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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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第09話:英雄は、自分の能力を他者の幸せのために使う

 翌日、街の中央広場に特設された厨房。

 対決の審査員には、街の有力な貴族たちが呼ばれていた。


 僕は親父さんより一足早く会場に入り、食材と調味料の『段取り』を確認していた。


(……ん?)


 用意されていた特製スパイスの小瓶を開けた瞬間、僅かに鼻を突く異臭がした。

 『薬師』の知識が、即座に脳内で警鐘を鳴らす。


 見た目は精巧に似せているが、これは元のスパイスじゃない。

 舌の感覚を麻痺させ、激しい腹痛を引き起こす毒草の粉末だ。


(すり替えられた……。審査員にこれを食べさせて、僕たちを店ごと潰す気か……!)


「おやおや。底辺の親父は逃げ出したのかな?」


 向かいの厨房から、オーナーシェフがいけ好かない笑い声を上げる。

 そこへ、広場の人だかりを掻き分けて親父さんが現れた。


「親父さん……っ!」

 僕は思わず息を呑んだ。


 親父さんの顔には生々しい打撲痕があり、利き腕である右腕は不自然な方向に曲がってだらりと垂れ下がっている。


 包帯の隙間からは、じわりと赤い血が滲んでいた。


「道で少しばかり、ガラの悪い連中に絡まれてな……。遅くなってすまねぇ」

 親父さんは荒い息を吐きながら、無理に笑みを作った。


「そいつは災難でしたねぇ。そんな腕じゃ鍋も振れないでしょう? さっさと棄権したらどうですか」


 オーナーシェフが白々しい態度で肩をすくめ、背後の荒くれ者たちが下品に笑う。


 間違いなく、こいつらの仕業だ。調味料の毒へのすり替えに加えて、物理的な闇討ちまで。次から次になんて卑怯なやつらだ。怒りで僕の拳が震えた。


「冗談じゃねぇ……」


 親父さんは痛みに顔を歪めながらも、左手一本でしっかりと年季の入った中華鍋の柄を握りしめた。


「片腕を潰されようが、俺は料理人だ。厨房に立つ限り、客には最高の一皿を出す。それが俺の誇りだ」


 絶望的な状況でも決して折れない、職人としての不屈の魂。


 対象を見据える僕の『瞳』の表面に、親父さんの真の姿が鏡のように静かに映り込む。


 共鳴するように、僕の全身から白熱の魔力が黄金のオーラとなって立ち昇った。


【システムメッセージ:対象を『英雄(料理人)』と確認】

【対象との『覚悟』の同調を確認しました】

【スキル『英雄の鏡』発動――英雄スキル『料理人』を完全模倣します】


 視界に入るすべての食材から、最適な『加熱時間』と『切断角度』を教えてくれる声が聞こえる。


 膨大な調理工程が、優先順位を整理された一覧として脳内で整理されていく。


 ――ああ、そうか。


 料理も戦いも、煩雑な現象を『整理』し『正しい順番で実行』する行動が大切なんだ。


「……親父さん。右腕の代わりは、僕がやります」


 僕はすり替えられた毒のスパイス瓶をゴミ箱へ放り捨て、荷物袋から常備していた薬草を取り出した。


「調味料は奴らにすり替えられていました。でも大丈夫です。段取りは、僕の頭の中にありますから」


 僕は覚えたての包丁さばきで薬草を刻み、旨味成分と辛味成分を抽出して、すり鉢で完璧な配合比率で混ぜ合わせる。


 失われたスパイスを、薬学の力で代用し、さらに深みのある特製調味料を錬成したのだ。


「す、すげぇ……なんだお前、ただの見習いじゃなかったのか……っ」

「さあ、親父さん。極上の料理を作りましょう」


 親父さんが左手で繊細な火加減を調整し、僕が完璧なタイミングで中華鍋を振るって特製調味料を絡ませる。


 二人の息の合った連携により、広場中に暴力的なまでに食欲をそそる香りが爆発した。


 完成した至高の肉料理。


 審査員たちは最初、オーナーシェフに買収されている手前、嫌々といった態度でそれを口に運んだ。


 だが、一口噛み締めた瞬間、彼らの表情が雷に打たれたように硬直した。


「な、なんだこれは……!? 強烈な旨味の後にくる、この腹の底から湧き上がるような活気は!」


「奥深いスパイスの香りが、肉の重さを完全に消し去っている。いや、それだけじゃない。最近感じていた胃の重たさまで、すっと晴れていくようだ……美味すぎる!」


 薬草の知識で錬成された特製調味料は、単なる味付けを超え、食べる者の身体の不調すらも癒す『至高の薬膳』へと昇華されていた。


 買収という『汚い契約』を、誰も抗えない『本物の美味』という真実が完全に上書きした瞬間だった。


 僕と親父さんが魂を込めた一皿の前に、オーナーが積み上げた金という名の脆弱な壁は、脆くも崩れ去ったのだ。


「バ、バカな! 俺の栄光が、俺の店が……」

 オーナーシェフは膝から崩れ落ちる。


 彼らはその圧倒的な味の暴力の前に戦意を喪失し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。


   ◇ ◇ ◇


「……ふっ。見習いなんて撤回だ。お前は今日で弟子を卒業だな。助けられたぜ、ミラル」


 厨房を片付けながら、親父が満足そうに僕の肩を叩く。

 そこへ、ギルドでの依頼を終えたセリアが駆け寄ってきた。


「ちょっと! 広場がすごい騒ぎになってたけど、アンタたち勝ったのね! さっき残り物を一口もらったけど、アンタ、めちゃくちゃ料理上手いじゃない!」


 セリアが目をキラキラさせて僕を見る。


「これからの旅では、毎日美味しい料理が食べられそうね! 修行は終わったんでしょ? さあ、次の町へいざ出発よ!」


「いや、ちょっと待って。親父さん、腕の怪我もあるし回復するまで、残って手伝いたいんだよ」


 親父さんは左手で豪快に僕の背中を叩いて言った。


「バカ野郎、俺を誰だと思ってやがる。こんな腕の一本や二本、左手だけで極上のスープを作ってやるよ。それに、お前にはお前の行くべき道があるんだろう?」


 親父さんはニヤリと笑い、街道の先へと顎をしゃくった。


「お前みたいな『本物』が、いつまでもこんなボロ店に燻ってるんじゃねぇ。さっさと行って、世界中の美味いもんを見てきな!」


 その言葉に、僕の胸の奥がじんわりと温かくなった。

 親父さんから教わった『段取り』の力。


 それは間違いなく、これからの戦いでも僕の大きな武器になるだろう。

 僕たちは親父さんに笑顔で深く頭を下げ、新たな英雄を探す旅へと足を踏み出した。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

悪辣な妨害を「薬師」の知識と「料理人」の段取りで完璧に打ち破り、見事な勝利を飾りました!

皆様の応援が完結への最大の原動力です。この爽快な料理対決編を楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部にある『ポイント評価(☆☆☆☆☆)』を【★★★★★】にして作者を応援していただけると泣いて喜びます!

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