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020準備万全なダンジョン攻略4

「今度は市街地……遠くにある西洋風の城も階層の範囲か」



 美味しいナマズを狩り続けて、お腹いっぱいの四人。

 あれだけあったうめえ棒もナマズ料理の味付けに全部使い切った。始めは食べる為だったナマズ狩り、しかし経験値を大量に稼げると分かってからはレベル上げが目的に変わる。場違いな敵を倒すと効効率がいいのはゲームと一緒だ。


「〈求道者〉の【気配察知】でホブゴブリンを(とら)えたぜ!」


 殺気や敵意、相手の攻撃動作の起こりも察知するスキルは、索敵にも使える。


 兎洞雄之助の新スキルで早速(さっそく)敵を発見した四人が身構えた。

 古い建物が並ぶ市街地の真ん中で、装備の質が良くなったホブゴブリン達が鎧姿で続々と現れて剣を抜く。

 動きもこれまでとは別物で手強そうだ。



「ゴブリンをぶっ飛ばすぞー!」



 喜世川有栖が全員にバフを掛ける。

 まずは秋里涼真の銃撃で牽制(けんせい)、続いて兎洞雄之助が〈求道者〉のスキルで敵陣に突っ込んで追撃して倒す。例え敵に囲まれても〈格闘家〉の新スキル【鷹の目】で敵の攻撃を避ければいい。


 目の情報処理能力を上げる【鷹の目】は、視野が広がり動体視力と空間認識能力も強化されるパッシブスキルだ。

 

「今から【精神統一】で強化した【ファイヤーボール】を撃つぞ!」


 城ヶ崎一夏の呼びかけで仲間達が迅速(じんそく)避難(ひなん)した。

 通常の火球と違い、甲高い音を立てて飛翔する大きな火の玉が、ホブゴブリン達と周囲の建物も巻き込んで大爆発を引き起こす!


 五秒間だけ集中力を跳ね上げる〈狩人〉の新スキル【精神統一】は、低コストで弓を引く時に使う便利なスキルだが、この時に魔法スキルを使用すると魔力操作が爆発的に上昇して桁違いな威力にパワーアップする。

 一度使えば十秒のクールタイムを(よう)するが、必殺技を超えた超必殺技の一撃だ。


「音に釣られて集まって来たから、うちがパパっと倒しちゃうね!」


 喜世川有栖が〈戦乙女〉の新スキル【天馬疾駆】を発動して敵前(てきぜん)に降り立った。スキルの力で自分の重さの体感を三十%も軽くした上に、重力まで軽減されるので空中を舞うような動きが可能になる。

 機動性の増した立ち回りで、ホブゴブリンをバッサバッサと()ぎ倒していく。


 一体だけ仕留め損ない、瀕死のホブゴブリンが地面に倒れた。


「追撃のダイビングフットスタンプ‼」


 空中で膝を抱えて、両足を使ったストンピング。踏み付ける時に【天馬疾駆】を解除したトドメの一撃は、可愛らしさと真逆の威力である。


「イェイ! こっち終わりッ!」


 振り返れば、他の三人も戦闘を終えたところだった。

 階層を進み敵が強くなっても、レベル上げをした四人の強さは更にその上を()

 命をかけた戦いにも慣れてきた自覚をしながら、戦利品チェックに励む。



「ほれ、魔石を集めておいた」

「ありがとう。金属質の鎧を着たい人は居る?」

「はいはーい!」


 借りたスーツの上から装着が出来るかも───

 そこで喜世川有栖が挙手、新スキルの効果を考えれば適任かもしれない。

 しかしサイズが合わなかったので諦める。


「何かブカブカで無理……」


 次は兎洞雄之助に渡すが、思ったよりも重過ぎると放棄(ほうき)した。

 せっかくのドロップ品だが四人には鉄屑でしかない金属の鎧。


「敵が装備してるとウザくて、味方が手に入れても価値が無いって酷いな」

「うちが思ってたダンジョン探索と違う……魔石以外、ろくなの無いじゃん?」

「こうなりゃ家の中とかの宝箱でも探そうぜ」


 宝箱と聞いて、城ヶ崎一夏が()めてある鍵開けの指輪を()でる。


「例え罠が施されていても、私が安全に開けてやるからな!」



 四人は近くにある無事な一軒目のドアを開けた。

 日本の建築物と比べてレトロで、内装も西洋風レンガ造りだ。

 小さな明かり窓から光が射している。


「廃墟とまで言わんが、内部は殺風景で空き家同然だな」


 木製の机と簡素な椅子、ベッドは壁際に寄せて配置。これだけ。


「何かないかな? ベッドの下にお宝は……無いや」

「床に階段とかもねーのな」

「見る分には楽しいけど、ここハズレっしょ?」


 鍵開けの指輪を使いたい城ヶ崎一夏を先頭に、お宅訪問を繰り返す。

 武器屋なども探すが市街地に店の類は無さそうだ。


 四人は移動中に何度も襲われた。


 待ち伏せされた時だってある。

 森以外だと〈狩人〉の索敵はポンコツなので、ここでは兎洞雄之助が頼りだ。


「来たぜ……二時の方向から集団だ」


 例え敵が隠れて潜んでいようと【気配察知】で必ず見つける。

 死角からの投石も【肉体硬化】させた手で叩き落として盾役も(こな)す兎洞雄之助の存在は、三人にとって凄く心強い。

 四人は安全に市街地を調べて回った。



 そして、ようやく一つの宝箱を見つける!



