017準備万全なダンジョン攻略1
「うおっ⁉ 心臓に悪いな、この仕組み」
寝入った瞬間にダンジョン内! みんなが目の前に居る。
夜も遅くに公園から帰った秋里涼真は、風呂に入ってベッドに一直線。
良い運動の後だったので寝入るのも早かった。
「いえーい! 色々ありがと秋里君! この防具、マジ安心感ヤバいから!」
「これで芋ジャージも卒業か。戦闘が楽になって助かるぜ……」
「みんな靴は用意したな? お手柄だぞ、秋里!」
持ち込んだ靴を履いていく。
ダンジョンにゴミは落ちてなくても履かずに走れば足の裏が痛くなる。
靴は、現代人にとって必須アイテムだ。
このダンジョンは、記憶を持って行き来する力がなければ攻略が詰みかねない。
「その手首にぶら下げた袋って何なん?」
「ただの駄菓子、持ち込み方法を試してみた。肝心の荷物は、寝る時に身に付けたリュックサックで、他のは手首に紐を結んだ袋だけ持って来たみたい。この方法で荷物を持ち込めるなら寝る時が楽になる」
袋の中には明太子味のうめえ棒がギッシリと入っている。
秋里涼真が小さな頃から好きな駄菓子で、アメリカ在住時にも食べていた。
「へぇ~、うちも私物なら持ち込んだのあるよ。ジャーン!」
スマホを取り出す喜世川有栖。
「え、何で?」
「やっぱ、ダンジョンの事が気になるじゃん? スマホで撮影して持ち帰れば記憶が無くても大丈夫って、閃いちゃったわけ!」
予備のバッテリーを三つも持ち込む念の入れよう。
理解不能な数々の出来事にはダンジョンが関係していた。そう聞かされた当初は複雑な心境だったものの、家に帰ってからダンジョンの事が気になり知る方法をずっと考えていた。
これは秋里涼真から真実を聞いて心理的に余裕が出来たのも大きい。
───まるで子供の頃に読んだファンタジー。
聖女の力を手に入れたと聞いて、喜世川有栖は不謹慎だが嬉しかった。
一緒に危険に立ち向かう仲間達も頼もしい。とっても強いと有名なヤンキーと、文武両道の生徒会長。そして、教室では目立たないタイプのクラスメイト。
そんなクラスメイトの秋里君が、今回の万全な準備を実現させた。
手から銃が出せる彼は信じられない身体能力を見せ、ヤンキーに絡まれた女の子を救い、ダンジョン内の記憶を持たない仲間を集めて説明と説得をやり遂げる。
(うちは、こっちに引っ越してから引っ込み思案だった自分を変えた。本を読んでばかりな子供の頃と違って、今じゃ誰かを応援出来る自分にも成れた)
このダンジョンは自分を更に磨く為の試練だと、喜世川有栖は考える。
「だから、これを使って向こうの自分に見せたげるの!」
「スマホの撮影なら記憶が無くても出来事を共有可能か。喜世川さん冴えてる‼」
城ヶ崎一夏と兎洞雄之助も称賛した。
「やるじゃねーか、でも撮影どうすんだ?」
「接近戦やらないの秋里君だけだし、こっち来て」
「だったら少し時間をくれねーか。俺と戦え秋里、屋上でのリベンジだ」
兎洞雄之助は自分の強さを確かめたかった。
屋上での敗北と、こちら側での勝敗によって己の中で納得が欲しい。
「え、今から探索っしょ⁉」
「何を馬鹿な───」
「いいよ?」
昨日の一日で種族ヤンキーに詳しくなった秋里涼真は、すんなり了承。
「だけど一戦だけ。銃は無し、スキルありの喧嘩ならだけど」
女子の見守る中こうして納得を懸けた勝負が始まった。
攻撃を仕掛けた兎洞雄之助、スキルによる疾走から城ヶ崎家で習った足さばきを使って、秋里涼真の背後に回り込む───文字通りの屋上リベンジ。
対して、構えを崩さぬ秋里涼真。
「今度は勝つ!」
兎洞雄之助の頬を風が撫でる。
ノールックで秋里涼真が背後からの攻撃を掴んで、投げ飛ばす‼
「一本ッ!」
通る声で城ヶ崎一夏が言うと同時に、ドサッとダンジョンの床に落ちた。
「ガハッ⁉」
「何今の?……ちょーカッコイイんですけど!」
「秋里、今の良い動きはどうやったのだ?」
「風です。指輪で周囲を風で満たし動きを把握する。背中に目を付けました」
夜の公園で闘う内に編み出していた感知技術。
「クソッ、もう一回───」
「はいはい秋里君こっち来て~」
余計に納得出来なくなった兎洞雄之助。
レベルが低い内ならジョブによる身体能力に差も少なく、秋里涼真の方がレベルは高かった。何より昨日の夜に実践訓練を積んだのが大きい。
それでも身体強化の操作が万全なら勝てた勝負だ。
不貞腐れる横で、喜世川有栖が秋里涼真に色々と装着していく───
「これは……」
「頭に装着してフリーハンドで撮影する便利アイテムでーす!」
「装着者の目線で撮るのだな」
額に装着されたスマホ。
最新の手振れ補正は、頭を凄いスピードで振っても問題ない。
丈夫なケースでガッチリ固定、動画撮影の開始!
