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016ダンジョンへの準備4

「こんなに遅くまで修行させられるなんて、大誤算だ……」



 土方大和師範(しはん)による指導の結果、秋里涼真は合気道? やら他も色々と習得。

 短時間での詰め込み型だが必要な要点は全て叩き込まれている。


『お前のような奴は、明日も来いと言ったところで聞かんからな……さあ次だ!』


 後は、実戦にて精進あるのみ───

 とのお墨付きを得る。


「俺は銃使いなのに……もう遅いので帰りますねって言ったら『車で送らせるから心配するな!』とか鬼か?」


 そうなると三人も自然と道連れだ。

 巻き添えで地獄と化した訓練が更に延長されて秋里涼真を恨んだ三人だったが、無休で技術を叩き込まれたボロ雑巾の姿を見せられては、同情せざるを得ない。

 帰り際の三人は、生まれたての小鹿のような秋里涼真に優しく接した。


 久々の指導に城ヶ崎一夏の表情は(しお)れ、他の二人も初心者と思えぬ基礎の出来(しゅったい)

 人に教えるのが得意な土方大和は、限界ギリギリの見極めが実に上手かった。


「今から料理かぁ……何を作ろ───う?」


 冷蔵庫を開けると中はガラガラ、朝に使い切ってそのままだ。

 そもそも今日はスーパーに買い出しの日なのに色々あって気が回らなかった。


 ダンジョンで生き抜く為に。


 本来なら縁のない我が校の有名人達に接触、そして説得。

 みんなの防具の調達と生徒会長の武器。

 ダンジョン内での食料、オニギリと飲み物の用意。


 そして予定に無いヤンキーとのイベント発生や本格的な武術の修行───


 今日は余りにも濃い一日だった。

 精神的にも疲れていたので仕方ない。


「嘘だろ、忘れ……冷蔵庫の中身から気分で料理を作る俺の(ささ)やかな楽しみが~」


 ある種のルーチンワーク。

 落ち物ゲーで(まとめ)めて消す達成感に食欲が結びついた道楽(どうらく)は、スーパーのチラシと(にら)めっこする事で更に複雑化するパズルゲームだ。

 秋里涼真にとっての料理とは、生活に結びついた娯楽。


「終わりだ……今からスーパーに行っても……」


 気持ちを切り替えるしかない───


「食いに行くか! ん~、和食……のような気がする。料亭の和食……時価物な。カードで払える店」


 秋里涼真は外食も大好きだ。

 美味しい料理を食べて学べる事は確かにあるのだ。


 プロの味を盗む事は困難!


 だからこそ真似出来た時は天にも昇る幸福感に包まれる。

 そして、次の日に電話で親から怒られてしまう。


(違うんだ母さん、これは仕方がないんだ。冷蔵庫が空なのが悪いんだよ)







「あー、美味しかった。(たま)にする外食って何でこんなに充足感があるんだろう?」


 秋里涼真は夜道を幸せそうに歩く───

 車で送迎された時も、夜の町は景色が綺麗だった。

 夜風の冷たさが心地良い。


 いつから夜が嫌いでは無くなったのだろうか?


(日本へ来てから……のような気がする。治安も良いしなぁ)


 ぼんやりと良夜(りょうや)を楽しむ帰り道。



「あ゛居やがったァ! アイツだ! アイツが───」



「ファ⁉ 何?」

「───今回の抗争を仕組みやがった、兎洞の邪悪な連れなんだヨォオオオ!」


 ヤンキー達の喧嘩も時間の流れと共に最終局面。

 二大ヤンキーグループの抗争は、天岩戸公園にて決着を迎えようとしていた。

 そこへ秋里涼真がフラフラと現れる。


「あー、まだやってたんだ?」


(わ、わ、忘れてた!!!!! うじゃうじゃ居る⁉)


「コイツは俺を排水口まで蹴り転がしやがったナンパ妨害野郎じゃねーかよ? やっと見つけぜ───なるほど、テメェの仕業かァ‼……」


 半昏田阿久夫が秋里涼真をロックオン。

 さっきまでとは打って変わって、地獄に真っ逆さまの最悪な夜。

 そして忍び寄り背後に回り込む三つの影───


「へっへっへ、ゼッテェ逃がさねーゾ! よくも駐車場ではやってくれたなぁ!」

「お前がボンボンヤンキーに濡れ衣を着せて抗争を煽った結果が、この大事(だいじ)だ!」

「よくも俺らに恥かかせたな……落とし前、ぜってー付けさせっからッ‼」


「うぉ、いつの間に⁉」


 コンビニ前の駐車場で絡んできたヤンキー再登場。

 逃げようとしていた秋里涼真は、驚きのあまり公園内に逃げ込んでしまった。

 状況は更に悪化の一途(いっと)辿(たど)る。


「お、お、お、俺は半昏田に脅されて仕方なく……」

「ンだぁ⁉」


 どうにか助かりたい秋里涼真は、必死に演技する。


「やっぱテメェが仕組んでたンじゃねーか、糞ボンボン」

「やり口が汚いぞ! ヤクザ一家のカス!」


(お、いけるか? 争え……もっと争え───)


