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外れスキル『英雄の鏡』で追放された荷物持ちは、本物の【覚悟】を写し取る~命の重さと業を背負い、少年は真の英雄へと成り上がる~  作者: cross-kei


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第13話:英雄は、大商人の覚悟を知る

 応接室に一列に並ばされたのは、指輪がなくなった時間に部屋へ入った3名の使用人だった。


 全員が貧民街から雇い入れられたばかりの若者で、顔を青ざめさせて震えている。


「ミラル、どうやって探すの? 身体検査でもする?」


 焦るセリアに、僕は静かに首を横に振った。


 死者の魂と対話する『死霊術師』の知見。


 僕は静かに目を閉じ、屋敷に漂う微かな魔力の波長に意識を研ぎ澄ませた。


(……見えた。強烈な『想い』の残滓だ)


 目を開けた僕は、一番右端で震えていた青年の前に立ち、そのポケットを指差した。


「……あなたのポケットに入っていますね。亡き奥様の、温かい愛情の残滓がそこから感じられます」


「ひっ……!」


 青年が短い悲鳴を上げ、その場に泣き崩れた。


 静まり返った応接室に、青年の荒い呼吸音だけが響く。


 彼のポケットから転がり落ちたのは、間違いなく銀色の美しい指輪だった。


「アンタ……っ! お母様の大事な形見なんだから、すぐに返しなさい!」


 セリアが剣幕で怒鳴りつけると、青年は床に額を擦りつけて咽び泣いた。


「申し訳ありません……! 母が重い病気で、どうしても高価な薬を買うお金が必要だったんです……! クビになっても、捕まっても構いません! どうか、母だけは……っ!」


 その悲痛な叫びに、セリアの怒りの矛先が鈍り、彼女は言葉を詰まらせた。


「……失礼を承知で申し上げます。僕の力なら、彼のお母さんを治療できるかもしれません。どうか、彼女をこの屋敷に呼ぶ許可をいただけないでしょうか」


 僕が静かに願い出ると、セリアの父親は少しの間黙考し、やがて短く息を吐いた。


「……マリー。裏口に馬車を回せ。その者の母親をここへ運んでこい」


「はいっ、旦那様!」


 父親の指示に、青年は信じられないものを見るように目を丸くした。


   ◇ ◇ ◇


 数時間後。屋敷の裏口に運び込まれた青年の母親は、顔色が悪く激しく咳き込んでいた。


 僕は老婆の『薬師』の知見をフル回転させ、症状と病の原因を瞬時に見抜く。


「マリー姉さん、厨房にあるセリ草と、乾燥させたジンソクの根を持ってきてください」


 僕は手際よくあり合わせの薬草をすり潰し、『料理人』の段取りの力で完璧な温度で煎じ薬を調合した。


「これを飲んでください。少し苦いですが、すぐに楽になります」


 僕が薬を飲ませると、嘘のように母親の咳が治まり、顔に血の気が戻り始めた。


「あ、ああ……! ありがとうございます、ありがとうございます……!」


 青年が何度も何度も僕に頭を下げる。


 僕は調合のレシピを紙に書き留め、それを騒ぎを聞きつけてやって来たセリアの父親へと差し出した。


「このレシピで調合した薬を毎日与えれば、お母さんの病気は必ず回復します」


 その紙を受け取り、彼は無言で僕を見つめていた。


   ◇ ◇ ◇


 その夜、僕は一人で屋敷の執務室に呼ばれた。


 分厚い帳簿の山に囲まれ、セリアの父はランプ의灯りを頼りに万年筆を走らせていた。


「……見事だったな。あのまま私が彼を罰していれば、恨みだけが残っただろう」


 顔を上げないまま、静かな声が響く。


「商人は、失敗が許されない。一度の感情的な判断が組織を腐らせることもあるからな」


 ペンを動かす音がピタリと止まり、彼が顔を上げた。


「……妻は、セリアを産んですぐに亡くなった。男手一つで育てたのだが、危険な目に遭わせたくなくて、厳しくし過ぎてしまったようでな」


 彼は自嘲気味に笑い、僕を正面から見据えた。


 その言葉に含まれた不器用な愛情に打たれ、僕は思わず彼を真っ直ぐに見つめ返した。


 僕の揺るぎない眼差しを受けた瞬間、父親は言葉を失い、小さく息を呑んだ。


「なんだ、君のその目は。……まるで、澄み渡った鏡のようだな。私の魂の底まで見透かされているようだ。どうやら、君には嘘がつけないな」


 彼は僕の器の底知れなさに呑み込まれるように、観念した様子で一つ深く息を吐いた。


「ミラル君。1つだけ覚えておいて欲しい。過剰に得た富は、富無きものにこそ配分するべきだ。孤児院や無料の治療院への支援も、貧民を雇い入れるのも……それが、上に立つ者の責任なのだとな」


 冷徹な仮面の奥に隠された、巨大な優しさと責任感。


 莫大な利益のすべてを、声なき弱者のために注ぎ込む。それはまぎれもなく、僕が追い求める『英雄』の姿だった。


 対象を見据える僕の『瞳』の表面に、彼の深い愛情と責任感が鏡のように静かに映り込む。


 共鳴するように、僕の全身から白熱の魔力が黄金のオーラとなって立ち昇った。


 父親は眩しそうに目を細め、握っていた万年筆を置いて、その光景を食い入るように見つめた。


【システムメッセージ:対象を『英雄(商人)』と確認】

【対象との『覚悟』の同調を確認しました】

【スキル『英雄の鏡』発動――英雄スキル『商人』を完全模倣します】


 脳内に無機質な声が響き、万物の真の価値を見極める知見が流れ込んでくる。


 魔力の流れ、武具の弱点、そして人の心に隠された真実すらも。


 溢れ出る黄金の魔力と、決して揺るがない僕の覚悟を目の当たりにして、彼は初めて微かに笑った。


「……君には、底知れない商人の才能がありそうだ。セリアと結婚したら、私の後を問題なく継げるだろう」


「えっ、あ、いや、婚約というのはその……!」


 僕が顔を赤くして慌てるのを見て、彼はさらに口角を上げた。


「……セリアは、立派な冒険者です。僕もいつも助けて貰っています。これからも2人で、旅を続けます。彼女は、僕が必ず守ります」


 僕が真っ直ぐにそう宣言すると、彼は深く頷いた。


「……セリアを、頼む」


 翌朝、豪邸の門の前。


「なんかさ、お父さんの顔、昨日より優しくなってたわね」


 セリアが少し照れくさそうに笑いながら、屋敷を振り返る。


「はい。とても温かい人でしたよ」


 僕の言葉に、彼女は嬉しそうに頷いた。


「さあ、行こっか! 私の『婚約者』さん!」

「だ、だからそれは冗談でしょ!?」


 からかうように前を歩くセリアの背中を、僕は苦笑いしながら追いかけた。


 新たに得た『真の価値を見極める眼』は、これからの旅で大きな力となるだろう。

真の英雄たる商人の姿に触れ、ミラルはまた新たな力と絆を手に入れました。

一つの事件の完結までお読みいただき、本当にありがとうございます! 皆様の応援が完結への最大の原動力です。

彼らのさらなる旅を応援していただける方は、ぜひページ下部にある『ポイント評価(☆☆☆☆☆)』を【★★★★★】にして作者を応援していただけると泣いて喜びます!

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