012新しい日常の始まり4
「では、喜世川有栖とのコンタクトが難題なのだな?」
ダンジョンの記憶共有計画が二人を味方に引き込むところまで進んだ。
ここからが本番……朝起きると寝室に血まみれの棒が落ちていた喜世川有栖は、恐怖体験で警戒心が高いので不用意に近づいても話を聞いてはくれない。
だからこそ、人望が厚い生徒会長が鍵となる。
「はい。なので生徒会長に喜世川さんを何とか連れて来てもらって───」
「やけに人任せじゃねーか?」
「通学中ばったり会っちゃって……警戒されちゃった」
「どんな不埒な行いをやったのだ⁉」
何をやらかしたのか秋里涼真が話すと呆れる二人。
ダンジョンで三人に話を聞いてあるので未だ計画は破綻していない。
だが、それにも限度はある。
「三人で知恵を出し合って喜世川さんを説得、こっちでも四人で団結するんだ!」
団結で終わりではない、その先……今夜の準備こそが命題。
焦る秋里涼真だが、城ヶ崎一夏が三人の意見をまとめようとしても時間が足りず会議は紛糾。それでもお昼休み終了の前にどうにか結論を出せた。
やはりここは人望豊かな生徒会長の肩書きパワーでなんとかする!
「じゃあ後は放課後で、計画は順調だ───」
「お前がやったの、今んとこ暴力と脅迫だけだぞ?」
「くっ……もうこんな時間か!」
頼まれた資料作りを忘れていた生徒会長の叫び声を背に、教室へと帰る。
その途中で窓の外に注意が向いた。
「喜世川さんだ、いつも通り仲良し集団と楽しそう」
友達を心配させたくないから気丈に振る舞っているのだろうか?
それとも、本心を隠しているだけなのか───
ダンジョンの事がなければ、みんなの内面を知る機会もなかっただろう。
この縁が何を織り成すのかは今日の放課後に懸かっていた。
◆
何事もなく午後の授業が過ぎていく。
意識していなかった平穏を存分に味わっていたら終わりのホームルームも終了。
塾へ急ぐ者やカラオケに行く集団、そして部活に参加する人達。
みんなが今日の青春を謳歌している。
「難しいやつだけど、絶対にみんなマスターして大会目指しましょう!」
昨日は自主練をするしかなかったが今日は空気が違う。
復帰したキャプテンの激励の下、チアガール部は厳しい訓練に精を出していた。
そこへ珍しく生徒会長がやって来る。
「喜世川有栖は居るか?」
どんな用事で訪れたのだろうか?
喜世川有栖は疑問に思いつつ、部員達に個別の訓練メニューを指示すると元気に駆け寄って行く。
その姿を見ていた城ヶ崎一夏は、日頃と同じ印象しか受けなかった。
(とても聞いた話のようには見えんが……)
「なんすか~? うちに連絡でもあるんです?」
「うむ、少しここでは言い辛い。ご家庭で起きた出来事についてだ。大変怖い思いをしたそうだが、その件で分かった事があって、私から報告しようと思ったのだ」
話を聞かされて何かが引っかかった喜世川有栖。
警察には言ったが、友達にさえ黙っていた事だ。
個人情報の観点からも生徒会長が知っているはずはない───
「何で城ヶ崎生徒会長が知ってんすか? 分かった事があるって、何です?」
心の中で不安が渦巻く。
眉間に皺が寄って態度に出てしまったが、取り繕ったりはしない。
どうして知っているのかが、怖い。けど気になった。
用心深くても、城ヶ崎生徒会長が言うのなら……知りたい気持ちが僅かに勝つ。
「人に聞かれない場所で話す。今から生徒会室でどうだ?」
「練習は……もう指示してるんで。はい、問題ないです───」
遠ざかっていく二人を見送りつつ、やる気に満ちた部員一同は練習を再開した。
◆
「失礼します───」
先に即されてドアを開けると、メンバーがいつもと違う。
後ろを振り返ろうとしたが城ヶ崎一夏に押し出される形で入室した。
喜世川有栖は俯いて立ち尽くす。
「どういう……ですか?」
顔を上げ非難めいた視線をぶつけた。
たじろぐ城ヶ崎一夏が何か言おうとした瞬間、ホワイトボードがけたたましい音を立てて移動する。やったのは当然この男。
「生徒会長から聞いたと思うけど、喜世川さんの誤解と恐怖に関する説明会」
今日も四人で生き抜くぞ‼
無駄に綺麗な文字だった。意味が分からない……共犯者も何故か動揺している。
もう一人の有名人は、そっぽを向いて居心地が悪そうだ。
