019準備万全なダンジョン攻略3
「ここは公園か? 木や草花が人の手で管理されたように見事だな」
穏やかな趣のある美しい庭園に降り立つ。
上の階層で見た山麓も素晴らしかったが、この階は持て成す意思を感じさせた。
雑草や無駄な枝なども一つとして見当たらない。
「ここ雰囲気いいじゃん!」
「……罠じゃねーだろうな?」
美しい花が規則的に並んで優雅に咲き誇っている。
カラフルな石で舗装された道は、ダンジョンと言うよりも観光地だ。
気になって花を調べた城ヶ崎一夏。
(ふむ、魔力視で見たところ維持管理は魔力を活用しているのか)
一つ目よりも二つ目のダンジョンの方が漂う魔力は多い。
内装のバリエーションが多種多様なのも、保有魔力の量が関係している。
「……ダンジョンにとって魔力は運転資金なのだろうな」
年月を重ねてダンジョンは育つ。
その成長過程で魔力を溜め込んでいくのだ。
「ここでは余裕のある探索をしてぇもんだぜ」
「だよね! 宇宙みたいなのはマジ無理……あれ、秋里君は?」
二人の周りに秋里涼真だけが居なかった。
見回していると、遠くの方から声がする。
「ここ、水路があってー、壁の代わりに区切られてるっぽいよぉ~」
規模も立派で十メートルは幅がある。
長閑な水路は、ゆったりと水面が流れて綺麗なのに底は見通せない。
とても深そうだ───
「水底を覗いてると背筋がゾクゾクする……何か出て来そう」
「居た! 秋里君、スマホのバッテリーそろそろ交換しよ」
「そういや装着してたっけ、忘れてたよ喜世川さん」
二人の交換作業は直ぐに終わった。
「残り十%とかマジヤバっしょ」
「スマホの保存容量とかは大丈夫?」
「これ最新機種で一番高いのだし、余裕!」
「ああ、今やってるCMのやつか~」
水路に興味を持った喜世川有栖が水底を覗き込んだ。
水は綺麗だが……嫌な感じがする。
「何か怖っ‼ こんなとこ早く離れて向こう行こ!」
「うん」
「…………」
仲良く走って行く。
水面へ接近していた存在は、そんな二人を静かに見送った。
今回は間に合わなかったので仕方ない。
また食べたい───
影は残念に思いながら水底へと沈んでいった。
◆
「どしたん? そんな、だら~っとして」
「ゴブリンが近くに居ねぇみたいだし、城ヶ崎と話してた」
「うむ、索敵したが敵は少ない。ここなら丁度いいと思うのだが……」
リラックスムードで出迎えた城ヶ崎一夏と兎洞雄之助が提案する。
この階層は敵が少なそうだし、食事休憩にはピッタリだと。
「いいね。おにぎりと飲み物、みんなの分を今出すよ」
おにぎりを頬張った四人の緊張が解けていく。
死と隣り合わせの探索において、食事はメンタルのケアにも繋がる息抜きだ。
パフォーマンスの維持の為にも疎かにしてはならない。
「うめえ棒の明太子味、みんなもデザートにどう?」
「手首に結んでた袋のやつ? 食べる食べる」
うめえ棒を食べながら四人は世間話に花を咲かせた。
「寝る前のニュースで行方不明者の報道してたよ。被害者は増え続けてるみたい」
「戦えねぇ奴も居るだろうにな。胸糞悪いぜ」
「我々がダンジョンをどうにか出来たらいいのだが……」
喜世川有栖は一人だけ硬い表情だ。
階層を進み、最奥のボスを倒しても日常へ帰れる確証は無い。
だが、今は希望を信じて行動する勇気がある!
「うちらがこの事件を終息させたら、怖いのも被害者も、全部解決じゃん?」
恐怖に立ち止まっても碌な末路を辿らない。だったら───
「うちら四人でやろうよ。準備万全だし余裕っしょ‼」
「……喜世川さんには救われるなぁ」
秋里涼真は上の階層で、山に居るかもしれない被害者を探すよりも三人の安全を優先した。そこに負い目があったが、一番大事なのは事件を解決して新たな被害者を無くす事だ。彼女の言葉に背中を押された気がした。
「秋里君?」
「みんなで頑張ろう!」
城ヶ崎一夏と兎洞雄之助が二人に微笑んだ。
励ます強い意志は、人の心を揺さぶる。
「俺達でやっちまうか」
「うむ、我々で成そう」
◆
この階層は、あまり敵と出会わない。
食事休憩も終わって探索していると喜世川有栖が宝箱を発見した。
しかし問題もある。
「向こう岸だな……橋とかねーのか?」
「ちょっと見てくるよ」
凄い速度で曲がり角まで行って確認する秋里涼真。
橋の有無は、区画的に目視だけで行える。
「……無いっぽい。ここと反対側に橋があるんだと思う」
「これ向こうまで泳いでよじ登れねぇか? 何なら俺がジャンプして───」
「絶対ダメだって、マジ嫌な感じがするから……何か居そうじゃん‼」
四人は話し合い、あの宝箱は放置に決めた。
目視で水底が見えない危険性にリスクとリターンが釣り合わない。
(宝よりも、命を大事に!)
