013ダンジョンへの準備1
「って感じの状況だから、ダンジョンの情報を共有するのが一番の目的」
芋ジャージ姿で靴も履かずに強制されるダンジョン探索。
この不便さを解決するには、こちら側でも四人が協力し合う必要があった。
要点を一通り言い終えたところで城ヶ崎一夏が質問をする。
「警察には言わないのか? このような大事件は我々の手に余ると思うのだが?」
「警察では対処も不可能だから意味が無いし、拘束されるだけ時間の無駄ですね」
限られた時間の使い道はダンジョンで十分に話し合った。
「一つ目のダンジョンはクリア出来てんだよな? 二つ目……複数あんのか?」
「ボスを倒して、新しい力か記憶持ち帰りを選ぶと別のダンジョンに飛ばされて、気が付くとそこに居たって感じ。最初はバラバラに居た四人が出会って、協力して脱出しようってパーティ組んだとこ。三つ目は……遠慮したいね」
得体の知れない恐怖から解放された喜世川有栖が元気よく手を挙げる。
「で、うちらは具体的にこれからどうすんの?」
「こっちで揃えられる今夜の準備をしておく。みんな私物は芋ジャージだけでさ、生徒会長用の武器と、全員分の防具に靴、これを寝る時に身に付ける。おにぎりや水をコンビニで買ってダンジョンに持ち込む。以上を伝えるのが俺の役目なんだ」
順序立てて説明した甲斐もあって三人はスムーズに理解していく。
その様子に秋里涼真は安心した。
「防具か、起きたらジャージが急にボロボロだった訳だぜ……」
「うちの血まみれ棒、警察の人が持ってってるけど?」
「喜世川さんにはボスドロップ品の剣があるから安心して。向こうで預かって今は俺の家のベッドの下にある。ちなみに食糧に関しては俺が出すって既に決定済み」
「む? それは何故だ秋里」
「その理由は……喜世川さんが胸の所に隠し持ってる綺麗な石です」
変な声を上げて喜世川有栖は手で胸元を隠した。
どんどん顔が赤くなる。
「何で知ってんの⁉」
「あっちで聞いたし、見た目が綺麗な魔石は警察にも隠したって。出して、交換」
秋里涼真がホブゴブリンの魔石をポケットから取り出す。
大部屋で四人が戦闘したドロップ品で、見た目が一番良い魔石がコレだ。
独特の輝きに三人が思わず唸った。
「それも魔石なん?」
「四人で大量に倒した中で見た目が良いのを交換用に持って来た。喜世川さんのはゴブリンの魔石だけど、これは二つ目のダンジョンに居たホブゴブリンのやつ」
後ろを向きゴソゴソと袋を取り出すと、中に入っていた魔石を渡す喜世川有栖。
手渡された魔石の温もりを感じながら銃に押し付けていく。
「俺の銃は、こうやって魔石を喰わせると強くなる。だから食費と今回の働きで、俺が魔石を独り占めにするって取り決めです。こういうのはキッチリしないとね」
「それでも秋里の負担が大きく思えるのだが?」
「生徒会長にだって武器や防具を負担してもらいますよ? 実家に蔵があって、色々あるからとダンジョンで言ってました」
城ヶ崎一夏に視線が集まる。
「私が言ったのか⁉───確かに、あるだろうな」
「城ヶ崎生徒会長の家って蔵あるんだ……」
「警備員用に作られた対テロ防刃防弾スーツの予備品と短めの剣か鉈を借ります」
「俺だけ武器は無しなら、ダンジョンじゃどうやって戦ってんだ?」
「兎洞君は、素手で敵を殴り飛ばせる能力を手に入れたから武器は要らないって」
これで今夜のダンジョンに向けての話し合いは終わった。
「……お腹が空いちゃうほどダンジョンで戦ってんの?」
「初めは二時間くらいだった。けど向こう側へ行く度に段々と伸びてて、その度に体調はリセットされている。でも次は探索の途中でお腹が空きそうだよなって」
「ふむ、話を聞くに就寝時の状態でダンジョンとやらに移動しているのだろう」
なのでトイレ問題も起きていない。
「荷物については、ベッドや枕はダンジョンに持って行けていない。身に付ける、それがダンジョンに物を持ち込む方法のようなので、寝る時にポーチかリュックに入れてたら大丈夫です」
「それでいいなら靴は中に入れりゃ済むな」
この後はコンビニで買い物に、生徒会長の実家である城ヶ崎家にお邪魔して本人が使う武器と、みんなの防具を借りるだけだ。
これでダンジョン攻略の安全性や快適性が改善される!
