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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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第05話:英雄は、薬師の真実を知る

 翌朝、朝露がまだ冷たい時間帯。


 僕は小屋の裏庭にある小さな薬草畑で、言われた通りに雑草を抜いていた。


(……ん? なんだ、今の声)


 ふと、小屋の奥の隠し部屋から、微かなうめき声が聞こえた気がした。

 気になってそっと中を覗き込んだ僕は、思わず息を呑んだ。


 薄暗い部屋の床には、酷い熱病や大怪我に苦しむ貧民たちが何人も横たわっていた。


 そしてその中央で、老婆が徹夜の赤い目をこすりながら、高価な素材を使った本物の薬を煎じ、彼らの口に少しずつ運んでいたのだ。


(これが、師匠の本当の姿……)


 彼女は、ただのケチな詐欺師などではなかった。


 擦り傷のような軽い怪我には偽薬で安心を与え、浮いたお金や悪人から巻き上げた金で、本当に命の危機にある貧しい人々を救うために、高価な本物の薬を無償で使っていたのだ。


   ◇ ◇ ◇


 その日の昼。


 作業を終えた僕が小屋に戻り、集めた薬草の整理をしていた時のことだ。

 小屋の戸が乱暴に蹴り開けられ、派手な絹の服を着た太った男と、筋骨隆々の用心棒が踏み込んできた。


「おいババア! 昨日俺に売りつけやがった高価なポーション、ただの色水じゃねえか! よくもこの街一番の金貸しである俺を騙したな!」


 悪徳金貸しの怒声が響く。

 老婆はチッと舌打ちし、僕を庇うように一歩前に出た。


「知ったことかい。お前みたいなあくどい金持ちから巻き上げた金で、奥の部屋にいる連中が何人救われると思ってんだ!」


「この俺を騙したくらいだ。金が欲しいんだろう? いくらでもやるよ。そのかわり、これから先、ここに治療に来る患者にも、今いる患者にも、この『特製薬』を混ぜて与えろ。中毒者にして、俺の奴隷として使ってやる。患者も減るしちょうどいいだろ!」


 金貸しが懐から小さな革袋を取り出し、下劣な笑みを浮かべる。

 老婆の顔色がサッと変わった。


「ふざけるな……! そんなもん、死んでも誰が飲ませるかい!」


「クソババア! 金のために俺のことは平気で騙した癖に。おい、やっちまえ! 奥の部屋にいる連中もまとめて路上に放り出せ!」


 金貸しの命令を受け、用心棒が残忍な笑みを浮かべて長剣を振り上げた。

 奥の部屋にいる患者たちを守るため、老婆は老いた体を盾にして一歩も引かない。


 その迷いのない自己犠牲の背中を見た瞬間。


 僕の胸の奥で、強烈な熱が弾けた。


 汚い嘘をついてでも、誰かの命を救おうとするその覚悟。

 自分のためには、決して嘘をつかないその生き様。

 間違いなく、この人は僕が探していた『本物の英雄』だ。


 対象を見据える僕の『瞳』の表面に、老婆の真の姿が鏡のように静かに映り込む。

 共鳴するように、僕の全身から白熱の魔力が黄金のオーラとなって立ち昇った。


【システムメッセージ:対象を『英雄(薬師)』と確認】

【対象との『覚悟』の同調を確認しました】

【スキル『英雄の鏡』発動――英雄スキル『薬師』を完全模倣します】


 脳内に無機質な声が響き、老婆の持つ膨大な薬草の知識、調合の精密な技術、そして病を見抜く観察眼が、暴流となって僕の脳髄へと流れ込んでくる。


「死ねや、クソババア!」


 用心棒の凶刃が振り下ろされる刹那。

 僕は地面を蹴った。


 あの夜にラーニングした『剣聖』の神速の足捌き。

 空気が凍りつくような速度で用心棒の懐に潜り込み、下から突き上げるように、鋭い拳で顎を打ち抜いた。


「ガハッ……!?」


 脳を揺らされた用心棒は、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


「ひっ……!?」

 腰を抜かす金貸し。

 その手から、先ほどの革袋が床に転がり落ちる。


 僕は、覚えたての『薬師』の知識と観察眼をフル稼働させ、その革袋を冷たく指差した。


「その革袋から漏れ出ている、甘ったるい死の匂い……。第2級禁忌薬草『月見草の根』ですね」


 僕の言葉に、金貸しが弾かれたように肩を震わせる。


「……な、何を言って……」

「この国の法律では、その保有だけで全財産没収の上、終身刑のはずです。患者を中毒者にしようとした企みと合わせて、あなた達を衛兵に突き出します」


 覚えたばかりの膨大な薬学知識が、僕の脳内で冷徹な勝利の方程式を弾き出す。


「ひ、ひっ……! な、なんでガキがそんな専門的なことを……! お、覚えてろよ!」


「ヒ、ヒィッ……!」

 顔を引き攣らせた金貸しは、用心棒を見捨て、這いつくばるようにして路地裏へと逃げ去っていった。


 後日、彼が衛兵に捕まり牢屋に入れられたという噂を聞くことになるのだが、それはまた別の話だ。


   ◇ ◇ ◇


 騒動が収まり、老婆が僕をじっと見つめた。


「……お前さん、強いね。それに、いい目をしている。ただの下働きじゃもったいないね」


 老婆は僕の頭を乱暴に撫でた。


「その目で、いろんな人間の本質を映してきな。あんたなら、もっとでかい器に化けるよ」


 僕が深く頭を下げたその時。

 小屋の戸が開き、ギルドの依頼から帰ってきたセリアが飛び込んできた。


「ちょっとミラル! さっきすれ違った金貸しが、アンタに禁忌薬の成分を当てられたって騒いでたわよ!? アンタ、いつの間に薬の知識なんか身につけてるのよ!?」


 目を丸くして詰め寄るセリアに、僕は苦笑しながら瞳の奥に宿した黄金の輝きを静かに収めた。


 嘘つきの薬師が見せた、真実の英雄の姿。僕たちの巡礼の旅は、まだ始まったばかりだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

嘘に隠された老婆の真の「英雄」の姿を見抜き、新たな力『薬師』を獲得したミラル。彼らの旅はまだまだ続きます!

皆様の応援が完結への最大の原動力です。薬師編を楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部にある『ポイント評価(☆☆☆☆☆)』を【★★★★★】にして作者を応援していただけると泣いて喜びます!

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