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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第4章

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「制度の外で、呼吸する」


世界は変わらなかった。


王都はいつも通りに動き

制度はいつも通りに回り

人々はいつも通りに朝を迎えた。


市場では値段の交渉が行われ

兵舎では号令が響き

学院では講義が始まる。


一人の男が死んだことなど

統計の端にも残らない。


誤差にもならない。


それがこの世界の普通だった。


---


管理外区域のさらに外。


地図に載らない丘の向こう側。


そこをセラとミレイアは歩いていた。


急がない。

振り返らない。

隠れもしない。


追跡は完全に止まっている。


監視魔法の気配も

尾行の足音もない。


制度はもう彼を死者として処理した。


それに連なる者たちも

危険度が下がったと判断された。


書類一枚で

追跡は消える。


それが制度だ。


---


「本当に」


ミレイアが丘を越えながら言う。


「死んだのね」


声は静かだった。


確認ではない。

整理だ。


「ええ」


セラは頷く。


「記録上は」


その言い方がすべてだった。


生死よりも

記録が優先される世界。


彼はもう“存在しない”。


それが公式だ。


---


拠点は小さな廃村だった。


かつて十数戸の家があった形跡がある。

屋根は崩れ

壁はひび割れ

井戸は乾いている。


過去に魔力汚染が発生し

住民が避難したまま戻らなかった場所だ。


今は誰も住んでいない。


だから

誰にも管理されない。


地図上では「危険区域」。


実際には

「放置区域」。


制度が手を出さない場所。


それがここだった。


---


セラが周囲を確認する。


建物の影。

屋根の上。

地面の魔力反応。


一つずつ目で追う。


「安全」


短い報告。


「完璧ね」


ミレイアは外套を脱いだ。


商人としての服装をやめ

動きやすい簡素な服に変わる。


商人の顔はもうない。


ここでは

値段も契約も意味を持たない。


---


彼はまだ来ていない。


だが。


来ると分かっている。


魔力嵐の中心に立った距離。

測定器が反応した数値。

あの一歩。


すべて計算通りだった。


---


夜。


焚き火を起こす。


薪は少なく

炎は小さい。


煙は抑え

光も抑える。


目立たないように。


けれど。


ここでは完全に消す必要はない。


管理区域ではないからだ。


見張りの目も

巡回も

ない。


---


「ねえ」


ミレイアが火を見つめながら言う。


「彼がやろうとしていたこと」


「分かる?」


セラは少し考えた。


思い返す。


代替試験。

命令拒否。

前に出て下がった。


「制度を」


「否定しないこと」


「ええ」


ミレイアは頷く。


「壊さない」


「でも」


「触れない」


制度に従わず

制度を攻撃せず

制度を利用もしない。


均衡派とも違う。

反乱者とも違う。


どこにも属さない立ち位置。


---


「だから」


ミレイアは続ける。


「ここでやることは」


「革命じゃない」


「ええ」


セラは即答した。


「実験です」


成功も失敗も

誰も責任を問われない。


切られない。


それが条件だった。


---


翌日。


最初の“客”が来た。


若い男だった。


年は二十前後。

服は擦り切れ

顔には疲労が浮かんでいる。


剣は持っていない。

魔法の反応もほとんどない。


ただ逃げてきた。


それだけが分かる。


---


「ここ」


男は怯えた声で言う。


「噂で」


「“戻されない場所”があるって」


戻されない。


つまり制度に。


セラは答えない。


ミレイアが代わりに言う。


「ここは」


「何も約束しない」


はっきりと。


「守らない」


「育てない」


「保証しない」


「責任も取らない」


男は一瞬戸惑った。


期待していた言葉ではない。


それでも。


「それでも」


「いいです」


そう言った。


逃げ場を探している者にとって

保証のなさは問題ではない。


命令がないことが

重要だった。


---


夜。


彼は焚き火のそばで眠った。


誰も見張らない。

交代もない。

命令もない。


逃げてもいい。


留まってもいい。


翌朝。


彼はまだいた。


逃げなかった。


---


セラが静かに言う。


「第一例」


「ええ」


ミレイアは頷く。


「失敗しても誰も切られない」


それがこの場所の条件。


---


数日後。


二人目が来る。


今度は女だった。


体格がよく

剣の扱いにも慣れている。


力はある。


だが。


命令に耐えられなかった。


「考えるな」


「従え」


それを拒否した。


結果外れた。


---


ここではルールは増えない。


名簿も作らない。

登録もしない。


記録は

ミレイアの頭の中だけ。


紙に残せば追跡される。


だから残さない。


---


「これ」


セラが廃屋の壁にもたれながら呟く。


「続けられると思いますか」


ミレイアは少し考えた。


丘の向こうに目を向ける。


「分からない」


正直な答え。


「でも」


「続けなければ分からない」


実験は

やめた瞬間に失敗になる。


---


その夜。


風が丘を渡る。


草が揺れ

廃屋の扉が軋む。


遠くに王都の灯りが見える。


小さく。

まるで別の世界のように。


---


そして。


闇の中から一人の男が現れた。


フードを深くかぶり

足取りは静か。


迷いがない。


セラは即座に構える。


体が先に動く。


だが。


次の瞬間

動きを止めた。


---


「遅くなりました」


声は低い。


だが。


確かに聞き慣れていた。


測定器が途切れたあの瞬間から

続いている声。


---


ミレイアが息を止める。


セラは一歩だけ前に出る。


「名前は」


彼女が聞く。


今の彼は死者だ。


制度上存在しない。


男は少しだけ考えた。


焚き火の光がフードの影を揺らす。


そして答えた。


「まだ」


「ありません」


---


火が小さく揺れる。


ここには制度も記録もない。


だから。


名乗らなくても生きられる。


名前がなくても

切られない場所。


それがこの丘の向こう側だった。


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