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015ダンジョンへの準備3

「シートの座り心地、ヤバ過ぎるんですけど⁉」



 座席の高級感に驚きを隠せない喜世川有栖。

 迎えの車に乗車する一同は、運転手に感謝を言いながら席へと座っていく。

 このクラスの高級車に初めて乗った三名が興奮するのも無理は無い。


「全然揺れない……これじゃ窓の景色を見ないと走行中か分からないな」


 車の外ではヤンキー達が走り回って物々(ものもの)しい雰囲気だ。

 それなら今はプライバシーガラスから眺める迫力満点サファリ形式を楽しもう。

 彼らは何処から来て、何処へ行くのか───


(みんな元気溌剌(げんきはつらつ)だなぁ。頑張って俺の代わりに半昏田をやっつけてくれ)


「……任せたぞ、お前達!」


 期待の眼差しを向け秋里涼真はニヤリと微笑む。

 二つのヤンキー高校による争いなど既に他人事、窓の外の世界だ。


「本当に今日は不良が多いのだな。徒党を組んで物騒な……」

「ね? 車を呼んだの正解だったでしょ、生徒会長?」

「お前が妙な事しなきゃ───」


 兎洞雄之助が愚痴った。


「何かやったん? 秋里君」

「やってないよ、全然やってない」


 笑顔で答える秋里涼真。

 学校ではやらない絵に描いた営業スマイルだった。

 喜世川有栖と城ヶ崎一夏がジト目になる。


「ち、違うんだ。だって兎洞君がSNSに晒し上げられそうになったから」

「テメェ⁉ お前が半昏田に罪を擦り付けて炎上させたんだろうが!」

「まったく……少しは町の人々の迷惑も考えんか、二人共」

「でも、あいつらボコって写真を削除しようぜって、兎洞君が───」



『その袋は俺が預かる、お前があいつらボコって写真を削除するのはどうだ?』



 自分の発言を思い出した兎洞雄之助は言葉が出ない。

 喜世川有栖と城ヶ崎一夏が兎洞雄之助をジト目で見つめる。


「それに放っておいても抗争はどの道起きたんだしさ」

「おい、どういう意味だそりゃ?」

「スマホ返す前に見たけど、チームに独断で半昏田を襲おうとしてたみたい」


 ヤンキー界隈に詳しくない女子が話に置いてけぼりだ。

 ここは話題を変えるチャンスだと、秋里涼真が畳み掛ける。



「あ、ほら生徒会長の家が見えて来たよ! みんな窓の外を見て!」



 石垣で囲まれてた広大な土地は車内からでもよく見えた。

 とっても大きな生徒会長の実家。


「城ヶ崎の車だからスムーズに入れて貰えたな」

「普通に行っても警備の人に止められそう。うちらって本来は接点が無いもんね」

「別に来たければ来てもいいのだぞ?」


 敷地内をジクザグ進むと、遠くに大きな門が聳え立つ。

 ここはまだ庭だったようだ。


名家(めいか)って、まるで遊園地みたいだ」

「ゆ……う、うむ」



 楽し気な笑い声と共に門へ入ると、大きな蔵の前で車は止まった。

 大量失踪者事件とダンジョンの存在───非日常の当事者として今の四人は縁が繋がっている。自分たちの命と、事件の収束の為にも、力を合わせてダンジョンに立ち向かわなければならない。

 その助けとなる装備が、これから手に入る。



「ここだ。警備員用の対テロスーツの予備と、私の武器を見繕うぞ」

「でっか! こんなん学校の講堂じゃん」


 喜世川有栖が冗談みたいなサイズの蔵を見上げている。

 他の二人は、城ヶ崎一夏の後ろを黙って付いて行った。


 トラックが入れちゃうサイズの入口、奥では係の人が楽しそうに棚を整理中だ。


「警備員用の対テロスーツの予備を借りたい、四人分だ」

「アレですか? 四人、あちらのお嬢さんもですね?……どういった要件で?」



「それを着て今夜は寝るのだ! なので貸出だ」



 ポーカーフェイスが崩れた係の人。

 お嬢様の発言に驚きの表情で固まるも、ご命令とあらば素直に従う。

 二つ返事で了承した見た目が堅気じゃない人。


(ヤクザ……とは違う感じ。んー)


「装備ってのは使わなきゃ意味が無い。例え寝間着でも、理由としちゃ十分だ」

「まさか戦地帰りの傭兵だったりしますか?」

「え?……アッハッハッハ酷いな坊ちゃん、私は見た目だけの───」


 失礼な発言をした秋里涼真を見て、係の人の作り笑顔が歪む。


「一夏様、こちらは?」

「同学年の秋里涼真だ。クラスは違うがな」


(おいおい、何やらかした? このガキ)


