021ダンジョン事件の終息と黒服集団1
「いくら何でも、あれはデカ過ぎンだろッ‼」
遠く離れていようと筋肉質の大きな図体はよく目立つ。
三メートルを超えるオーガが身に纏う鎧は動きやすそうだ。金属製ではないが如何にもボス装備らしい上等な拵えで、城の堅牢さを連想させた。
武器は持たず巨体から繰り出す暴力のみで侵入者を蹂躙する見た目通りの怪物!
前列にフルプレートメイルで武装した八体のホブゴブリンが並ぶ。
それぞれ剣や槍を力強く両手で握って盾は所持していない姿から、鎧さえあれば十分だという驕りが透けて見えた。兜は、縦にガバガバの穴が空いた面頬部分から顔が丸見えなのでホブゴブリンだと一目で分かる。
その後ろには、杖を突く年老いた二体のゴブリンが潜んでいた。
見るからに魔法を使うメイジの風貌で油断ならない。
「あんなダンジョンボス倒すの無理っしょ……」
「クッ、我々でアレに勝てるのか?」
それでも諦めずに前へ進もうと、四人は勇気をかき集める。
最後の扉を開き、吸い込まれた先は、朽ちて瓦礫がいくつも転がる王の広間。
ここは異世界側のダンジョン最下層!
既に退路は無い。
ボス戦に浮足立つ仲間を落ち着かせようと、秋里涼真が声を上げた。
「まだ戦闘になってない。多分だけど、ここは何もしなければ安全なんだ」
一つ目のダンジョンボスを思い出す。
あの時は遠くからボスが近寄って来たから秋里涼真は即座に逃げた。
だが今回は違う。
こちらを睨みながら威嚇をしているだけ、その場から動こうとしていない。
(お預けを食らった犬みたいで不自然だ。何か理由があるはず───)
前回と今回の違いがどこにあるのかを考える。
扉を開けてボス部屋の中に入る時、急に吸い込まれた恐怖のあまり咄嗟に銃を握ったのを思い出す。
(ボス部屋でのスキル使用。それと敵に近寄らないと戦闘は始まらない、かな?)
こうしている間も戦闘状態に入っていないのが、何よりの証拠。
発言の続きを三人が待っている。
「俺達がスキルを発動させたり、近付くような戦闘の意思を見せないとボスは戦闘行為が出来ないんだと思う。そういうルールが仮にあって、縛られているとしたら今するべき行動は……休息だね!」
仮説を聞いて肩の力を抜く三人。
無限湧きする罠を発動させたので、さっきまで敵と戦い続けていたのだ。何故か先へ進む通路だけ通れるようになって逃げるようにボス部屋の扉を開けたばかり。休憩せずボスと戦わずとも、体力を回復して万全のコンディションで挑むべきだ。
そのついでに作戦の一つも練れば勝率は更に上がって、一石二鳥!
四人は、顔を見合わせて自分達の表情に余裕が生まれたのを実感する。
それに対して忌々しそうに侵入者を威嚇するだけのボス集団。
「そうだな。秋里の言う通り、我々には休憩が必要だろう」
「休むついでに今言うけど、ショットガンと同時に【みね撃ち】ってスキルも入手したんだ。銃撃のダメージを衝撃に変換して非殺傷化する世界で一番優しい銃撃」
神父のように微笑む秋里涼真。
しかし、三人の反応はいまいち悪かった。
「……使い道あんのか? そのスキル」
「全身鎧の連中に【みね撃ち】で嫌がらせの攻撃しようかなって」
「優しさはどこ行ったん⁉……ショットガンって映画のガチャガチャするやつ?」
銃に興味を示す喜世川有栖。
生徒会室に集められた時に秋里涼真のグロック17を見せられたのが切っ掛けで、寝る前にテレビで放映されていたガンアクション映画を視聴したのだ。
シリーズ化もされていて、ショットガンを撃つシーンは特に印象に残る。
「それであってるよ。パトカーから降りた警察官が持ってたりね。猟銃としては、鹿や猪に鳥、そして熊を撃ったり。それぞれ弾の種類があって───」
「その中で鎧ゴブリンに有効な弾は何かないのか、秋里?」
「熊撃ち用の一粒弾なら鎧越しでもダメージはありますけど……」
生徒会長の提案で、柔軟な思考が出来ていなかったと反省。
全身鎧や兜で防がれるからとスラッグ弾をチョイスしたのは安易だ。
頭の中に詰め込まれたショットシェルの知識を閲覧する。
(兜にある視界確保の隙間を撃ち抜くとして、パラベラムの弾でも通るか難しい。ライフルならまだしもハンドガンで精密射撃は……だからバードショットシェル)
ハンドガンの弾よりも一粒が小さいバックショットでも、大ペレット弾。
秋里涼真は小ペレット弾のバードショットを使うと決めた。
「視界確保の造りが簡素な部分に、数メートルの距離から撃ち込めば───」
その際には、跳弾が仲間に当たる危険性に注意が必要だ。
考えを整理していき三人へ視線を向けると、みんな覚悟の決まった顔付。
「どうするか決めたのだな秋里?」
「はい!」
十分に休んだ四人は、最後にチームプレイの作戦会議をする。
敵の魔法、味方の魔法の使いどころ、ショットガンの運用方法に巨人の警戒。
消耗していた魔力も既に満タンだ。
いよいよダンジョンボスとの戦いが始まる!
