第03話:英雄は、旅立つ
「おお、セリアか。久しいな」
村長――かつての剣聖が穏やかに応じる。
赤髪の少女・セリアは、若くしてAランク冒険者に登り詰めた天才剣士だ。
その二つ名は『赤鬼』。
だが、目の前に立つ彼女から漂うのは、粗暴な鬼のそれではなく、極限まで研ぎ澄まされた冷徹な剣気だった。
「久しいな。じゃありませんっ! あんな三流パーティに村の護衛を頼むなんて……それで、その隣にいるパッとしないのは誰ですか?」
セリアの鋭い視線が、値踏みするように僕を射抜く。
「この小僧は、新しい弟子のようなものかな。ミラル君だ」
「で……弟子!? お師匠様が私以外の弟子を取るなんて……!」
セリアの頬が微かに赤く染まり、彼女は悔しそうに唇を噛んだ。
「ちょっとアンタ。お師匠様をどうやって騙したの! それにアンタあの、ゴミパーティの一員なんでしょ? どうせ、村の金目当てのただのペテン師でしょ!」
「騙してなんかいません。僕はただ……」
「それにね。私に許可なく勝手に弟子を名乗らないでよ! 私が唯一の愛弟子で、免許皆伝なんだからね!」
『赤鬼』の異名を持つ彼女が腰に手を当て本気で怒ると、ギルド内の空気が一瞬で凍りついた。
「アンタの化けの皮をはがしてやるわ。表に出なさい! お師匠様の隣に立つ資格がないことを、今ここで私が証明してあげる!」
◇ ◇ ◇
ギルドの裏手にある訓練場。
セリアは受付から借りてきた二本の木刀のうち、一本を僕に放り投げた。
「私のお師匠様をペテンにかけたことを、後悔させてあげる」
野次馬の冒険者たちが遠巻きに見守る中、セリアが木刀を正眼に構える。
「Aランク冒険者として、最初から全力で行くわよ。……悪いけど、痛い思いをして身の程を知りなさい!」
放たれた冷徹な剣気が、それが単なる脅しではないことを物語っていた。
セリアが鋭く地面を蹴った。
「はぁぁっ! 赤の幻影斬!」
放たれた一撃は、ガランの鈍重な剣撃とはまるで次元が違った。
赤い髪と木刀がブレて幾重にも分身したかのような、赤い残像を伴う超高速の連撃。
凡人ならその『剣気』と幻影にあてられ、身動きすら取れなくなる必殺の技。
(速い……っ!)
本能が警鐘を鳴らす。
だが、焦りはなかった。あの日に覚えた本物の英雄の『形』は、すでに僕の身体の隅々にまで完全に浸透している。
迫り来る赤い幻影に応じるように、僕の瞳の奥で微かな黄金の光が瞬いた。
僕は彼女の必殺技に対し、流れるような自然な動作で、剣聖である村長が見せた神速の足捌きを――寸分違わず、完全に再現した。
「なっ……!?」
セリアの視界から、僕の姿が掻き消える。
彼女の幻影斬を紙一重の最小動作で回避し、思考の裏をかくような動きで懐へ潜り込んだ。
すれ違いざま、僕は彼女の背後に回り込み、木刀の先をその無防備なうなじにピタリと添えた。
一筋の冷や汗が、彼女の頬を伝う。
「……勝負あり、ですよね。セリアさん」
僕がスッと木刀を引くと、セリアは信じられないものを見るように、大きく目を見開いて振り返った。
「……嘘。ありえないわ。今のは、お師匠様の……」
セリアの瞳が、恐怖に近い戦慄で激しく揺れていた。
その足捌き一つに、どれだけの年月と修羅場が必要か、彼女には痛いほど分かっているはずだ。それを、このパッとしない少年が、さも当然のように『再現』してみせたのだから。
「動きだけじゃない……呼吸、重心の移動、殺気の断ち方まで。私とお師匠様だけの領域だったのに……あんた、一体どんな修行を受けたっていうの……!?」
「すみません。村長さんの背中がとても格好良かったので、真似させてもらいました」
僕が微笑むと、セリアはギリッと強く唇を噛み締め、燃えるような瞳で僕を睨みつけた。
「真似ですってぇ! そんな修行の仕方は、絶対に認めないわよ! ペテンみたいな修行で、お師匠様の弟子を名乗るだなんて!」
「セリア、納得できない気持ちも分かる。だがミラルは、その目で私の剣の極意を確かに学んだ。しかし、戦闘の経験が少ない。先輩としてミラルを指導してやってくれないか?」
「し、指導!? 私がこのパッとしない新人を……っ」
「セリア。……お前にしか頼めないんだ」
師匠としての心からのお願いに、セリアは弾かれたように僕の方を向き、不満足そうに頬を真っ赤に染めて言った。
「っ……! お師匠様がそこまで言うなら、納得いくまでアンタの旅に付きまとって、その正体を私が必ず暴いてやるんだからね!」
バッと背を向け、燃えるような髪を揺らして訓練場を出て行く彼女の背中を見つめることしかできなかった。
村長が愉快そうに笑いながら、僕の肩を叩く。
「ミラルよ。お前の鏡が何を映し、本当は何を『整える』ためのものなのか。彼女と共に世界中の英雄を見聞すれば分かるだろう」
「世界中の英雄、ですか……」
「ああ。世界には、お前の想像を絶する『覚悟』を持った本物がごまんといるぞ。……あのじゃじゃ馬には手を焼くだろうが、セリアが一緒なら、互いに良い道標になるだろうて」
偽りの英雄を払い、真実の輝きを探す旅。
これが、僕と『英雄の鏡』の本当の始まりだった。
セリアを圧倒し、彼女と共に英雄を探す旅へ!
二人の賑やかな道中から目が離せません。
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