「───秋里涼真の偽物! この学校で何を企んでんの?」
「ええ……いや、俺は本物だから。ちょ、ハッとしないで生徒会長も兎洞君も」
まったく予想外な反応に秋里涼真は虚を突かれる。
「じゃあなんで有名なヤンキーと城ヶ崎生徒会長があんたと居んの! 一日で学校の権力と暴力を手中にしてるし、朝の凄い動きとか、下級生の女子を助けたり……あれ、何で女子を助けたん??」
一つだけ変に浮いている。
「喜世川さんを説得したいから目立ちたくなかったけど、絡まれたから仕方なく」
「うちを始めから狙ってたん⁉」
喜世川有栖がビクビクする中、城ヶ崎一夏が厳しい質問をする。
「助ける気はなかったのか⁉ 救える力を持っているのであろう?」
「俺じゃなくても、大人か、警察か、兎洞君が助けてたでしょ?」
「さいってー。女の子が連れてかれて酷い目にあったら、どうすんの‼」
喜世川有栖は恐怖を忘れて激怒した。
素直にカッコイイ行動だと思ったからこそ、秋里涼真の発言を軽蔑する。
それを見て、この人は心も強く美しいのだなと思う秋里涼真。
(んー、そういう場合か~……───)
「多分、それなら助けに行くんだと思う。周りに誰が居ても、どこに逃げても」
「……お前が今みたいに強くなかったら、どうなんだ?」
「何でもやって、どうにか頑張るよ」
困ったような表情で、頼りなさ気に笑って言う。
強い奴、弱い奴。
両方見てきた兎洞雄之助にとって、秋里涼真は出会った事が無いタイプだ。
どこか歯車が噛み合っていないチグハグな印象がある。
「まあ、俺は俺より強いお前しか知らねえけどな……」
「「え、負けた?」」
女子二人が驚く、兎洞雄之助は圏内で最強のヤンキーだ。
「じゃなきゃ俺がコイツの話を信用する訳ねーだろ? 今も蹴られたとこが痛ェ」
「圏内最強を引き連れて歩いてた噂は本当だったん⁉」
「いや、俺が兎洞君の前を歩いてただけで……それと本来の圏内最強は生徒会長」
「な、何だ藪から棒に」
雄の眼光で見つめてきた兎洞雄之助に城ヶ崎一夏は不埒な想像をしてしまった。
「は、話が逸れているぞ! 喜世川への説明会が本題であろう!」
女は殴れねぇ───
兎洞雄之助が残念がる横で説明会は進行していく。
「喜世川さんが怖がってる血まみれの棒は、怖いものじゃない」
ダンジョンで本人から聞いた話を説明した。
面倒な部分は誤魔化して、彼女と相棒の冒険譚と別れを。
「化け物が?……」
「それで、運よく棒を手に入れたってだけ」
「うちが武器にして戦ってた、だけなん?……」
両手で顔を押さえて泣いている。
安堵から感極まったのだろうと思い、そっと差し出す。
「ふぇ……」
「ああ、癖になってんだよ。ポケットティッシュ持って歩くの」
シュバッと手から消える。
(瞬きしてる間に見逃しちゃった)
ハンカチを持った生徒会長と目が合った。
「武器か?……そう言えば、その部分の詳しい話はまだ聞いていないが?」
「俺と喜世川さんは武装してゴブリンと戦ってますね、ダンジョンでは」
「ダンジョンでゴブリンと⁉」
喜世川有栖、再起動!
城ヶ崎一夏と兎洞雄之助は首を傾げるだけだ。
(戦士の目だ、危機感が凄い)
やっぱり喜世川さんは頼もしい───
秋里涼真は右手をよく見えるように掲げると、グロック17を出す。
手品のように銃が現れて驚いた三人。
「このおしゃれなビーバーテールが第六世代の特徴でして」
「本物なのか⁉ 銃の不法所持は重罪だぞ?」
「生徒会長、これは現実にある物を再現しているだけなんです」
それに俺以外この銃に触れませんから───
三人が近寄って銃に触ろうと試すが説明の通りに銃を素通りする。
目の前の銃は、明らかに常識の埒外だ。
「実際に撃てます。俺はこの力を使って、何とか生き延びました」
「銃を出す……力?」
完全に三人から信じて貰えた手応えがある。
(これなら最初から銃を見せたら良かったかも?……)
「何で秋里君だけダンジョンの記憶を持ってるん?」
「みんなは一つ目のダンジョンをクリアした時に新しい力を望んだ。だけど、俺は銃があるから別の選択にした。記憶と力をこっちの世界に持ち帰る!」
秋里涼真は、三人の顔を一人一人見てから言った。
「───だから俺は、向こうでみんなにメッセンジャー役を頼まれたって訳」




