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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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第04話:英雄は、薬師の元で修行する

 活気と土埃の匂いが混じり合う交易都市。

 王都から数日歩いたこの街の裏通りを、僕とセリアは並んで歩いていた。


「英雄を探す旅って言っても、何かあてはあるわけ?」


 白銀の軽鎧を揺らしながら、セリアが呆れたようにため息をつく。


「いえ、特に。でも、色々な街を見て回れば、どんな場所にも英雄っていると思うんです」


 僕が答えると、彼女は信じられないものを見るように目を丸くした。


「アンタねぇ……行き当たりばったりにも程があるわよ。お師匠様もなんでこんなのを弟子に……っ、危ない!」


 セリアが鋭く声を上げた直後だった。


 路地裏を通り抜けようとした荷馬車が大きく揺れ、積まれていた木箱の山がバランスを崩して崩落した。


「うわぁぁんっ!」


 ガラガラと音を立てて転がった小さな木箱が、近くで遊んでいた幼い少年の近くに落ちてバラバラになっていた。


「大丈夫ですか!?」


 僕が慌てて駆け寄ると、少年の膝は大きく擦りむけ、泥と血が混じて痛々しい傷になっていたが、運よく木箱は直撃しなかったようだ。


「痛いよぉ……っ」


 泣きじゃくる少年の周囲に、路地裏の住人たちが集まってくる。

 だが、彼らの身なりは酷く貧しく、高価な回復薬など持っているはずもなかった。


「おい、早く路地の奥の『老婆の薬師』のところへ連れて行け。あそこなら、タダで診てくれるぞ」


 大人の一人がそう声をかけ、少年の母親らしき女性が子供を抱きかかえて路地の奥へと走り出す。


「タダで診てくれる薬師……行ってみましょう、セリアさん」


 僕たちは顔を見合わせ、後を追うように薄暗い路地を進んだ。


   ◇ ◇ ◇


 たどり着いたのは、今にも崩れそうなあばら家だった。


 戸口の前に立つと、中から酷く猫背で、顔中がシワだらけの老婆が出てきた。


「なんだい、騒々しいね。またガキが怪我でもしたのかい」


 偏屈そうな声を出しながら、老婆は少年の膝の傷を一瞥する。


 そして、鼻で小さく笑うと、懐からひどく汚れの目立つ古い小瓶を取り出した。


「運がいいね。これは私が調合した特製の魔法薬さ。こいつをかければ、痛みなんてすぐ飛んでいく」


 老婆が小瓶から透明な液体を少年の膝に振りかけ、傷を綺麗に洗浄して包帯を巻いた。


 すると、泣き叫んでいた少年の表情が、すっと安堵に緩んだ。


「……痛くない。おばあちゃん、痛いの消えたよ!」


 少年が涙を拭って満面の笑みを見せる。


 母親は何度も頭を下げ、親子は連れ立って帰っていった。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 親子の姿が見えなくなった瞬間、セリアがズンと前に出て老婆に詰め寄った。


「今の、魔法薬じゃないでしょ! 傷なんて全然治ってなかったわよ! プロの冒険者の目は誤魔化せないんだからね、この詐欺師!」


 セリアの鋭い指摘に、老婆はチッと舌打ちをした。


「うるさい小娘だね。あんなただの擦り傷に、高価な本物のポーションなんか使えるかい」


「だからって、嘘をついて騙すなんて最低だわ!」


 セリアが憤慨して腰の剣に手をかける。

 だが、僕は老婆の横顔を静かに見つめていた。


「……でも、すごいですね」


 僕がポツリとこぼすと、セリアと老婆が同時にこちらを振り向く。


「本当の魔法を使わなくても、痛みを消して、あの子を笑顔にした。僕にはできないことです」


 僕が純粋な感嘆を込めて言うと、老婆は目を丸くして数秒ほど僕の瞳を覗き込み……やがて、ひどく困惑したように顔をしかめた。


「……なんだい、お前のその、真っ直ぐすぎる目は。その目は、まるで澄み渡った鏡のようだね。嘘をついている罪悪感が、今更沸き上がって胸糞わるいねぇ……」


 老婆はチッと舌打ちをすると、忌々しそうにそっぽを向いた。

 一人でこの場所に立ち続け、自分を偽ることでしか他人を救えなかった彼女にとって、その瞳はあまりに眩しく、鋭すぎたのかもしれない。


「ちょうど、猫の手でも借りたいくらい忙しかったんだよ。今日から私の下働きとしてこき使ってやる。本物の薬師ってやつがどれだけ泥臭いか、教えてやるさ」


「えっ、本当ですか? よろしくお願いします!」


「ちょっとミラル!? こんな詐欺師のところで働くなんて正気!? もう、どうなっても知らないからね! 私はギルドで、旅の資金を稼ぐためにクエストを受けてくるわ!」


 顔を真っ赤にして怒ったセリアは、踵を返して路地裏から去っていった。


 嵐のように去っていった彼女の後ろ姿を見送った後、僕は手渡された箒を握りしめ、改めて老婆を見た。


 酷く曲がった背中。だが、その白濁した瞳の奥には、確かな知性と、徹夜を繰り返したような深い疲労の影があった。

 それに、微かにだが――小屋の奥から、先ほどのただの色水とは違う、強烈で高価な薬草の匂いが漂ってくる。


 何より、僕へと箒を突き出した老婆の手は、幾重にも薬品で焼け焦げ、無数の刃物の切り傷でボロボロに爛れていたのだ。


(……この人、本当は……誰かのために、一人でずっと戦っているんだ)


 残された僕は、その予感を胸に秘めたまま、嘘つきの薬師の小屋で働くことになった。

ここまでお読みいただきありがとうございます! 嘘つき薬師の隠された真実とは……。

次話も引き続きお楽しみください。ページ下部にある『ポイント評価(☆☆☆☆☆)』を【★★★★★】にして作者を応援していただけると泣いて喜びます!

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