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014ダンジョンへの準備2

「……お前、どうすんだコレ?」



 秋里涼真の手からスマホを取り上げた兎洞雄之助が、画面を見て固まった。

 早くも双方のチームから大量にリプが付き炎上している。


 カツアゲ現場の投稿直前に秋里涼真がスマホを取り上げたのが運命の分岐点だ。


「どうって───」

「しかもこいつ等のアカウント、半昏田と別のチームじゃねーか! 駅の反対側が縄張りの連中だろ」


 プロフ画面で色々と察してしまう。

 吊下(ハング)連合と呪武哭井流(ジュブナイル)の両チームは、互いに相手チームを敵視しており一年前に大きな乱闘騒ぎがあったばかりだ。警察沙汰にまで発展した当時の抗争を最後に、現在は縄張りで線引きされて(にらみ)み合う冷戦状態。

 その表面上の平和は、今日で終わる。



「不味かった? 朝のナンパヤンキーは執念深いらしいから対消滅(ついしょうめつ)させようかと」

「デカいチーム同士の抗争確定だぞ?」

「ああ~……」


 少しやり過ぎていた秋里涼真は反省をするが、それはそれ!

 スマホの指紋をティッシュで拭き取ると、横たわるヤンキーに返して合掌した。

 半昏田に罪を着せつつ、他人に倒させる作戦には問題があったようだ。


(喧嘩が無くならないから、戦争も無くせないんだな)


 現実逃避する秋里涼真。


「な? 不味いだろ、今でも見えないとこで対立してたからな」


 足元で転がっているヤンキー達は、呪武哭井流でも過激派だ。

 チームにも独断で集合して半昏田を襲うべく待機していた最中(さなか)のアクシデント。

 襲撃による抗争は未然に防がれたものの、最悪の形で火種に発展する。


「中立の俺達は急いで帰ろう。今日は生徒会長の家に大事な用があるんだ!」


 秋里涼真は買い物袋を引ったくると、シュタタタッと学校へ走り去った。


 リプ欄では半昏田が『俺はやってない‼』と連投して炎上が更に加速していく。正しい答えを両チームの誰もが知らない状況に、騒動は収まる気配がない。

 そろそろ真相を確かめに誰かが来る頃───この場所が抗争の第一ステージだ。


「あ、テメェ⁉ 俺を置いて逃げるんじゃねぇ!」







 生徒会室の扉が開くと、無事に男子二人が帰還する。


「置いていこうとした訳じゃないから、機嫌直して」

「遅かったな二人とも、混んでいたのか? 時期に喜世川も来るだろう」


 兎洞雄之助は怒っているのではない、バテているだけ。

 実力を示されて渋々納得していた身体能力の差が、実は全力とは違ったからだ。

 といっても指輪ありきの走りである。


「ふぅー、散々だぜ。喜世川が來るまで休ませてもらうわ……」

「何があったのだ?」

「それがですね───」



 不味い部分を誤魔化しつつ秋里涼真はヤンキー抗争問題を手短に言う。

 息切れ中の兎洞雄之助が呆れ顔の中、語られたのは危機の回避。秋里涼真が先行して走り回り、喧嘩を見かけたら来た道を戻って学校を目指す。言わば持久走だ。

 だから予定よりも帰りが遅れてしまった。


『駄目だ兎洞君、またこの先で喧嘩してる! 別ルートを探そう!』


「……ホント大変だったんですよ。ヤンキーに絡まれないようにグルグルと」

「秋里君、またヤンキーに絡まれたん?……兎洞君も居たなら大丈夫っしょ」

「喜世川さん部活終わったんだ? 鮭とツナマヨが無くて、鮭マヨでごめん」

「鮭マヨ⁉」


 四人が揃ったので、秋里涼真は生徒会長にお願いする。


「生徒会長の家に迎えの車を電話で頼めませんか? 今は他校のヤンキーが校外を徘徊中なので危険なんです。だから、このまま四人で外へ出たら絡まれる可能性もあって……そうすると喜世川さんが危険な目に遭うかもしれません」

「うち狙われてんの⁉」


 四人の中で一人だけ戦闘能力を持たない喜世川有栖。

 城ヶ崎一夏と兎洞雄之助は、ジョブとスキルが無くとも元から強い。

 だが、本題は絡まれて時間をロスするのが不毛だからだ。


「三人で喜世川さんの身を守れるけど、怖いのは嫌でしょ?」

「嫌!」



 そういうことになった。



「では迎えの車を手配しよう」

「ありがとうございます城ヶ崎生徒会長!」


(───ん?)


