第12話:英雄は、真実を知ろうと行動する
木漏れ日が揺れる街道を、僕たちは並んで歩いていた。
廃村での激闘から数日が経ち、風が運んでくる土の匂いも、以前よりずっと清々しく感じる。
「ねえ、ミラル。この近くに私の故郷があるの。知り合いの立派な屋敷で、豪華なご馳走とふかふかのベッドでおもてなしを受けられるから、気分転換に寄っていかない?」
隣を歩くセリアが、悪戯っぽく笑いながら提案してきた。
僕に辛い過去を直視させてしまったことへの、彼女なりの気遣いだとすぐに分かった。
「はい。豪華なご馳走は魅力的ですね。ぜひ行ってみたいです」
僕が微笑んで答えると、彼女はパッと表情を輝かせた。
◇ ◇ ◇
たどり着いたのは、巨大な城壁に囲まれた活気ある商業都市だった。
そして、都市の中心部にそびえ立つ、城と見紛うほどの大豪邸。
「えっと……ここが、セリアの知り合いの屋敷ですか?」
見上げるような鉄格子の門の前で、僕は思わず足を止めた。
「そうよ。遠慮なんかいらないからね!」
セリアは堂々とした足取りで進み、門番たちも驚いたように道を開ける。
通された応接室は、踏み沈むほど分厚い絨毯が敷かれ、壁には見事な風景画が飾られていた。
息の詰まるような重厚な空気に僕が小さくなっていると、お茶を運んできたメイドの姿が目に留まった。
顔を上げた彼女と視線が交差する。
「……あれ? もしかして、ミラル君?」
「マリー姉さん……!?」
それは、僕がいた孤児院で、いつも優しく世話をしてくれていた年上の少女だった。
「どうして、姉さんがこんな大商人の屋敷で働いているんですか?」
僕の問いに、マリー姉さんは少し誇らしげに笑った。
「実はね、この屋屋敷で働いている使用人の多くは、私みたいな孤児院の出身者や、貧民街で働き口に困っていた人たちなのよ。旦那様が、正当な賃金で雇ってくださっているの」
マリー姉さんの言葉に、僕が感心していると、彼女は不思議そうに小首を傾げた。
「ミラル君こそ、どうしてお嬢様と一緒にいるの?」
「……お嬢様?」
僕が間の抜けた声を出すと、セリアが「あちゃー」という顔で額を押さえた。
「ごめん、ミラル。実はここ、私の実家なのよ」
その事実を消化する間もなく、重い木扉が開いた。
入ってきたのは、高価な絹の服を着た、鋭い眼光の初老の男性だった。
「……戻ったか、セリア。冒険者ごっこに飽きて縁談を受ける気になったのか?」
温度を感じさせない、氷のように冷たい声。
「ごっこじゃないわ! 私はAランクになったのよ! 縁談なんか受けませんっ!」
セリアが声を荒らげるが、父親は表情一つ変えない。
「それで、そこの貧相な少年は荷物持ちか?」
値踏みするような蔑む視線が、僕に向けられる。
その瞬間、セリアが僕の腕をガシッと掴み、自分の胸へと勢いよく引き寄せた。
「なっ……違うちがう! こ、こいつは……私の、その、こ、婚約者なんだからねっ!」
顔を林檎のように真っ赤にして、セリアが叫んだ。
(ええっ!? こ、婚約者!?)
僕の心臓が早鐘のように鳴り出し、変な声が出そうになるのを必死に堪える。
というのも、セリアが僕の腕にぎゅっと抱きつき、その柔らかい体がぴったりと密着していたからだ。
彼女から漂う甘い香りと、腕に伝わる確かな温もりに、頭が真っ白になってしまいそうだった。
どう考えても、父親を挑発するための出まかせだ。
それでも、セリアは僕の腕をしっかりと抱え込んだままツンと胸を張る。
だが、父親は僕を一瞥しただけだった。
「……好きにしろ。私は忙しい」
彼が興味なさげに踵を返したのを見て、セリアは「なによ、張り合いがないわね」と不満げに僕の腕からパッと離れた。
(腕から伝わっていた温もりが不意に消え、僕は少しだけ名残惜しさを感じてしまった——)
その直後だった。
開け放たれたままの扉から、別のメイドが血相を変えて駆け込んできたのは。
「だ、旦那様! 大変です、亡き奥様のお部屋から、形見の指輪がなくなっております……!」
その報告に、応接室の空気が凍りついた。
「お母様の指輪が!?」
セリアが声を張り上げるが、父親はため息をつき、冷徹な声で告げた。
「あの部屋の掃除に入ったのは、新人のお前たち3名だったな。……だが、たかが指輪一つだ。犯人を捜すような無駄な真似はしなくていい。下がれ」
「ちょっと待ってよ! お母様の形見なのよ!? 絶対に犯人を捜して取り戻すんだから!」
激昂するセリアと、冷たく顔を背ける父親。
このまま犯人捜しが打ち切られれば、あの部屋を掃除したという使用人たち――その中にはきっと、孤児院出身のマリー姉さんも含まれている――に、一生拭えない窃盗の疑惑がつきまとってしまう。
それに何より、気丈に振る舞って父親に食ってかかるセリアの瞳の端に、今にも零れ落ちそうな涙が浮かんでいるのを見逃せなかった。
理不尽な疑いを晴らすため。そして、大切な仲間の涙を拭うため。
重苦しい沈黙が落ちた部屋で、僕は静かに一歩前に出た。
「……僕に、探させてください」
僕の言葉に、セリアと父親の視線が同時に集まった。
思わぬ形での実家訪問、そして消えた形見の指輪。ミラルはどのようにして真実を見つけ出すのでしょうか。
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