 国会中継でヤジを言い合うような状態に手応えを感じる。

 どさくさに紛れて後は逃げるだけだ。


「倒れてる時ハッキリ聞いたゾ‼ 『半昏田に罪を擦り付けてやったぜー』って」



「そんなの言ってないって! 対消滅してくれたらって言っただけ……で───」



 どよめきが広がり、辺りは静かになる。

 公園内のヤンキー全員が秋里涼真にガンを飛ばしていた。

 ヤンキーは……ナメられたら終わり。


 ───だから喧嘩はなくならない!


(ま、不味い。これは良くない流れだ……どうにかせねば⁉)


「こいつら裏では半昏田と繋がってて、下剋上を企んでいるんだ!」


 振り返った秋里涼真は指差す!

 自分を公園の中へと追い込んだヤンキー達を糾弾(きゅうだん)した。

 風説(ふうせつ)流布(るふ)に一点賭け。


 即座にコンビニの駐車場で絡んできたヤンキー達が吠えた!



「「「ンな分けあ゛るかー、俺等は半昏田に彼女取られてンだぞ‼」」」



 どよめきが再び広がる。


「最低だな糞ボンボン」

「人の女は手出しちゃダメだろ!」

「寝取られ被害者の会だったの?……何か、ごめん」


「「「許すかボケ! グホォッ───」」」


 手札は、暴力と逃亡の二つのみ!

 NTR被害者の会を秒殺して逃げ切ろうとする秋里涼真。

 公園の出口へ猛ダッシュ───


「逃げんじゃねーゾ! ナンパの妨害するわ、チームぶつけて潰し合わせるわ……テメェだけは───絶対に許さねぇ!……家族や彼女や友人も連帯責任だぁ‼」


 半昏田阿久夫は、秋里涼真を逃がしたくなかった。


 絶対に勝てない兎洞雄之助という孤高の存在。

 自分とて喧嘩の強さは上澄みだ。金もあり、実家(ヤクザ)繋がりで伝手も豊富。

 だからこそ、いつかは越えなければならない。


 でも未だに勝てない……巨大なストレスだ。そんな時に現れた別の存在───


(俺以上の存在がこれ以上増えて(たま)るかよォ!)


 どれだけ強くても大勢で袋にすれば勝てるはず。

 兎洞雄之助のような存在は、この世に二人と居るはずがない。



「───今なんて言った?」



 公園の出口近くで秋里涼真が振り返った。

 両方のチームが逃がすまいと押し寄せて囲む。


 中央で(たたず)む男は、怯えるでもなく。

 怒るのでもなく。

 笑いもせずにガラス玉のような目でジロジロと発言者を見詰める。


「今からリンチ(私刑)だ。フルボッコに───」

「俺は逃げようとしていたんだぞ? 今直ぐ取り消すなら許すが……選べ」

「テメェは今から病院送りになるンだよグボハ」


 何かが()し折れる音が公園に響く。


 半昏田阿久夫は自分より強い秋里涼真が怖かった。

 ジロジロと校門で蹴ってきた箇所を見てくるので気が付けた。

 だから、異常な速度で飛んできた蹴りを両腕で防げた。


 その代償に左右の前腕を棚引(たなび)かせて(そば)の噴水まで飛ぶと、水飛沫(みずしぶき)が立つ。


 秋里涼真が両手を広げアピールしながらぐるりと見渡す。

 視線を独り占め、ホブゴブリンとの戦闘で学んだ事だ。


 一対多で大事なものは一撃確殺とハッタリ。


「全員の顔を覚えたぞ? 逃げたら明日から追い詰める。たった一人になら勝てるだろ? 喧嘩が好きなんだよな? やるぞ、今から───弱い者虐めを楽しもう」



 俺が、お前らを殴る役な?



 そう言って秋里涼真が暴れだした。

 アメリカで事件に巻き込まれた当時、神に導かれて偉業を達成した怪物である。

 その際に心が壊れた事実は記憶を欠落させようとも変えようがない。


 暗い感情が湧き出してくる───不快で不愉快な、最低の気分だ。


 肥大化して元に戻らない喜怒哀楽。

 アクセルとブレーキが壊れた精神は、今日も敵を絶望させる。

 前回は悪魔崇拝集団だった。


(思う存分に実戦経験を積める。生まれて来てくれてどうもありがとう)


 ヤンキー達は、指輪の力も使う秋里涼真から逃げらない。

 夜の公園は阿鼻叫喚。パトカーが到着する前に両チーム全滅してしまった。

 ようやく遠くの方からサイレンの音が近づいて来る───


 秋里涼真は、夜の闇へと笑顔を貼り付けたまま走り去った。



「……なんて光景だ。おい! しっかりしろ、応援呼べ、応援!」

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