 その時、秋里涼真は城ヶ崎一夏の持つスマホの待ち受け画面が見えてしまった。


「これか! ちか姉ちゃん」

「んな⁉」


 サッと画面を隠す城ヶ崎一夏。

 誤魔化すようにスマホで連絡を入れると早口で要件を伝えていた。

 どうやら五分くらいで到着するらしい。


「何なん、お姉ちゃんって?」

「分かっているな? 秋里───」

「はい!」


(育ちの良いお利口そうな少年の事は、誰にも喋りません‼)







 職員室に生徒会室の鍵を返しに向かう。

 辺りはもう夕暮れ時、通り過ぎるどの教室にも人影一つない。



「……うちらダンジョンじゃ秋里君みたいに凄い力あるんだよね?」

「喜世川さんは、聖女で祈って回復してくれたり───」


 まるで、時間の止まった夢の中の景色を歩いている気分だ。


「じゃあ俺はどんなだ?」

「兎洞君は、求道者の魔力で肉体を硬化する力を───」


 廊下に四人の足音と小声が響いていく。


「うむ、凄いものだな……私はどうなのだ?」


(生徒会長?……)


「何か、火の玉飛ばしてました」

「何故急に説明がフワッとなる⁉」

「最後に生徒会長と出会って、急いで記憶共有計画の話し合いしてたら目が覚めたから、ジョブとスキルの説明を生徒会長だけしてもらえてないんです……あ!」



 話しながらだと目的地に着くのは、あっという間だ。



「失礼します。生徒会室の鍵の返却と、頼まれていた資料が完成しました」

「おや? 出来ましたか、大変助かります」


 年配の教員が席を立ちやって来る。

 放課後になっても未だに職員室で仕事が終わらないのが先生という職業。

 鍵と資料を受け取ると、四人を不思議そうに見回した。


「ありがとう。何だか珍しい組み合わせですね?」

「三人とは縁もあって、親しくなりました。また何かあれば手伝わせて下さい」

「ええ、その時は声を掛けますよ。本当にありがとう」

「それでは失礼します」

「はい、さようなら───」


 城ヶ崎一夏が頭を下げると、他の三人も同じように頭を下げる。

 それを見た年配の教員は(ほが)らかに笑う。


「ははは、みんなも気を付けて帰るように」


 そう言って席へと戻って行く。

 学校の教員とは、多忙でハードな仕事内容である。

 三人が今まで知らなかった世界だ。


「先生ってのは、遅くまで色々と大変そうだな」

「そうだぞ。だから生徒が手伝える範囲で手伝うべきなのだ」


 廊下を歩きながら疑問に答える生徒会長は、とても凛々(りり)しかった。


(こういう人が、人の上に立つべき人なんだろうな……)


 ポニーテールを揺らす城ヶ崎一夏の後ろ姿が眩しく見える。



「うちらが今から行く城ヶ崎生徒会長の家って名家だし、やっぱ大きいん?」

「敷地内に道場と蔵があるので大きい方だろう。石垣で囲まれた場所だが───」


 三人が同時に声を上げる。

 城ヶ崎一夏がどこに住んでいるかは知らないが、家の場所自体は知っていた。

 高く積まれた石垣は遠目に見ても目立つ。


「俺、公園でもあるのかと思ってた。外食する時に近くの一本道を通るし」

「弁当を自分で作ってるんじゃなかったか?」

「自炊もするし、スーパーのチラシや冷蔵庫の備蓄次第で外食にも行ってる」



「「料理……だと⁉───」」



 その情報は女子達にとって衝撃的だった。

 料理とは、自分からやろうと思わなければ、やらないし上達もしない。

 どの家庭も大抵は親が三食作ってくれているものだ。


 女子達には、秋里涼真が少し遠い存在に思えた。


「ネットとかでレシピや料理動画を見てたら誰でも出来るようになるよ?」


 幼少から母親を手伝っていたのもあって、秋里涼真は上達するのが早い。


「その料理やれる人特有の物言い、やめといた方がいいと思うんですけど!」

「う、うむ」


 喋るスピードが速くなる喜世川有栖。

 城ヶ崎一夏も先程まであった輝きが曇り、どこか歯切れが悪い。


「城ヶ崎が呼んだ迎えの車って、アレじゃねーのか? すげぇの来てんぞ」

「すっご! ドラマに出てくるやつじゃん」


 兎洞雄之助が指さす方向に一台の黒い高級車が停車している。

 帰宅する部活帰りの生徒達が注目するほどだ。



「もう来ていたのだな。目立つから早く行くぞ!」

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