気を取り直して探索を再開。
戦闘でも苦戦せず、この階層は踏破するのが簡単だった。
階段も発見しているので意見を言い合う。
「……やっぱ気になるし、戻ろっか?」
この階では、まだ宝箱を一つも開けていない。
宝箱の敷地に渡る橋は反対側にも無く、歩いて行けない謎の場所である。
四人は道を引き返しながら話す。
「新しく手に入れた〈狩人〉のスキルは【魔物の解体知識】と言って、どう捌けばいいのか自然に分かるものだ」
「クロマグロを捌けるようになる的な?」
「敵は倒すと消えちゃうけど───」
雑談しながら宝箱が見える地点に到着。
改めて見ても、やはり泳ぐ以外に方法は無さそうだ。
「やっぱ無理ゲー?」
「見えていても開けに行けないか……泳ぐのも危険ではどうしようもあるまい」
そこへ偶然にも一匹のゴブリンが通りかる。
魔物はこちらに気づいていない、群れからはぐれた個体だろうか?
「良いこと思いついたかも!」
秋里涼真は、ゴブリンの足元へ銃弾を撃ち込んだ。
こちらへ殺意全開でやって来る様子に満足すると、銃を消して素手で構える。
「あ、お前もしかして……」
切りかかった粗末な刃物を叩き落とされたゴブリンは、秋里涼真の流れるような所作によって水路のド真ん中まで空を飛び、静かな水面に豪快な水飛沫を立てた!
「秋里君、流石にそれは……ちょっと引く」
溺れまいと必死なゴブリン。
どうやら水泳の文化は無いらしい。
「でもこれで安全かどうか分かるよ」
───四人が見ていると、水底が身動ぎしたように揺らめいた。
「……今、おっきな影が動いた気がするんですけど⁉」
「何か居るぞ! 何時でも離れる用意しとけ!」
それは水底から大口を開けて、ゆっくりとゴブリンに接近する。
「うわっ、無理無理無理無理ィ!!!!!」
喜世川有栖が絶叫しながら逃げ出す。
とても大きな魚の出現に、顔を引きつらせて固まる兎洞雄之助。
城ヶ崎一夏が思い当たる名を叫んだ。
「恐らくナマズだ!」
暴れていたのが功を奏してゴブリンは食べられずに済んだ。
沈まないように、食われないように、半狂乱のゴブリン。
「避けたァ!」
秋里涼真が思わずガッツポーズした瞬間───
ザッパアアアアァァン!!!!!
ナマズと同じ色の腕が水面を突き破った!
その手に捕まったゴブリンが、ナマズの口に放り込まれる。
「「「……え?」」」
「この魚、腕が生えてっぞ⁉」
ナマズ? の胴体には腕があった。
ギョロッとした目のナマズと見つめ合う。秋里涼真が息を呑むと、それを合図に二本の腕が転落防止の柵に伸びて……力強く掴んだ。
登って来ようとしている───この陸地にッ‼
「いいいぃぃやああぁ!!!」
遠くで悲鳴を上げている喜世川有栖と退避済みの三人を追って、異形のナマズが全貌を現した。水中だと恐ろしい腕は、陸地を歩く足の役割も果たすらしい。
「デカ過ぎンだろ⁉」
「ジンベイザメより大きい……けど動き遅いようだし、陸地じゃクソ雑魚かも?」
敵がデカ過ぎるのか460Rowland弾の銃撃でも火力不足で、効果はイマイチだ。
城ヶ崎一夏が叫ぶ。
「喜世川! ナマズの弱点が【魔物の解体知識】で分かった。こめかみを狙え!」
「りょ! ここから【破邪の祈り】の光弾でノックアウトしてやんよ!」
這い寄るナマズの怪物は、火と光の玉によって討伐された。
弱点も見破れる〈狩人〉のスキル【魔物の解体知識】大活躍である。
銃やパンチでは分厚い体皮に効果が薄く、女子二人が大活躍だ。
「スゲー威力だな……」
「二人とも格好良かったよ必殺の魔法」
向こう岸の宝箱については、無視して進むで全会一致。
「水中だと掴まれちゃうからね……」
「あ! スーパーで売ってる白身のパックが落ちてるじゃん?」
魔石と白身のパックを渡された秋里涼真。
値札のシールが貼られてないだけで、生鮮食品の売り物そのまんま。
「大きい切れ身……何故ダンジョンでドロップ?」
果たして、これは食べて大丈夫なのか?……四人は話し合った。
そして議論の結果、おにぎり数個では物足りないと結論を出す。
だが、問題もある。
「で、どうやって調理するん?」
「それは───」
花壇のタイルを喜世川有栖が浄化し、城ヶ崎一夏が炎で熱した上に、考えた物を出せる鍵マークの指輪で白身を四等分、明太子味うめえ棒で味付けして、その袋を再利用して手に持って食べた。
じっくりと高温のタイルで焼いた簡素な料理だ。
「「「「美ッ味ッ!」」」」
どんな高級魚よりも美味かった。
あまりの美味さに、秋里涼真が興奮している。
「すげーもん食った」
「宝箱は放置として、このまま……次の階層に行く?」
「「「「ゴブリンを水路のド真ん中に投げ飛ばす!」」」」




