「完成してしまう正しさ」
均衡派は急がなかった。
焦りは失敗を生む。
彼らはそれをよく知っている。
だから選んだのは
世論が“自然に”結論へ向かう形だった。
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最初に出たのは論文だった。
《例外的成功事例が社会に与える心理的影響》
内容は冷静だ。
・例外は模倣を誘発する
・模倣は失敗を生む
・失敗は制度への不信を生む
・よって例外は管理されるべきである
誰も反論しなかった。
反論しづらいからだ。
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次に記者が動いた。
「あの男」
「成功した後何をしました?」
答えはいつも同じ。
「何も」
その“何も”が
切り取られた。
《成功後社会的責任を放棄》
《模範にならない男》
言葉は
刃よりも静かに刺さる。
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世論は
こう言い始めた。
「危険だったけど」
「まあ」
「もう終わった話だよね」
それが
均衡派の勝利条件だった。
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ヴァレリアは報告を聞き静かに頷いた。
「いい流れだ」
「排除は」
「成功しつつある」
副官がためらいがちに言う。
「彼が」
「本当に消えたら?」
ヴァレリアは即答した。
「なら」
「制度は正しかった」
それ以上でも以下でもない。
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同じ頃。
俺は計画の最終確認をしていた。
場所は
王都の外。
管理外区域。
魔力濃度が不安定な
旧実験地帯。
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「条件は」
俺が言う。
「完璧」
ミレイアが帳簿を閉じる。
「記録は曖昧」
「証人は複数」
「責任者は不在」
「事故として成立する」
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セラが淡々と補足する。
「追跡は」
「死亡確認が出た瞬間」
「自動停止」
「均衡派は」
「祝杯をあげるでしょう」
その言葉に
誰も笑わなかった。
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「最後に」
ミレイアが俺を見る。
「本当に」
「戻らない?」
俺は頷いた。
「戻る場所が」
「もうありません」
それは事実だった。
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その夜。
王女アリシアは
公式会合で一つの決定を下していた。
《監督強化措置の継続》
《対象者行動なし》
《危険度低下》
彼女の胸に
小さな違和感が残る。
「静かすぎる」
だが
それ以上踏み込めなかった。
踏み込めば
政治になる。
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翌朝。
均衡派は
最後の布石を打った。
《特別監視対象の一部解除》
それは
餌だった。
自由を与え
動かせるための。
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セラが低く言う。
「来ました」
「ええ」
俺は頷いた。
「完璧なタイミングです」
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王都では
人々がこう噂していた。
「結局」
「あの男は」
「何だったんだろうね」
「さあ」
「危険じゃなくなったならどうでもいい」
それが
最も残酷な結論だった。
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夜。
空が曇る。
魔力嵐の兆候。
自然現象。
誰も
責任を問われない。
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ミレイアが静かに言う。
「ねえ」
「あなたが」
「消えたあと」
「世界は少し良くなる?」
俺は即答しなかった。
そして答えた。
「分かりません」
「でも」
「悪くなる理由が一つ減ります」
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遠くで雷が鳴る。
計画は
すでに動き出していた。
止められる者は
もういない。




