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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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第06話:英雄は、人類最大の脅威『魔王』を知る

 王都から遠く離れた、乾いた風が吹き荒れる岩肌の荒野。


「この先で魔王軍が動き、討伐のために『勇者』が向かった」という噂を聞きつけ、僕たちは急いでこの場所へ足を運んでいた。


 世界中の英雄を探す旅において、人間界の最高峰の英雄である勇者の戦いを見学できるチャンスなど、逃す手はないからだ。


「な、なに!? 今の爆発音!」


 セリアが即座に身を低くし、腰の剣に手をかける。

 僕たちは土埃の匂いが立ち込める岩陰に身を潜め、音のした方角を覗き込んだ。


 すり鉢状になった荒野の中心。


 そこには、豪奢な聖鎧を身に纏い、聖剣を構えた金髪の青年と、その後ろで倒れる魔法使いや僧侶たちの姿があった。


 対峙しているのは、漆黒の外套を羽織り、頭部に2本の荘厳な角を生やした長身の魔族だ。


「あれは……勇者パーティ? それに、あの角の魔族はまさか……魔王?」


 セリアがごくりと息を呑む音が聞こえた。

 魔族を統べる頂点、魔王。


 世界に災厄をもたらす絶対的な敵として、御伽噺でも語られる存在がそこに立っていた。


「ハァッ……ハァッ……! クソ化け物め、なぜ倒れない……!」


 勇者が血を吐くような声で叫び、聖剣を大きく振りかぶって渾身の斬撃を放つ。

 光の刃が魔王へと殺到した。


 しかし、魔王は身動き一つしない。


 刃が魔王の身体に触れる寸前、空間に不可視の壁が波紋のように広がり、勇者の全力の攻撃をいともたやすく霧散させてしまった。


 傷一つ負っていない魔王に対し、勇者の顔は疲労と絶望で歪んでいる。


 だが、圧倒的な力を見せつけたはずの魔王の顔に、勝利の歓喜や嘲笑はなかった。

 その真紅の瞳に浮かんでいたのは、深い悲哀だった。


「剣を収めよ。勇者よ。我は今日、そなたと戦うために来たのではない」


 低く、地鳴りのような声が荒野に響き渡る。


「我が魔界の地は、もはや枯れ果てようとしている。瘴気が失われ、大地は裂け、このままでは我が民は生きていくことができぬのだ。どうか、人間たちの地の一部を譲り受けるための、交渉を……」


「黙れ! 魔族との交渉などありえん!」

 勇者は目を血走らせ、対話を求める魔王の言葉を頭から否定した。


「地上は人間だけのものだ! お前たち汚らわしい魔族が足を踏み入れることなど、断じて許されるものか! 奪われた領土を必ず取り戻す」


 憎悪に満ちた叫びを聞き、魔王は静かに目を伏せた。


 その大きな背中からは、種族の存亡という重すぎる責任を一人で背負い込んでいる、途方もない孤独と覚悟がひしひしと伝わってくる。


(あの人は……自分のためじゃなく、民のために対話をしようとしているのか)


 圧倒的な力を持つ者が、なぜ自ら身を引き、頭を下げるのか。


 人間から浴びせられる理不尽な憎悪を黙って受け止め、それでもなお血を流さずに済む道を模索し続ける。その背中がどれほどの重圧に耐えているのか、想像するだけで胸が締め付けられた。


 僕の胸の奥で、強烈な熱が弾けた。


 善悪のレッテルや種族の壁など関係ない。己の誇りを捨ててでも、誰かを守るために泥を被るその姿。


 僕が幼い頃から御伽噺のなかに夢見て、そして現実の世界でずっと探し求めていた、決して揺るがない真実の『英雄』のあり方そのものが、そこにあった。


 確かな尊敬と共感が、僕の魂を震わせる。

 その瞬間、僕の全身から白熱の魔力が黄金のオーラとなって立ち昇った。


 岩陰から僅かに溢れ出たその光に、勇者たちは気づかない。だが――魔王だけが、静かにこちらへと視線を向けた。


 対象を見据える僕の『瞳』の表面に、魔王の威厳ある姿が鏡のように静かに映り込む。


 魔王は僕の澄み渡った瞳の奥に何かを悟ったのか、微かに目を見開き――やがて、その深い悲哀の瞳に、わずかな安堵の色を浮かべた。


【システムメッセージ:対象を『英雄(魔王)』と確認】

【対象との『覚悟』の同調を確認しました】

【スキル『英雄の鏡』発動――英雄スキル『魔王』を完全模倣します】


 脳内に無機質な声が響き、魔王の持つ絶大な魔力経路の構造と、あらゆる攻撃を弾き返す絶対防御『魔王の盾』の術式が、暴流となって僕の脳髄へと流れ込んでくる。


「……話が通じぬか。無念だ。だが……希望は、あるやもしれぬな」


 魔王は誰にともなく短く呟くと、それ以上の交戦を避け、空間を歪めてその場から姿を消した。


   ◇ ◇ ◇


 圧倒的なプレッシャーが消え去り、勇者は力尽きたようにその場にへたり込む。


「やった……魔王が逃げたぞ……俺の勝ちだ……!」


 勇者が虚勢を張って笑おうとした、その直後だった。

 ――その勝鬨を、嘲笑うかのように。


「ゲヒャヒャヒャ! 甘い、甘すぎるぜ魔王様ァ!」


 魔王が去った空間の歪みから、突如として粘り気のある汚泥のような瘴気が噴き出した。


 鼓膜を引っ掻くような笑い声と共に現れたのは、巨大な蝙蝠の羽を持つ醜悪な悪魔と、その背後に群がる無数の小悪魔たちだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

魔王の悲哀と勇者の傲慢。そして突如襲来した悪魔の脅威……。絶体絶命の危機に、ミラルはどう動くのか。

どうか次話での彼の決断を見届けてください。(皆様からのポイント評価による応援が、完結への原動力となります)

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