 期待できるので最後に取っておいた役人用の大きな建物。

 その二階で発見した。


「やっとだな。城ヶ崎……出番だぜ?」

「私に任せろ!」


 胸の高鳴りを隠せない城ヶ崎一夏。

 学校では、お固いイメージのある雲の上の生徒会長だが、そんな彼女も年相応に一人の乙女なのだ。

 宝箱を前に興奮する事もある。


「うむ、毒ガスの罠だな!」

「「「ど、毒ガス⁉」」」


 見守っていた三人が不意に飛び出した一言で固まる。


「もう罠は外したぞ?」

「「「もう⁉」」」


 流石は完璧超人の生徒会長、城ヶ崎一夏の仕事は早かった。

 ガチャッと音を立てて宝箱を開ける。


(これは───何とも言えない高揚感(こうようかん)があるな)


 宝箱を探して、罠の特定と解除という一連の作業とスリル。そして財宝の確認、斥候系技能を持つ者を病み付きにさせる危険な世界だ。

 中には宝箱を自作して、数年後に自分で罠を解除するのが趣味になる者も居る。


「ん? 何だこれは、見慣れぬ物が入っている……」


 女子達は、それが何なのか気付けなかった。

 だが秋里涼真には馴染み深い物。


 身を乗り出して掴み取ると、元気良く叫ぶ。


「フライパン!」


 それはフライパンの取っ手部分。

 持ち主のオーダーに反応した取っ手から金属が生えて、料理で使うフライパンになった。鍵開けの指輪と同じ仕組みだ。

 彼は今、少年のように目を輝かせている。


「あー、それな!」

「毎日料理してるから俺は直ぐ分かったよ」

「むむ、マウントを取るとは感心せんな……」

「何でさ⁉ 別に取ってないですよ生徒会長」


 鍋だって取っ手から生やせる。

 蓋の部分は地球に無い透明な金属製、とても不思議で夢のキッチンツールだ。

 もう理屈が分かっているので次々と料理道具を試していく。


「……秋里君、何で一々叫ぶん?」

「頭の中でイメージしやすいから。後は、気分の問題!」


 取っ手の先が叫ぶ(たび)に変化する。


「武器にはなんねーのか?」

「武器ってよりは……刃物系が駄目認定っぽい」


 更に色々と秋里涼真が試す。

 他の三人が欲しがらなかったので、不思議な取っ手は秋里涼真のものになった。


「まな板やBBQセットにも変化可能、これは一生の宝物さ」


 こうして市街地の探索が全て終わる。

 残る場所は、遠くに(そび)え立つ西洋風の巨大な城のみ!

 雑魚(ざこ)蹴散(けち)らしながら四人は進む。







「いよいよか、正面のデカい門から突入だな」

「何か兵士とか居ない感じ? これ楽勝じゃね?」


 城の内部は大型ホテルの構造に近い。

 敵とのエンカウント率が上昇する事もなく、今まで通りの探索をする。

 これでは城のテーマパークを楽しんだようなものだ。


 残るは、セントラルホール先にある王の広間のみ。


「市街地でも感じたけど、うちら攻略スピード早くなってね?」

「腕の生えたナマズで散々レベリングしたおかげ───」



 カチッ!



「……今、カチッて言った?」


 突如(とつじょ)けたたましい音が響き、周囲の扉が金属の壁で閉ざされてしまう。

 四人は広間に閉じ込められた。


「罠に気付けず、済まない……」

「そんな、生徒会長が〈狩人〉の力で罠を見抜いてたから今まで無事なんです」

「急に早口⁉ まあ、今のは踏んだ秋里君が悪いっしょ?」


 喜世川有栖は、秋里涼真の方を向いてジト目で言った。


「はい。俺が悪かったです、ごめんなさい」

「おい、床に妙な陣が浮かんで来やが───敵だッ‼」


 周囲を警戒していた兎洞雄之助が叫ぶ。

 広間の床に浮かび上がった複数の魔法陣から、次々と武装した敵が現れる。

 まるで湧き水のようだ。



「手当たり次第ぶっ倒すぞー。おー!!!」



 閉じ込められた以上は戦うしかない。

 早速バフを掛けて先の見えぬ戦いに身を投じた四人。臨機応変に立ち回り魔石を銃に喰わせながら秋里涼真が戦っていると、心臓が強く鼓動した。


「レベルが上がって新しい俺の銃───これがショットガン!」


 レミントンM870を構える。

 ポンプアクション式の傑作(けっさく)散弾銃だ。十二ゲージ(約18.5mm)の口径で様々なショットシェルが撃てる。もう熊だってもう怖くない。


「このブレネキスラッグ弾で無限湧きを殲滅(せんめつ)してやる!」

「おい、王の広間に行く道にあった金属の壁が砕けた。急いで避難(ひなん)すんぞ!」

「えっ⁉」



 遠ざかる三人の後ろ姿を二度見する秋里涼真。

 うめえ棒を入れていた袋に急いで魔石を拾い集めると、後に続いた。

 それを敵の集団が追う。


殿(しんがり)は俺のショットガンに任せて!」


 ゲームみたいに弾がバラけず驚く秋里涼真。

 ショットガンの銃声をバックに、三人は走り続けた。

 しばらくすると大きな扉が見えてくる。



「あれは……階段ではなく、扉だ!」



 一つ目のダンジョンにもあった、ボス部屋への扉。

 秋里涼真も追い付いて、扉の前に全員が立つ。


「考えている暇はない、行くぞ?」


 大量に追ってきた鎧姿の敵が迫る!

 四人は顔を見合わせると、全員で扉を押し開けた。



 その先で待ち構えていたのは、ホブゴブナイトが八体、ゴブリンメイジが二体。

 大勢の取り巻き達よりも、一番目立つ……ダンジョンボスの巨大なオーガ。


 ───最後の戦いが始まる。

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