「絶対に全員生きて帰るぞー!」
「「「おう!」」」
喜世川有栖が〈戦乙女〉のスキルで味方にバフを施すと、敵が動き出した。
フルプレートメイル姿のホブゴブリンは、鎧が重いのか移動が遅い。足の遅さをカバーする為に八体全て横一列の陣形で壁のように進む。
後ろに隠れたゴブリンメイジ二体を魔法射程圏内まで送るのも仕事の内らしい。
「……オーガは動かねぇっぽいな」
「想定した中で一番ありがたい。作戦通り、生徒会長の大火力でお願いします」
(ホブゴブナイトが来るまでの間は、銃に魔石を喰わせられそうだ)
袋から拾い集めた魔石を取り出し秋里涼真と喜世川有栖が暇を潰す。
その前面に立ち、大声で威圧する兎洞雄之助にゴブリン達は気を取られていた。
近づいて来る敵を横目にスキルで気配を消しながら移動する城ヶ崎一夏。
更に【精神統一】で気配を消す力を上げつつベストポジションまで辿り着くと、特大【ファイヤーボール】を放った!
あらぬ方向から甲高い音を立てて飛んできた魔法がゴブリン達に炸裂する。
じっくり作戦を立てれば戦況はこうなって当然だ。接敵前に三体も倒されて二体が重症と危機的状況に杖を持ったメイジが取り乱す中、無傷なナイト三体は足並みも合わさずに突進しだした。鎧が重そうだ……剣を交える前に総崩れである。
様々な要素が噛み合っての大金星、これは幸先が良い。
この事態でもオーガ動かず。
「まだ奴が動かん今、畳み掛けるぞ!」
十秒のクールタイムに入った城ヶ崎一夏が檄を飛ばす。
前衛に置いていかれ焦った表情のゴブリンメイジ達が杖を構えるが、既に気配を消して去った後。やけになり遠くから三人の集まった方に魔法を向けた。
邪魔するべく走り寄って秋里涼真が銃撃しようとするが───
「ガアアアアア!!!!!」
オーガが足元に転がる瓦礫を持ち上げ、秋里涼真に投擲した。
ボーリングの玉ほどの大きな岩が空気を引き裂きながら一直線に飛んで来る。
上半身だけでも動ける状態になったので一球入魂に力を尽くす。
「うおぁっ、死ぬ! 当たったら死ぬ!」
指輪の力を借りて死に物狂いで躱していく。
それを眺めていたゴブリンメイジ達は魔法のターゲットを秋里涼真に変更。
邪悪な表情で顔を綻ばせた。
「やべー攻撃は任せたぞ」
「その速さで持ちこたえてくれ、秋里!」
「頑張れぇ~秋里君」
瓦礫と火の玉が交互に飛んでくる。
当たれば致命的、躱し続ける必死さに加虐心を煽られるゴブリンメイジ達。
生きたくて足掻く姿は、回避盾として存分に輝いた。
「おっま、絶対許さんからな! この皺くちゃゴブリンが!」
秋里涼真はキレた。
極限状態でゾーンに入り、回避のキレが一段と上がる。余裕が生まれ二丁拳銃で瞬く間にゴブリンメイジ達に報復を遂げる。
それを見てオーガが吠えた。
怒りに任せて瓦礫を投げようとしたが、もう投げられる物が無い───
それをじっと見ていた秋里涼真がニヤリと笑う。
仲間の方を見ると、三対五の不利で魔法を使う暇も無い膠着状態だ。
そこへ颯爽とショットガンで参戦する。
「怪物を倒すにはレミントンM870!」
鎧姿の背中を【みね撃ち】スラッグショットで銃撃すると勢い良く吹っ飛んだ。
秋里涼真に視線が集まる。
(こっちを見てる敵は、どれも十メートル以内だ)
顔面にバードショットを撃ち込むと、密集した弾が兜の面頬部分に入り込んだ。
いくつも弾かれ跳弾していたが一撃で倒す。一粒は小さくとも、強化され続けた〈ガンナー〉の銃で至近距離から顔面に食らえば、ホブゴブリンは耐えられない!
「はは、スゲーじゃねぇか!」
「助かった……うちら凄くヤバかったし」
三人は接近戦でヘトヘトだ。
城ヶ崎一夏は、肩で息を切らしている。だが秋里涼真が来た。
形勢が一気に傾き敵が次々と倒されていく。
「この防刃リキッドアーマーがなければ危うかった」
銃撃で転倒していた最後のホブゴブリンが兎洞雄之助の一撃で消える。
これで取り巻きは全て片付いた。
「残りはオーガのみ!」




