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022ダンジョン事件の終息と黒服集団2

「いよいよ巨人と勝負か……こっからが本番だな」



 叫ぶのを止め、ゆっくりとオーガが歩き出した。

 体の自由を奪う何らかの(くさび)から完全に解き放たれた事を意味する。

 ようやく俺の番だ───


 表情がそう物語っている!


 距離のある内に喜世川有栖は【聖女の祈り】のスキルを使った。

 三人に(あわ)い輝きが()(そそ)ぐ。


「で、正直うちらってオーガに勝てんの?」

「助かる。勝つ為の準備は秋里がした。ならば我々は勝つだけだ」

「肩も治ってんな、うっし。死にたくねぇなら戦うしかねぇぞ喜世川」

「気持ちで負けるなってチア部は応援でよく言ってるのに、らしくないよ」


「気持ち……うん、そーだね!」


 オーガへの恐れから、昔の気弱だった頃に戻っていた喜世川有栖。

 強くなれた、変われたと思っていても、弱い自分は今でも自分の中に居た。

 もっと強くなりたい───



「絶対にぃ~、オーガをぶっ飛ばすぞぉおおお!!!!!」

「「「おう!」」」



 既にバフは掛かっているので効果は無い。

 それでも、掛け声で四人の闘争心を燃え上がらせた意味がある。

 何かを感じ取ってオーガは走り出す。


 これが俺の間合いだ!


 そう言わんばかりの薙ぎ払う蹴りが四人を襲う。

 オーガの力強い足が(かま)のように空気を切り裂く。当たったら致命傷(ちめいしょう)に違いない、避けた四人の(そば)を通り過ぎる風切(かざき)り音がそれを証明していた。


「なんつうパワーとリーチの長さだ、うおッ⁉」


 蹴りを躱されようと次の攻撃で冷静に追い詰めてくる。

 見た目や行動で野蛮な印象しかなかったが、コンビネーション攻撃で渾身の一撃を常に狙ってくるオーガに危機感を募らせる四。力強く暴れるだけと甘く見ていたダンジョンボスの暴力には、知性に裏付けされた技の冴えがあった。

 異世界で亜人と呼ばれる種族においてオーガは戦闘種族だ。ゴブリンとは違う。


「この見た目で理詰めの格闘戦を仕掛けて来るとか反則だろ! うわぁ⁉」


 紙一重でオーガの全力パンチを躱すと、秋里涼真はショットガンを構えた。

 まずは負傷させてボスの強烈な攻撃頻度を低下させないと話が始まらない。肌が露出した部分をスラッグショットで狙い撃つ。しかし銃撃されてもオーガは声すら上げずにギロリ……と秋里涼真を睨むだけだ。

 撃たれた部分からは血が薄っすらと(にじ)み出ている。


「うそぉ~……」

「うちの番、隙ありィ!」


 横目で見ていた喜世川有栖が〈戦乙女〉のスキルを発動させて()ける。

 オーガの意識が()れている今、重力が軽減されたジャンプの勢いそのまま(かか)げた剣を振り下ろす。全力だった。しかし浅い……薄皮一枚を切り、血が(したた)る。

 肉を切った手応えではなかった。


「え゛───」


 スキルを切っても(いま)だ空中、もう一度落下エネルギーを乗せた渾身の斬撃!

 予想外の結果に虚を突かれようと一度のジャンプで二度の強烈な真向斬りを実現させた喜世川有栖。反撃を受けずに攻撃が通せたのには理由がある。


「オラァァア゛!」


 反対側でも兎洞雄之助が凄いスピードでオーガに急接近!

 スキルを使った移動と(ぜん)体重(たいじゅう)を乗せて放った右ストレートパンチにある。

 爆発にも似た打撃音を響かせてオーガの太ももを打った(こぶし)


 喜世川有栖からお願いのアイコンタクトを受け取っての見事なフォロー。


(はつ)戦闘(せんとう)でゴブリンが俺を怖がってた気持ちが分かったぜ。こりゃ怖いわ」



 兎洞雄之助はオーガの強靭(きょうじん)な肉体に(あき)れる。

 (ほめ)められたり(ほこ)れるものではないのだろうが、拳一つで今まで散々戦ってきた。

 日常での荒れた喧嘩の日々。


 最初の頃は負けそうになる事もあった。


 だが、何時からか勝つのが当たり前となり、次々と新しい敵が向こうの方からやって来る毎日。()きていた……始めは人を殴るのも、殴られるのも怖かったと薄っすら覚えている。でも必要な事だった。ガキ大将に妹が(から)まれていたから。


 喧嘩に勝つとガキ大将の兄貴がやって来た。

 その兄貴とやらは、こっちよりも年上で、ガタイもデカかった───

 でも俺が勝った。


 兎洞雄之助には勝つ必要があった。

 だから今まで勝ち続けてきた。目の前に居るオーガにも勝たなければいけない。



 この先も妹を守るのは、先に生まれた兄の役目だから。



(まるで鉄筋コンクリートの柱……それも分厚いゴムのタイヤで補強された怪物)


 学校の屋上で秋里涼真に負けたあの時、飽きていた道に先が開けた気がした。

 身の回りの暴力に、まだまだ先が見通せない道のりが出来上がった。

 目の前にオーガが居る。


「俺を見やがれッ‼」


 避けを意識したフットワークから殴る蹴るのラッシュに切り替える。

 兎洞雄之助に対してオーガは蹴りを放つ。しかし動作は大きい、続けて体を(ひね)りながらコンパクトなフックの打撃。その全てを躱す兎洞雄之助。喧嘩に明け暮れた日々が、オーガとの立ち回りで差となって現れる。

