表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/48

019準備万全なダンジョン攻略3

「ここは公園か? 木や草花が人の手で管理されたように見事だな」



 穏やかな(おもむき)のある美しい庭園(ていえん)に降り立つ。

 上の階層で見た山麓(さんろく)も素晴らしかったが、この階は持て成す意思を感じさせた。

 雑草や無駄な枝なども一つとして見当たらない。


「ここ雰囲気いいじゃん!」

「……罠じゃねーだろうな?」


 美しい花が規則的に並んで優雅に咲き誇っている。

 カラフルな石で舗装された道は、ダンジョンと言うよりも観光地だ。

 気になって花を調べた城ヶ崎一夏。


(ふむ、魔力視で見たところ維持管理は魔力を活用しているのか)


 一つ目よりも二つ目のダンジョンの方が漂う魔力は多い。

 内装のバリエーションが多種多様なのも、保有魔力の量が関係している。


「……ダンジョンにとって魔力は運転資金なのだろうな」


 年月を重ねてダンジョンは育つ。

 その成長過程で魔力を溜め込んでいくのだ。


「ここでは余裕のある探索をしてぇもんだぜ」

「だよね! 宇宙みたいなのはマジ無理……あれ、秋里君は?」


 二人の周りに秋里涼真だけが居なかった。

 見回していると、遠くの方から声がする。



「ここ、水路があってー、壁の代わりに区切られてるっぽいよぉ~」


 規模も立派で十メートルは幅がある。

 長閑(のどか)な水路は、ゆったりと水面が流れて綺麗なのに底は見通せない。

 とても深そうだ───



「水底を覗いてると背筋がゾクゾクする……何か出て来そう」

「居た! 秋里君、スマホのバッテリーそろそろ交換しよ」

「そういや装着してたっけ、忘れてたよ喜世川さん」


 二人の交換作業は直ぐに終わった。


「残り十%とかマジヤバっしょ」

「スマホの保存容量とかは大丈夫?」

「これ最新機種で一番高いのだし、余裕!」

「ああ、今やってるCMのやつか~」


 水路に興味を持った喜世川有栖が水底を覗き込んだ。

 水は綺麗だが……嫌な感じがする。


「何か怖っ‼ こんなとこ早く離れて向こう()こ!」

「うん」

「…………」


 仲良く走って行く。

 水面へ接近していた存在は、そんな二人を静かに見送った。

 今回は間に合わなかったので仕方ない。


 また食べたい───


 影は残念に思いながら水底へと沈んでいった。







「どしたん? そんな、だら~っとして」

「ゴブリンが近くに居ねぇみたいだし、城ヶ崎と話してた」

「うむ、索敵したが敵は少ない。ここなら丁度いいと思うのだが……」


 リラックスムードで出迎えた城ヶ崎一夏と兎洞雄之助が提案する。

 この階層は敵が少なそうだし、食事休憩にはピッタリだと。


「いいね。おにぎりと飲み物、みんなの分を今出すよ」



 おにぎりを頬張(ほおば)った四人の緊張が解けていく。

 死と隣り合わせの探索において、食事はメンタルのケアにも繋がる息抜きだ。

 パフォーマンスの維持の為にも(おろそ)かにしてはならない。



「うめえ棒の明太子味、みんなもデザートにどう?」

「手首に結んでた袋のやつ? 食べる食べる」


 うめえ棒を食べながら四人は世間話に花を咲かせた。


「寝る前のニュースで行方不明者の報道してたよ。被害者は増え続けてるみたい」

「戦えねぇ奴も居るだろうにな。胸糞悪いぜ」

「我々がダンジョンをどうにか出来たらいいのだが……」


 喜世川有栖は一人だけ硬い表情だ。

 階層を進み、最奥のボスを倒しても日常へ帰れる確証は無い。

 だが、今は希望を信じて行動する勇気がある!


「うちらがこの事件を終息させたら、怖いのも被害者も、全部解決じゃん?」


 恐怖に立ち止まっても(ろく)な末路を辿(たど)らない。だったら───


「うちら四人でやろうよ。準備万全だし余裕っしょ‼」

「……喜世川さんには救われるなぁ」


 秋里涼真は上の階層で、山に居るかもしれない被害者を探すよりも三人の安全を優先した。そこに負い目があったが、一番大事なのは事件を解決して新たな被害者を無くす事だ。彼女の言葉に背中を押された気がした。


「秋里君?」

「みんなで頑張ろう!」


 城ヶ崎一夏と兎洞雄之助が二人に微笑んだ。

 励ます強い意志は、人の心を揺さぶる。


「俺達でやっちまうか」

「うむ、我々で成そう」







 この階層は、あまり敵と出会わない。

 食事休憩も終わって探索していると喜世川有栖が宝箱を発見した。

 しかし問題もある。


「向こう岸だな……橋とかねーのか?」

「ちょっと見てくるよ」


 凄い速度で曲がり角まで行って確認する秋里涼真。

 橋の有無は、区画的に目視だけで行える。


「……無いっぽい。ここと反対側に橋があるんだと思う」

「これ向こうまで泳いでよじ登れねぇか? 何なら俺がジャンプして───」

「絶対ダメだって、マジ嫌な感じがするから……何か居そうじゃん‼」


 四人は話し合い、あの宝箱は放置に決めた。

 目視で水底が見えない危険性にリスクとリターンが釣り合わない。


(宝よりも、命を大事に!)


