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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第4章

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「死を、使うという発想」


死にたいわけじゃない。


それだけははっきりしていた。


逃げたいわけでもない。

投げ出したいわけでもない。


ただ――

このままでは誰かがまた切られる。


それが嫌だった。


---


部屋は静かだった。


以前は扉の外に立っていた監督官の足音も

今はない。


均衡派が動いたことで

形式上の監視は緩んだ。


理由は単純だ。


俺は逃げないと判断されたからだ。


「制度の中で飼い殺せる男」。


そう評価されたのだろう。


---


俺は机に紙を広げた。


白紙だ。


武器もない。

地図もない。

作戦図もない。


あるのは

これまで起きた出来事の整理だけだった。


俺は箇条書きにしていく。


(均衡派の狙い)


・俺を消すことではない

・見せしめにすること

・「男が前に出るとこうなる」という物語を固定すること


ペンが止まる。


(つまり)


(俺が生きている限り)


(彼らの物語は完成しない)


生きて沈黙して管理されている男。


それは均衡派にとって一番都合のいい結末だ。


---


ミレイアが俺の顔を覗き込む。


「嫌な顔してるわね」


「はい」


俺は正直に答えた。


「思いついてしまった」


「何を」


「最悪で一番効果的な案を」


自分でも口にするのが嫌だった。


---


セラが視線を上げる。


「聞かせてください」


俺はゆっくり息を吸った。


「俺が」


「“死んだことになる”」


沈黙が落ちる。


部屋の空気が急に重くなった。


---


最初に口を開いたのはミレイアだった。


「なるほど」


冷静だ。


「殺されるんじゃなくて」


「死んだと“記録される”のね」


「ええ」


俺は頷く。


本当に死ぬわけじゃない。


制度上死ぬ。


---


セラがすぐに分析を始める。


「死亡記録が出た瞬間あなたは管理対象から外れます」


「監督も制限も消える」


「追跡も停止」


「均衡派は?」


俺が問う。


「勝利宣言ができます」


セラは即答する。


「危険な男は排除されたと」


俺は続ける。


「同時に」


「物語が完成する」


均衡派が欲しがっている結末。


「例外は消える」


それが綺麗に成立してしまう。


---


エリスはいない。


だからこそ話は遠慮なく進んだ。


「でも」


ミレイアが言う。


「それをやった瞬間」


「あなたは何者でもなくなる」


事実だ。


「名前も」


「立場も」


「功績も」


「記録も」


「全部消える」


制度の中に俺は存在しなくなる。


---


沈黙を破ったのはセラだった。


「それでも」


「人は救われます」


声は静かだ。


感情を抑えているが

完全に無感情ではない。


均衡派は勝利したと満足する。


ならば次の“見せしめ”は必要なくなる。


---


俺は整理する。


「均衡派は」


「俺が死ねば」


「“やはり正しかった”と言える」


「例外は危険だったと」


「だから」


「これ以上男を切る理由がなくなる」


それがこの案の核心だった。


俺一人で物語を完結させる。


---


ミレイアはしばらく黙っていた。


そして小さく笑う。


「最低の」


「最高案ね」


評価としては正しい。


道徳的には最低。


効果としては最大。


---


問題は実行方法だった。


ただ姿を消すだけでは足りない。


行方不明は疑念を生む。


均衡派は“完全な勝利”を必要としている。


曖昧な死ではなく

納得できる死。


---


俺は紙に条件を書き出す。


1. 制度が納得する死因

2. 第三者が確認できる証拠

3. 誰も処罰されない

4. 王女アリシアが介入できない形


どれも難しい。


だが理論上は可能だ。


---


セラが静かに言う。


「私が適任です」


ミレイアが即座に遮る。


「ダメ」


「それはあなたが殺したことになる」


セラは首を振る。


「“失敗した護衛”です」


「事故」


「責任は私一人が背負う」


つまり

護衛中の魔法暴走。

防げなかった。


制度としては処理しやすい。


---


「却下」


俺は即答した。


セラがまっすぐ俺を見る。


「理由は」


「それは誰かを切る選択だからです」


「俺は誰も切らない」


この計画は俺一人で完結しなければ意味がない。


---


沈黙。


ミレイアが息を吐く。


「じゃあ自然災害」


「都市外」


「管理の薄い区域」


俺は頷く。


「魔法暴走」


セラが補足する。


「記録が曖昧で責任が個人に帰さない形」


それなら

誰も処罰されない。


ただ事故として処理される。


---


夜が深まる。


窓の外に王都の灯りが広がっている。


あの光は俺がいなくても続く。


市場は開き

騎士は巡回し

学院は授業をする。


俺がいなくても社会は回る。


---


「怖い?」


ミレイアが聞く。


「いいえ」


俺は正直に答える。


「怖くないのが一番怖い」


死ぬわけではない。


だが

自分の存在を消す。


それに躊躇が薄れている自分が怖い。


---


この計画は逃げではない。


責任の延長だ。


生きて引き受けられなくなった責任を

“死んだことにする”ことで終わらせる。


俺が消えれば

誰かが前に出なくて済む。


それがこの世界で可能な

唯一の非暴力だった。


---


その夜。


王女アリシアは理由のない胸騒ぎに目を覚ました。


机に向かい私的記録を開く。


《彼はまだ生きている》


ペンが止まる。


少し考えて書き足す。


《だが遠くなった》


インクがわずかに滲む。


「間に合って」


小さな声が夜に溶ける。


「お願いだから」


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