 オーガは〈格闘家〉のジョブと戦闘経験の記憶をダンジョンから与えられているボスであり最大の敵。だが実戦経験はとても少ない。


 反対側で喜世川有栖が、感謝のジェスチャーを兎洞雄之助にしながら離脱。

 その間も城ヶ崎一夏は必殺の魔法を狙い、気配を消して隙を(うかが)



「喜世川さんのフワフワジャンプは見ててハラハラした。銃撃の効果は薄いし」

「ジャンプしてからヤバってなったけど、うちは仲間のフォロー信じてたんで!」

「空中で反対側の俺に助けてアピール必死だったじゃねーか!」


 オーガは()って(たか)って攻撃されていく……そういう形での膠着(こうちゃく)状態。

 バラバラの方向から四人に翻弄(ほんろう)されるオーガ。(なた)(ひざ)をフルスイングされたり、顔への銃撃で目を狙われ、背後から切り掛かられて、真っ向から殴られる。

 多勢に無勢ではダンジョンボスと言えども、中々思うように戦えない。


 あれだけ居たホブゴブナイトや、頼れるゴブリンメイジは、もう居ないのだ。



 神々の仕掛けた横槍───

 それはダンジョンが世界の壁を越えて地球に到達(とうたつ)した後で(ほどこ)された。

 世界の決まり事に触れそうなギリギリで行われている干渉(かんしょう)は、四人がこの戦いに勝てるかどうかで一番のターニングポイントとなる。本物であれ偽物であれ、ボス部屋に入った場合は即座に全ての敵が動き出す。仮にこの戦闘がそうだったら四人の勝つ見込みはゼロに等しい。二つ目のジョブを渡すよう抗議して、まだ理不尽。

 記憶も選ばせて、ようやくクリア出来る者達が現れる。そういう(たぐい)の悪意。

 だから今回も放置していた異世界の神々に、地球の神々は激怒した。

 それらが実を結んで……ようやく今の接戦がある。



 オーガとの死闘(しとう)拮抗(きっこう)したまま数十分が経過(けいか)

 城ヶ崎一夏は常に狙い続けた。喜世川有栖の飛ばした光弾(【破邪の祈り】)を余裕を持って避けるオーガ相手に【精神統一】した【ファイヤーボール】を如何(いか)にしてぶつけるのか?

 移動したオーガは、中央広間の角を背に戦う警戒(けいかい)の取りようだ。


『デカいのに避けんな!』

『喜世川さん、今のはチョット……』


 ───(ゆえ)に、お願いブッパは甘えである。


全身鎧の者達(ホブゴブリン)へ一度使って見せた私は、他の三人以上に警戒(けいかい)されているな)


 隙を付き、気配を消しながら魔法を放とうとするが妨害されて中断。

 悩ましいのが【精神統一】は低コストでも【ファイヤーボール】は気軽なコストと言えない点。早々(そうそう)に撃てないので葛藤(かっとう)(つの)る。

 喜世川有栖には主力と言える剣があるが、(なた)は〈狩人〉のサブウェポン。

 だからオーガの意識を(そら)らす牽制(けんせい)にすらなりえない。


 状況が動くピースが欠けている……今はチャンスを待つ時!



「……そろそろかな」



 チャンスを待っていたのは秋里涼真も同じだ。

 長期戦の心理的負担は、連携する四人よりも孤立奮闘(こりつふんとう)するオーガの方が大きい。

 ただのポップするRPGの魔物(作り物の存在)というよりは、個が確立された仮初(かりそめ)の命を持つ者。


(ダンジョン探索中も散々見てきた。お前達だって疲れるんだよな?)


 オーガの片目がショットガンで撃ち抜かれた。

 朽ちた王の広間に響き渡る絶叫!



 今がその時だと、城ヶ崎一夏は必殺の魔法に取り掛かる。



 だが、オーガもこの時を待っていた───まずは一人目だ!!!!!

 魔法が間に合うか。

 巨人の一撃が先か。

 目まぐるしく状況が動く。


 敵の妨害に出た兎洞雄之助は、オーガの後ろ回し蹴りで何メートルも吹き飛ぶ。


 まだ【精神統一】した【ファイヤーボール】は、魔力を()り上げる最中(さいちゅう)

 喜世川有栖が〈戦乙女〉のスキルで仲間の元へ飛ぶように駆ける。

 オーガは、秋里涼真の銃撃を(もの)ともせずに拳を振り下ろす───


 破壊音が響き渡った!


 広間が陥没するオーガの一撃は駆け付けた仲間が間に合い、当たらなかった。

 放たれた【ファイヤーボール】が天井のシャンデリアに直撃して大爆発!

 割れた残骸が上から粉雪のように舞い散る。


「痛っ⁉」


 崩れ落ちた喜世川有栖。

 城ヶ崎一夏を助けた拍子(ひょうし)に足を(くじ)いていた。急には立てない。

 オーガが残虐な笑みを浮かべて拳を振り上げる───


 蹴られた兎洞雄之助は床を転がり、城ヶ崎一夏に取れる手立てがなかった。



「───俺が誰も死なせない。させて()まるかよッ!!!!!」

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