初の存在」
それとなく耳を傾けていた全員が自分の耳を疑った。
ファイルが未だに存在するのは協会の手で解決出来ていない、全貌が把握出来ていない事件───という事に他ならない。
「もう一度聞くぞ? どんな印象を受けた?」
土方大和は黙り込む。
改めて思い返してみても、やはりコレといったものが浮かばない。
しかし安倍美咲は違った。
「聞いた話に引っ張られてるかもしれませんが、今思えば嘘くさい感じ……微かな違和感が───」
「その嘘くさいっていうのは?」
「日常生活の中で、一人だけ役者が演じる人物が紛れ込んでるというか。今思えば四人を見てて、彼だけは……どこか作り物感があったかも?」