「じゃあ、ダンジョンの探索を再開しよう」
預かっていた剣を喜世川有栖に渡して、この場所からの出発した。
◆
「今更だが、生徒会長の城ヶ崎一夏だ。弓道部の主将でもある。前のダンジョンは合気道、柔道、剣道で突破した。弓も無く、粗末な剣よりはマシだからな」
正しくは合気武術、古流柔術、古流剣術である。
幼少期より家のしきたりで代々他家の縁者を指導者に招き鍛錬してきた。
歩きながら一人だけしていないジョブとスキルを説明中。
「純粋な格闘技でボス撃破、やはり圏内最強……」
「やめんか!」
〈狩人〉は弓と短めの剣に適正があり、ジョブ自体に自然環境で索敵能力上昇と器用さが関係する行動に補正があって〈魔法使い〉にも恩恵がある。
〈魔法使い〉は魔力視、魔法現象の解析、魔力操作で魔法スキル使用時に簡単な改変が可能。秋里涼真が持つ指輪を解析したのもジョブの能力だ。
城ヶ崎一夏が現在使えるのは【ファイヤーボール】のみ。
だが<狩人>の補正を受けた威力は、普通の〈魔法使い〉よりも高火力である。
「それと〈狩人〉は罠の設置や解除など、斥候職の真似事が多少やれるのだ」
「じゃあ宝箱! 宝箱探さない?」
「階段も探しながらだし自然と見つかるよ」
テンションが上がる喜世川有栖。
「先に階段を見つけたらどうするのだ?」
「降りた先を確認、引き返して未踏破エリアの探索かなぁ」
「お前ら、ちょっとは緊張感を持てよ?」
先頭を歩く兎洞雄之助が振り返った。
独りぼっちのダンジョン攻略も今は四人、パーティーを組んで気が大きくなる。
孤独ではない───
死と隣り合わせの極限状態で恐れとは毒だ。
今は一人じゃない。靴を履き、防具もある。おにぎりに飲み物と準備万端!
気が抜けているのは警戒中の兎洞雄之助であっても同じ。
「あ、ホブゴブリン!」
だが、秋里涼真は最初に気付き、即座に行動。
状況を認識中の仲間を置き去りに駆け出すと、頭という頭を狙い撃ち半数一掃。
残った敵が戦々恐々に盾で頭を守りだした。
(……だったら頭以外を狙うまで)
「ちょっ、速い。うちらも戦うから」
今の喜世川有栖には勇気がある!
それぞれが突撃して、瞬く間に残りを討ち倒した。
しかし三人の表情はどこか浮かない。
「切り替え早ぇーな。お前一人でヤっちまえる、銃がエグ過ぎるぞ」
「近寄る前に敵が半壊では我々の立つ瀬がないな……」
「う、うちだって戦えるし」
(俺が銃で無双しても後々で詰む気が……頼れる仲間の成長を奪うのは違うよな。ボスの打倒は全員で力を合わせて───)
「みんなって前のダンジョンはどんな風にクリアしたの?」
必要性を感じたので話し合うと、やはり個人差が大きかった。
全踏破と敵全滅。
なるべく見つからない様に逃げ隠れしながらボスを光弾で撃破。
ゴブリンを倒しつつ階段を探し回りボスと激戦の末に勝利。
運良くスムーズな攻略をしてボスの首を圧し折る。
得たジョブの得手不得手や、個人の素質。
四人には戦闘実績の偏りからレベルに差が出ていた。
「秋里は、沢山倒した上に魔石で銃強化だろ? こん中じゃ一番か?」
「しょーがなくない⁉ 聖女は戦うみんなを後ろからサポートするタイプだし! 光弾を飛ばすのもコスト大きくて気軽に撃てないから!」
「そこは寧ろ生き残れたのが凄いって話だから、誇って喜世川さん」
やるべき事は一つ!
「で、どうなのだ秋里?」
「俺は銃が使えるから雑に強いけど、俺だけ強くても絶対ダンジョンボスで詰む。だからサポートに回って、全員のレベル差を無くす!」
「レベル上げやんのか?」
「やってやんよ。全員無事に生きて帰るぞー、おー!」
目的を新たに、四人は一致団結。
ホブゴブリンの集団に快進撃を続けながらパーティーは探索を進めた。
会敵時は秋里涼真が突撃して敵集団を負傷させ、効率良く三人が敵を狩る。
その間、秋里涼真は周囲の警戒や敵の増援に目を光らせる。
ドロップアイテムは魔石以外どれも四人には価値が無く、荷物なので放棄。
そうして、この階層フロアの大部分の探索が完了した。
あれからレベルも上がって、喜世川有栖は新スキルを覚えている。
「宝箱が見つかんないからホブゴブリンをぶっ潰すぞー!」
ジョブ〈戦乙女〉の応援スキル【闘争鼓舞】が発動。
戦闘の開始時に口上を述べて味方を鼓舞、ノーコストでバフが得られる。
爆発的な強化ではなくても、有ると無しではハッキリ違う。
「渾身の一撃だ、オラァァア゛!」
さっきレベルの上がった兎洞雄之助。
新スキルの効果で、革鎧のホブゴブリンを今まで以上に殴り飛ばす。
パッシブスキル【力強化:小】は〈格闘家〉の新スキルだ。
(小でもこんな変わるってのか?)
「行き止まりだな、これで全ての通路を確認した」
「こっちの先に階段があったぞ!」
みんなで集まってハイタッチ。
秋里涼真は、レベルの上がった仲間を眺めながら確信する。
「スキルの獲得こそが、強さに繋がる気がする……」