 気を取り直して探索を再開。

 戦闘でも苦戦せず、この階層は踏破するのが簡単だった。

 階段も発見しているので意見を言い合う。



「……やっぱ気になるし、戻ろっか?」



 この階では、まだ宝箱を一つも開けていない。

 宝箱の敷地に渡る橋は反対側にも無く、歩いて行けない謎の場所である。

 四人は道を引き返しながら話す。


「新しく手に入れた〈狩人〉のスキルは【魔物の解体知識】と言って、どう捌けばいいのか自然に分かるものだ」

「クロマグロを捌けるようになる的な?」

「敵は倒すと消えちゃうけど───」


 雑談しながら宝箱が見える地点に到着。

 改めて見ても、やはり泳ぐ以外に方法は無さそうだ。


「やっぱ無理ゲー?」

「見えていても開けに行けないか……泳ぐのも危険ではどうしようもあるまい」



 そこへ偶然にも一匹のゴブリンが通りかる。

 魔物はこちらに気づいていない、群れからはぐれた個体だろうか?



「良いこと思いついたかも!」


 秋里涼真は、ゴブリンの足元へ銃弾を撃ち込んだ。

 こちらへ殺意全開でやって来る様子に満足すると、銃を消して素手で構える。


「あ、お前もしかして……」


 切りかかった粗末な刃物を叩き落とされたゴブリンは、秋里涼真の流れるような所作(しょさ)によって水路のド真ん中まで空を飛び、静かな水面(みなも)に豪快な水飛沫(みずしぶき)を立てた!


「秋里君、流石にそれは……ちょっと引く」


 溺れまいと必死なゴブリン。

 どうやら水泳の文化は無いらしい。


「でもこれで安全かどうか分かるよ」


 ───四人が見ていると、水底が身動(みじろ)ぎしたように()らめいた。


「……今、おっきな影が動いた気がするんですけど⁉」

「何か居るぞ! 何時でも離れる用意しとけ!」


 それは水底から大口を開けて、ゆっくりとゴブリンに接近する。



「うわっ、無理無理無理無理ィ!!!!!」



 喜世川有栖が絶叫しながら逃げ出す。

 とても大きな魚の出現に、顔を引きつらせて固まる兎洞雄之助。

 城ヶ崎一夏が思い当たる名を叫んだ。


「恐らくナマズだ!」


 暴れていたのが功を奏してゴブリンは食べられずに済んだ。

 沈まないように、食われないように、半狂乱のゴブリン。


「避けたァ!」


 秋里涼真が思わずガッツポーズした瞬間───



 ザッパアアアアァァン!!!!!



 ナマズと同じ色の腕が水面を突き破った!

 その手に捕まったゴブリンが、ナマズの口に放り込まれる。


「「「……え?」」」

「この魚、腕が生えてっぞ⁉」


 ナマズ? の胴体には腕があった。

 ギョロッとした目のナマズと見つめ合う。秋里涼真が息を呑むと、それを合図に二本の腕が転落防止の(さく)に伸びて……力強く(つか)んだ。

 登って来ようとしている───この陸地にッ‼


「いいいぃぃやああぁ!!!」


 遠くで悲鳴を上げている喜世川有栖と退避済みの三人を追って、異形のナマズが全貌を現した。水中だと恐ろしい腕は、陸地を歩く足の役割も果たすらしい。


「デカ過ぎンだろ⁉」

「ジンベイザメより大きい……けど動き遅いようだし、陸地じゃクソ雑魚かも?」


 敵がデカ過ぎるのか460Rowland弾の銃撃でも火力不足で、効果はイマイチだ。

 城ヶ崎一夏が叫ぶ。



「喜世川! ナマズの弱点が【魔物の解体知識】で分かった。こめかみを狙え!」

「りょ! ここから【破邪の祈り】の光弾でノックアウトしてやんよ!」



 這い寄るナマズの怪物は、火と光の玉によって討伐された。

 弱点も見破れる〈狩人〉のスキル【魔物の解体知識】大活躍である。

 銃やパンチでは分厚い体皮に効果が薄く、女子二人が大活躍だ。


「スゲー威力だな……」

「二人とも格好良かったよ必殺の魔法」


 向こう岸の宝箱については、無視して進むで全会一致。


「水中だと掴まれちゃうからね……」

「あ! スーパーで売ってる白身のパックが落ちてるじゃん?」


 魔石と白身のパックを渡された秋里涼真。

 値札のシールが貼られてないだけで、生鮮食品の売り物そのまんま。


「大きい切れ身……何故ダンジョンでドロップ?」


 果たして、これは食べて大丈夫なのか?……四人は話し合った。

 そして議論の結果、おにぎり数個では物足りないと結論を出す。


 だが、問題もある。


「で、どうやって調理するん?」

「それは───」


 花壇のタイルを喜世川有栖が浄化し、城ヶ崎一夏が炎で熱した上に、考えた物を出せる鍵マークの指輪で白身を四等分、明太子味うめえ棒で味付けして、その袋を再利用して手に持って食べた。

 じっくりと高温のタイルで焼いた簡素な料理だ。



「「「「美ッ味ッ!」」」」



 どんな高級魚よりも美味かった。

 あまりの美味さに、秋里涼真が興奮している。


「すげーもん食った」

「宝箱は放置として、このまま……次の階層に行く?」



「「「「ゴブリンを水路のド真ん中に投げ飛ばす!」」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