「また何かやったん?」

「俺は無実だよ喜世川さん!」


 係の人は秋里涼真(死の塊)を見なかった事にした。

 手早く四人の体を測ると、蔵の奥から目当てのスーツを持って来る。

 この広い蔵を把握しているのか仕事が速い。


「こいつは、リキッドアーマーと呼ばれる(たぐい)の品です。このように柔軟で着心地も良く、全身を守れますがスーツの下に着れてしまうほど嵩張りません。強い衝撃を受ければ硬化して銃弾も防ぎ、表面の素材は防刃仕様……現役時代に欲しかった」


「これを着たらゴリラに殴られても大丈夫でしょうか?」


「秋里君⁉」

「あんたゴリラと戦うの⁉ 痛くはあるだろうが、周囲のパーツとの連動で衝撃が大幅に分散、軽減されるはずだ。もしも喧嘩で使うというなら大人気(おとなげ)ない」


 この三人が城ヶ崎一夏を面倒事に巻き込んでないか、係の人は訝しんでいた。

 しかし、非民生用スーツを手に取る無邪気な四人を見て杞憂(きゆう)だと悟る。



「それと、まだ欲しい物がある。登山用の(なた)があったはずだ」

「……念の為に聞きますが、どういった要件で?」

「私が、身に着けて眠るからだ!」







 用事を済ませた四人が蔵の外に出ると、向こうから大男がやって来る。


「一夏、帰っていたのか……」


 そう言いながら大男は連れの三人を見下ろす。

 バラエティーに富んでいた、交友関係のリストには無い顔ぶれだ。

 大男はこの三人に興味が湧いた。


「土方おじさん、こちらは同じ学年の友人です」

「ほう……私は、そうだな……ここの道場で合気道の師範をしている土方(ひじかた)大和(やまと)だ」


(土方おじさん? ああ、浮気がバレると海外ドラマっぽい謝罪する人!)


「この人がジャックおじさんか~」


 小声が漏れた秋里涼真。


「私の名前は土方大和という。君達は何をしているのかな? ソレは見たところ、家の警備員用だったと記憶しているが?」


 城ヶ崎一夏が手に持つ登山用の鉈も見ながら、疑問を問う。

 平穏とは無縁な品々を如何なる理由で求めたのか聞く必要があった。

 三人の悪い影響か?……理由次第では───


「これは、寝る時に着る為に借りました。鉈も、私が身に付けて寝るのです」

「何故そんな事をする? 意味が分からんが?」


 予想外な答えに戸惑う、土方大和は想定外に弱い。


「近頃は物騒なのです。こちらの彼女は、朝起きると寝室に血まみれの棒があって警察沙汰になっています。それで───」


 そこから色々と城ヶ崎一夏が語るも腑に落ちない土方大和。

 ただ、悪事を企んでいるようでもなく、ならば自主性に任せればいい。

 問題が無いのなら見て見ぬふりをする。



「ふむ、まあ大体は分かった。ならば合気道だ、指導しよう。一夏も来なさい」



 土方大和は提案した、満開の笑顔で。

 あの手この手で拒否しようと城ヶ崎一夏が訴えたが強制である。

 武を教えたい育成おじさんに四人は捕まってしまった。


「面白そうじゃねーか、行こうぜ」

「兎洞、お前は何も知らんのだ!」

「近頃の一夏は武を疎かにし過ぎだ、道で熊に出会ったらどうする」

「「熊?」」



 四人は道場へと連行されて、隅の方でみっちりと技を教え込まれた。



 城ヶ崎一夏は、家訓として習っていたので高度な技を。

 初心者の三名は、基本的な型を習う事になったが───


「君は妙に筋がいいな。金髪の兄ちゃんや健康的な日焼けの嬢ちゃんも平均以上の才能を感じさせるが、君は……少々おかしいぞ?」


 土方大和は、秋里涼真を褒めながら呆れる。


(生徒会長が強かった理由が分かったけど、こんな形で分かりたくなかった!)


 レベルアップの恩恵は大きい。

 秋里涼真のジョブ〈ガンナー〉は、ゲームで言うところの器用さが特に成長して抜群の身体操作に繋がっている。

 登校時に凄いスピードで転倒した時も、思い通りに空中で体を動かし無事だったのは、この成長特性の影響だ。


 自己紹介の直後に相手の名前を間違える失礼な青年には、教え甲斐があった。

 楽しくなってきた土方大和がエスカレート、合気武術以外も教えだす。


(こんな奴に出会ったのは初めだ)


「君は筋がいい、私の所属する組織に入らんか?」

「遠慮しまぁあああああああああす!」


 ズタボロになりながら悲鳴を上げる秋里涼真。

 土方大和のスパルタ指導を紙一重で耐える身体能力に、道場内が注目していた。

 三人はダンジョンの話が真実だと悲鳴を聞きながら再認識する。



「何か俺だけ特訓の内容が違う! 何か俺だけ特訓の内容が違う!───」

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