025全地球守護協会AEDG超常対策室1
「話を聞かせろとは?……見たところ、あなた方は警察と違うようだが」
目の前の怪しい集団に城ヶ崎一夏が警戒心を抱く。
夜の山に不相応な格好もだが、様子を見ていたという発言が引っ掛かった。秋里涼真が気付かなければ茂みに隠れて監視を続けたと自白したに等しい。
不審な対応と言える。
「質問くらいしますよ。夜中の山に子供が居るのは変でしょ!」
「そちらこそ、夜中にボディーガードを引き連れて何故こんな場所に?」
男達に発言権は無いらしく、スーツ姿のバリキャリ女子に視線が集まる。
すると面倒くさそうな表情で視線を斜め上にして、ため息をついた。
この女、不測の事態には滅法弱い。
「あの子供達、銃以外にも刀剣類を所持しているようですが……」
男達の中で新人っぽい男が、フォローのつもりかスーツ姿の女に耳打ちした。
「知ってますよ! 銃口を向けられる前から───あ、銃刀法違反で現行犯逮捕だガキンチョども!」
「げ、抜いたままだった。どうしよ⁉」
咄嗟に銃を消す秋里涼真。
女子二人も、剣を背後へと隠す。鞘に入った赤黒い両刃の剣は、ショートソードなのでまだマシだが、ホブゴブリンのダンジョンボスソードは抜き身な上に刀身の長さもあって丸見えだ。予期せぬ遭遇で互いに精彩を欠いている。
双方共にグダグダだった。
「ちょ、今持ってた銃はどこに隠したんです? 大人しくこちらに渡しなさい!」
「日本で銃なんて、月の光の加減でそう見えただけでは? 仮に持ってても普通はモデルガンでしょ?」
「そ、そうだそうだー。秋里君が銃なんて持ってるわけないじゃん」
「あきさと、ですか。政府のデータベースで年齢と地区から絞れば特定は───」
片手で口を塞ぐ喜世川有栖、個人情報が謎の集団に流出した。
同時に分かった事もある。政府のデータベースにアクセスする権限を持っている集団らしい。
つまり、目の前の相手は政府に属する人達。
「あんたらは警察じゃねぇけど政府の職員か何か、そう考えていいか?」
「まあ、そんなところです。話が早いですね、さあ喋って貰いますよ、どうやって急に現れたんです‼ それに、その格好も───」
スーツ姿の女が喋り続けているのを無視して四人は顔を見合わせる。
どうやって急に現れたんですか、と言った。そして月が三つと言った喜世川有栖に、いつも通りの夜空を確認した三人。恐らく、その瞬間に何か起きている。兎洞雄之助が景色の変化に言及したのも関係があるはずだ。
四人は同じ結論に辿り着く。
「もしかして、転移した的やつじゃん?」
「広間が崩壊して全員が瓦礫と一緒に真っ逆さま、そこから落下中に光が───」
「そういや、あの変な光は秋里の腕から出てなかったか?」
秋里涼真に視線が集まる。
「俺? 俺は……文句言いまくってただけだよ?」
「うちがコア探そうなんて言わなきゃ……」
「喜世川さんは何も悪くないよ、悪いのはダンジョンだよ」
「なるほど、なるほど……」
声の方向に四人が振り向く。
いつの間にか音も無く忍び寄っていたバリキャリ女子。四人の背後に立ち会話を聞いていたのか、腕を組んで何度も頷いている。
目を開くと興味深そうに四人を眺めた。
「あなた達、偶然ここへ現れたんじゃないみたいですね。てっきり封鎖を突破して忍び込んだガキンチョと考えましたが、急に現れたのも錯覚じゃなかったと……」
ニコッと大人特有の笑顔をするバリキャリ女子。
面倒な仕事が呆気なく片付いた開放感から、ご機嫌な猫なで声でこう言った。
「四人は重要参考人として我々AEDG超常対策室が調書を取ります。拒否は不可能ですよ? 言っときますが国を跨ぐ大きな権限なんです」
強気な眼差しでセミロングの髪をかき上げた。
男達は端末機器で連絡をしている。さっきまでの張り詰めた空気がもう無い。
「……どうする?」
「AEDG超常対策室というのは聞いた記憶が無いな」
「政府の人間ではあんだろ?」
「悪の組織とかじゃないなら、話しちゃって良くない?」
