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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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第08話:英雄は、他者の評価に惑わされずに決断する

 荒野での戦いから数日。

 街道を歩く僕の足取りは、どこか重かった。


 魔王の抱える悲哀と、勇者の高慢な態度。

 世界の複雑さを目の当たりにして、考え込むことが増えていたのだと思う。


「ちょっとミラル。アンタ、最近顔が険しくなってるわよ」

 隣を歩くセリアが、僕の顔を覗き込んで不満げに頬を膨らませた。


「そんなしかめっ面で旅してても楽しくないわ! そんなときは、美味しい料理でしょう!」


 彼女は僕の腕を強引に引っ張ると、街道の先に見える大きな街の城壁を指差した。


「近くに料理が美味しい『グルマン』って町があるの。Aランクの稼ぎで、私が特別にごちそうしてあげるわよ! さあ、お腹ぺこぺこにするために走るわよ!」


   ◇ ◇ ◇


 美食の町グルマンは、街全体が様々なスパイスと肉の焼ける匂いに包まれていた。


 僕たちは街で一番有名だという高級料理店に入り、豪奢なシャンデリアの下で色鮮やかな肉料理を口に運んだ。


「……どう? 美味しいでしょ?」


 セリアが得意げに聞いてくるが、僕は曖昧に頷くことしかできなかった。


 確かに素材は良いのだろうが、ソースの味が濃すぎて、肉本来の旨味が完全に死んでしまっている。


 食事を終えて店を出たものの、なんだか少し胃が重かった。


「あの店、値段の割にはそこまでじゃなかったわね……。あ、ちょっと路地裏を通って近道しましょ」


 セリアに続いて薄暗い路地に入ったその時。


 僕の鼻腔を、ふわりと甘く、そして奥深い香ばしい匂いがくすぐった。


「この匂い……」


 匂いにつられて歩みを進めると、そこには看板も半分剥がれ落ちた、今にも崩れそうなボロい食堂があった。


 客の姿は一人もない。


 だが、厨房から漂ってくる匂いは本物だった。


 僕たちは吸い寄せられるように店内に入り、口直しにと、メニューにあった素朴な焼き林檎のデザートを注文した。


 奥からぬっと顔を出したエプロン姿の筋骨隆々な親父さんが、「……あいよ」と無愛想に注文を受ける。


 やがて、「ほらよ」という低い声と共に、テーブルに熱々のデザートが置かれた。


 親父さんのゴツい手には、その外見とはおよそ似つかわしくないほど繊細な、湯気を立てる小さな皿が載っていた。


 運ばれてきたそれを一口食べた瞬間、僕は目を見開いた。


「美味しい……! 表の高級店より、何十倍も美味いですよ!」


 林檎の酸味と、絶妙な火加減で引き出されたカラメルの甘みが、完璧な調和を見せて口の中で溶けていく。


 僕が素直な賞賛をこぼすと、厨房へ戻りかけていた親父さんがピタリと足を止めた。


 彼は振り返ってカウンターにドンッと手をつくと、僕の顔を覗き込むように前のめりになり、その目をじっと見つめてきた。


 無言の圧に僕が瞬きをした直後、親父さんは何か途方もないものでも見たかのように一瞬息を呑み、そしてパァッと顔を明るく輝かせた。


「……なんだ、お前のその目は。まるで、澄み渡った鏡のようじゃねえか。俺の魂の底まで見透かされてるみてぇだ」


 親父さんはチッと舌打ちをすると、照れ隠しのように頭をガシガシと掻いた。


「俺は絶対に弟子を取らねえ主義だが……どういうわけか、お前には俺の全てを叩き込みたくなった! 決めたぞ、今からお前は俺の弟子だ」


「えっ? あの、僕は冒険者ですし、セリアも一緒に……」

「つべこべ言わずにさっさと厨房に入れ!」


 巻き込まれそうになったセリアは、顔を引き攣らせて数歩後ずさった。


「わ、私は大丈夫! ロングソードは得意だけど、包丁はちょっと……! ミラル、私はギルドで旅に必要なお金稼いでくるから、気にせず頑張りなさい! 夕飯時には様子を見に戻ってくるからね!」


 セリアは風のような速さで逃走し、僕は一人、見知らぬボロ店の厨房に取り残されてしまった。


   ◇ ◇ ◇


「いいか坊主? 素材をよく見ろ。素材の声を聞くんだ。こいつらがどんな料理にしてほしいか、教えてくれるんだよ」


 それからの数日間。


 僕は見習いとして、親父さんから徹底的に料理の基礎を叩き込まれていた。


 親父さんの包丁さばきは魔法のように繊細で、分厚い肉も固い野菜も、まるで彼の手の中で喜んで形を変えているようだった。


「戦いも、恋愛も、料理もな。全部同じなんだよ。一番大事なのは、事前準備と段取りだ」


 親父さんが鍋を振りながら、背中で語る。


 その言葉には、長年一つの道を極め続けた者だけが持つ、重厚な真理が宿っていた。


 僕の淀んでいた心に、温かいスープのように彼の教えが染み渡っていくのを感じた。


   ◇ ◇ ◇


 親父さんの店で働き始めて数日が経ったある日の午後。


 店の引き戸が乱暴に蹴り開けられ、高価な服を着た男が、数人の荒くれ者を連れて踏み込んできた。


「よぉ、底辺の親父さん。まだこんな汚い店をやってんのか?」


 鼻持ちならない声の主は、僕とセリアが最初に入った、表通りの高級店のオーナーシェフだった。


「この路地一帯は、俺の店を拡張するために買い上げたんだ。さっさと店をたため! それとも、痛い目を見たいか?」


 荒くれ者たちが拳を鳴らして威嚇する。


 だが、親父さんは微塵も動じず、包丁を研ぐ手を止めなかった。


「料理人は料理で語るもんだ。俺の店を潰したきゃ、金や権力じゃなく、味で俺を負かしてみろ」


 その言葉に、オーナーシェフは不敵に笑い、なんと『料理対決』で決着をつけることを提案したきたのだった。


 負けた方がこの街から出ていくという、全てを懸けた勝負だ。

ここまでお読みいただきありがとうございます! 次なる舞台は厨房、全てを懸けた料理対決の行方はいかに……。

皆様の応援が完結への最大の原動力です。ページ下部にある『ポイント評価(☆☆☆☆☆)』を【★★★★★】にして作者を応援していただけると泣いて喜びます!

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