「この後の予定は決まったけど、みんなはどうする? 俺は帰宅部だからフリー」
「俺も部活は入ってねーな、フリーだ」
男子は二人とも暇だが、女子二人は違った。
「今は大会に向けて猛特訓中だから……うちはチアガール部のキャプテンなんで、戻れるなら今から戻りたいんだけど、いい?」
「後は買い物と私の家に行くだけだ、いいのではないか? 私も先生から頼まれた資料作りで今はここを離れられんからな」
お昼休みに生徒会室へ押し掛けられた城ヶ崎一夏は、作業が残っている。
それならと、今から男子二人でコンビニへ買い出しに行く事になった。
「うちは鮭! 無かったらツナマヨでヨロ、飲み物は水ならなんでもいいからね」
「待て、廊下は走るなと……私は昆布だな、無ければ明太子で頼む。お茶はテレビで頻繁に見かける宣伝のやつにしてくれ」
あれだけ騒がしかった部屋に沈黙が訪れた。
「……んじゃ、行くか?」
「交差点の所のだね」
生徒会室を出て廊下を歩いて行く。
人が居なくなった校舎内もグラウンドから運動部の声が聞こえるくらい静かだ。
「お前の目標も達成か?」
「こっちで準備が出来れば全然違うからね。それに、喜世川さんが色々と怖い思いしてる話を聞いてたから、解決が出来て良かったよ」
下駄箱で靴に履き替え、いざ買い出しに出発。
歩いて十五分も掛からないので帰っても女子達の用事は終わってないだろう。
何事もなくコンビニに着いて、何事も無く会計を済ませた。
(後は帰るだけだ!)
しかし、外へ出ると駐車場で屯していた他校のヤンキーに絡まれる。
「おい、アレ見ろよ、兎洞がカツアゲしてんぞ。俺らがやると邪魔する癖によぉ」
「普段は硬派ぶってやがるのに俺らと変わらねーじゃん、SNSに晒し上げだぁ!」
兎洞雄之助が彼らを見て不快気に舌打ちする。
笑いながらスマホで撮影する他校のヤンキー、汚い声で大合唱が始まった。
(凄い、夏の蝉みたいだ……)
そんな事を考えながら横目で眺める秋里涼真。
「ンダコラ⁉ こっち何人居るか見えねぇの? 全員で囲んでスッゾオラ!」
舐められたら終わり───ヤンキーは他人の視線に敏感だ。
「また絡まれた⁉ ゴミの次は蝉の群れ?」
「フッ……」
兎洞雄之助は、隣から聞こえてきた呟きに笑うのを堪える。
この男は体格も貧相で、恐らくこの手の荒事とも今までは無縁だったはずだ。
なのに屋上で自分を負かせる程の強さを今は手に入れている───
(ダンジョンか……興味が湧いたぜ‼)
「その袋は俺が預かる、お前があいつらボコって写真を削除するのはどうだ?」
「え、俺? 喧嘩は苦手なんだけど……」
「半昏田をボコれるんだ、素質はあると思うぜ?」
その発言は実に効果的だった。
「吹かしてンじゃねぇぞ、グホォッ……」
秋里涼真が秒で返り討つ!
地面に倒れる音がゴングの鐘となり、ヤンキーが次々と襲い掛かる。
「舐めんなコラァ、グホォッ……」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ、グホォッ……」
「お、俺達は雑魚じゃねぇ、グホォッ……」
(動き自体もいいな、コイツ喧嘩は苦手と言いつつ格闘技でもやってんのか?)
瞬殺された蝉の群れは地面にひっくり返った。
ダンジョンの戦闘で兎洞雄之助と城ヶ崎一夏の動きを観察していた秋里涼真は、どうせやるならと見様見真似で試してみた。
手本があるなら参考にしないと勿体ない。
「よし、何とかなった。じゃあスマホをちょっと借りるね」
持ち物を引っ手繰ると、シュババババっと操作して写真を削除。
その時、突然の閃き!
「せっかくだから、半昏田参上なう。っと───」
「秋里、オマッ⁉」
ヤンキーにはヤンキーをぶつけんだよ‼
秋里涼真は地面に横たわるヤンキー達を撮影して投稿した。
この何気ない行動が、一帯を二分するヤンキーチーム同士の抗争を引き起こす。
二つのチームは……今日滅びる運命にある!
「んじゃ、生徒会室に帰ろうか?」