四人は体験した出来事を要点だけ簡単に話す。
詳しい説明は後日となった。
「ダンジョン、ですか?……ん~、急に呼び出されて、予知が出たと張り込みした現場で聞けた真相なら信じるしかありませんね。まさか、あの人間消失事件が我々の案件だったとは───」
正式名称は、全地球守護協会AEDG。
人類の手に余る案件を表沙汰にせず秘密裏に国の枠組みを超えて共同で解決する事を目的とした組織。加盟各国がAEDG……つまりはAssociation of Earth Defense Guardianの理念によって、超常的な事件の対策と解決に協力する。
超常対策室は、この日本における協会の組織だ。
「おいガキンチョ、頭に装着したスマホは一度こちらで預かります」
「これは俺のじゃないので、持ち主の許可を取ってからにして下さい」
気になった喜世川有栖が質問する。
「うちのスマホ、どうする気なんですか?」
「録画データは我々で預かります。それ以外のデータを新品に入れて返却ですよ」
元はと言えば、記憶を持ち越せない喜世川有栖がダンジョンでの活動を知る為の撮影なので、記憶を持ったまま脱出した以上は渡してしまっても惜しくはない。
「それなら……いいですけど」
「SNSに投稿とかしたり、ハッキングで流出も困るんで必要な措置なんですよ? 現に、今ここら一帯は念の為の電波妨害をしてますからね。お、でかした新人!」
本当に新人だった男が電波遮断ケースを持って来た。
渡したスマホをケースの中へ納めると、バリキャリ女子は肩のバッグに入れる。
「あなた達が今まで超常対策室の存在を知らなかったのも、こうして色々と情報を規制していたからなんです。我々は優秀でしょ?」
「こっから俺達はどうなるんだ?」
「山の麓まで降りてからトレーラーの中で検査、その後自宅まで車で送りますよ。疲れてるんでしょう? あと数時間もすれば朝日が出ます、今日は学校も休みだしどうぞ寝てください。お昼の三時頃に迎えの車を出しますので、心配も不要です」
「山の麓って近いですか?」
携帯端末の地図によると、やや遠い場所。
疲れてはいるが検査もあるので歩いて行く時間が勿体ない‼
それだけ睡眠時間が減るのだ。
「飛んでたヘリは使えねーのか?」
「あれは救助用じゃないのでもう帰ってますし、呼び戻すと時間かかりますよ?」
「だったら俺達、走っていいですか? 距離的に数分で着くだろうし」
秋里涼真の発言に女は呆れた。
「数分で行けるわけないでしょうが!」
「いえ、秋里なら三分も要らないでしょう。私達の場合、八分は必要ですが」
超常対策室の職員全員が半信半疑な表情になった。
しかし、ダンジョンを踏破した今の四人ならそれくらい熟せる。
「そこまで言うのなら───」
話し合いの結果、バリキャリ女子が夜の山道ダッシュに同行する事になった。
職員の男達は別行動だ。
「なんで俺が……」
「うちのスキルは、多少は身軽になるってだけだし装備あるし」
「……兎洞君」
「お前なら指輪で速く走れるだろうが。やれ」
「秋里、くれぐれも失礼の無いようにな!」
バリキャリ女子と目が合う。
「私の名前は安倍美咲です。背負われるとスーツがダメになるので、お姫様抱っこで運んで下さい。はい!」
「わ、分かりました。俺は秋里涼真、じゃあ、その……失礼します」
出発した三人の小さな背中が遠くに見えている。
「いつの間に───確かに速いですね」
「行きます。口閉じてて下さい、死にますんで……」
「はい?」
三人を追って指輪の力をフルに使う。
既に安倍美咲の顔が嫌な予感で満ちていた。小さな頃からよく当たるのだ。凄いスピードであっという間に三人と並ぶと、そのまま追い抜き独走状態。
「何で追い抜いちゃうんですか⁉ 仲良く並んで走りなさいよ‼」
「大丈夫、大丈夫。それに、早く着いた方が得じゃないですか?」
だが、その先の下り坂で石に躓いてしまう秋里涼真。
秋里涼真と安倍美咲、二人の絶叫が夜の山に響き渡った。




