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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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第10話:英雄は、重き過去を背負って歩む

 木々の隙間から差し込む陽光が、徐々に冷たさを帯びていく。

 鼻を突くのは、湿った腐葉土と、どこか懐かしい獣道の匂いだ。


「ちょっとミラル。さっきから顔色悪いわよ。大丈夫?」

 隣を歩くセリアが、僕の顔を覗き込んで首を傾げた。


「……ええ、少し。もうすぐ僕の生まれ故郷が近いので、なんだか気が重くて」

 僕がぽつりとこぼすと、セリアはポンと手を打って明るく笑った。


「あー、なるほどね! 冒険者になったはいいけど、まだランクが低いから親御さんに合わせる顔がないってわけね! あんた最近まで荷物持ちだったし!」


 悪気の一切ない無邪気な推測。


「なら、Aランクの私の仲間だって名乗ればいいじゃない! それならご両親も安心するわよ。せっかく近いんだから、ちょっと寄り道していきましょうよ!」


 彼女の輝く瞳と、親切心から来る提案に、僕は曖昧な笑みを返すことしかできない。


 重い足取りでさらに歩を進め、視界が開けたところで、僕は前方を指差した。

「……あそこです。でも、誰もいませんよ」


 鬱蒼とした森を抜けた先に広がっていたのは、無残に朽ち果てた廃墟だった。

 焼け焦げた柱の残骸と、屋根の落ちた家屋。

 思い出の中にある鮮やかな色彩は、すべて灰色に塗り潰されていた。


「え……嘘、これって……」


 セリアが言葉を失い、腰の剣に手を当てて周囲を警戒し始める。

 そして僕もまた、目の前の光景に息を呑み、思わず足を止めていた。


 誰もいないはずの廃村。

 しかし、そこには『人』の姿があったのだ。


 広場の中央で、ボロボロのローブを纏った一人の男が、無数の墓石の前でシャベルを握っている。


 どうして、こんな滅びた村に――。


「……君たち、旅人かい。ここは見ての通り、何もない廃墟だよ」


 男が振り返る。

 落ち窪んだ眼窩と、死人のように青白い肌。

 その不気味な風貌は、廃村の空気によく馴染んでいた。


「アンタ、こんな所で墓を掘り返して何をしてるのよ!」


 セリアが鋭い声で問いただすと、男はシャベルを置き、ゆっくりと両手を上げて敵意がないことを示した。


「警戒しないでくれ。……私は、この村の生き残りなんだ。ここの生まれじゃないんだけど、縁あってこの村に住ませてもらっていてね」


 生き残り。

 その言葉に、僕の心臓が大きく跳ねた。


「立ち話もなんだ。良かったら、私の家に招待しよう。質素なものしかないが、このあたりは夜になるとフォレストウルフがうろついて危険だからね。旅の疲れを癒すといい」


   ◇ ◇ ◇


 男の言葉に促され、僕たちは彼が補修して使っているという小さな小屋へと足を踏み入れた。


 男が古びたストーブに火を入れ、作り置きのスープを温め直してくれた。


 煤けた机に並べられたのは、温かいだけの薄いスープと、硬い黒パンだった。

 それでも、男が不器用な手付きでもてなしてくれるその姿に、僕は言いようのない安らぎを感じる。


「……それで、アンタはどうして生き残ったの? お墓を掘り返してた理由も教えてよね」


 スープを一口飲み、セリアが単刀直入に尋ねる。


「ああ。私は、魔法薬の買い出しで別の町に出ている間に、村を襲撃された。戻ってきた時には、すべてが終わっていたよ……」


 男は濁った瞳を伏せ、硬い黒パンの端を千切った。


「私は、せめてもの弔いに墓を作った。そして、掘り返しては復活の儀式をしているんだが……物理的な蘇生では、魂のないスケルトンにしかならなくてね。一生をかけて研究するつもりなんだ。それで……君たちはなぜ、この廃村にやってきたんだい?」


 僕はスープの入った木皿を見つめ、静かに顔を上げた。


「……僕も、この村の生き残りなんです。惨劇の衝撃や幼かったのもあって、当時の記憶も曖昧なのですが、生まれ故郷を彼女に見せるために立ち寄りました」


「生き残りだって!? しかし、あの惨劇から一体どうやって……」


「僕の家には、食料を入れるための小さな地下貯蔵庫があったんです。父さんと母さんが僕をそこに押し込んで……。何日かして、村を訪れた商人に助けられました」


「なんだって……!?」

 男が弾かれたように立ち上がり、激しく椅子を鳴らした。


「それでは君は……グレイドさんの、息子のミラル君だと言うのか!」

「……僕の父を知っているんですか」


 男の目から、大粒の涙が溢れ落ちた。


「ああ、もちろんだとも。グレイドさんには、薬草の仕分けを何度も手伝ってもらった。……生きていてくれたか。本当によく、生きていてくれた……!」


 男の嗚咽が、狭い部屋に響く。


 冷たかったはずの廃村で、僕は思いがけない温もりに触れ、張り詰めていた心がゆっくりと解けていくのを感じていた。


 窓の外では、いつの間にか陽が落ち、夜の帳が静かに降りていた。


 アォォォォォォンッ!


 遠くで響く獣の遠吠え。

 それは、数年前のあの日と同じ、血に飢えた肉食獣の歌だった。

過去の記憶と重なる血に飢えた獣の遠吠え。果たしてミラルはどう立ち向かうのか……。

ここまでお読みいただきありがとうございます。どうか彼の戦いを見届けてください。

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