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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第4章

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「失う側に回る」


失うと決めたとき

胸が熱くなったわけじゃない。


勇気でもない。

覚悟でもない。


ただ冷たい計算だった。


誰を守れば誰が危険になるか。

どこを切ればどこが残るか。


感情を外して並べた結果

一番損失が少ない選択肢が

“自分の側を削る”ことだった。


---


均衡派は表向きは静かになった。


集会は減った。

大きな声明も出ない。

掲示板の文面も角が取れた。


だがその分――

裏の動きが増えた。


水面が静かなときほど

下では流れが速い。


---


セラが短く報告する。


「監視対象が変わりました」


俺は書類から目を上げる。


「誰から?」


「あなたではありません」


胸の奥が嫌な重さを持つ。


「誰だ」


「エリス」


空気が止まった。


---


エリスは騎士だ。


王都でも名の通った実力者。

模擬戦でも実戦でも結果を出してきた女。


そして――

俺の側に立つ人間。


均衡派から見れば

理屈より分かりやすい“圧力点”だ。


俺を直接叩けば反発が出る。

だがエリスを揺らせば――

俺が動く。


そう読まれている。


---


「理由は」


俺が聞くとセラは淡々と答える。


「彼女があなたの代替になるからです」


「代替?」


「ええ」


視線を逸らさずに続ける。


「あなたが下がった今前に立てる存在」

「そして」




「切ればあなたが動く」


正しい。


悔しいほど正しい分析だ。


---


エリスはまだ知らない。


知らないまま任務に出ている。

いつも通りの顔で

いつも通り剣を振っている。


「告げる?」


ミレイアが慎重に聞く。


俺は首を振った。


「まだ」


「知らせれば彼女は前に出る」


エリスはそういう人間だ。

自分が囮になると分かっていても

前に出る。


それが一番危ない。


---


夜。


倉庫の天井を見上げながら

俺は選択肢を並べた。


一つ目。

何もしない。


エリスが狙われる。

俺は動く。

均衡派の読み通りになる。


二つ目。

エリスを守るため俺が前に戻る。


均衡派は満足する。

「ほら見ろ」と言える。

物語が完成する。


三つ目。


エリスを切る。


一番冷たくて

一番現実的だった。


---


切ると言っても命ではない。


関係を切る。


“俺の側にいる”という形を

制度の前で消す。


---


翌朝。


俺は王城の記録官のもとを訪れた。


公の場所。

記録が残る場所。

あとで「誤解だ」と言えない場所。


わざとそこを選んだ。


---


「申請内容を読み上げます」


記録官の声が石壁に反響する。


《エリス・○○騎士の任務上の行動について》

《私的関係性の存在を申告する》


ざわめきが走る。


俺は続けた。


「彼女は私と個人的な関係にあります」


事実だ。

だがここでの意味は別だ。


「よって」




「彼女を私の関与する案件から外してください」


---


それは制度上は“適正な申告”だ。


だが実質は――

エリスの立場を削る行為だった。


英雄候補から

“判断を誤りかねない騎士”へ。


前線から

一段引いた場所へ。


---


記録官が念を押す。


「理解して申請していますか」


「はい」


「これは彼女の評価に影響します」


「承知しています」


「理由は」


俺ははっきり言った。


「彼女を守るためです」


嘘ではない。

だが言葉としては薄い。


本当の理由は

彼女を“狙われにくくする”ことだ。


---


その日の午後。


噂は即座に広がった。


「あの男」

「結局女に頼ってたんだな」


「騎士を私物化?」

「だから成功したんだろ?」


狙い通りだった。


矛先が俺に向く。


“制度を揺らす男”から

“女に依存した男”へ。


物語が格下げされる。


---


エリスが知ったのは夕方だった。


倉庫に戻ってきた彼女は

無言だった。


鎧を外す音がいつもより重い。


やがて俺の前に立つ。


「説明しろ」


短い。

騎士の声だ。


---


俺は目を逸らさなかった。


「君を守るためだ」


「嘘だ」


即答だった。


「お前は私を信用しなかった」


その通りだ。


俺は頷いた。


「その通りです」


「だから切りました」


---


エリスの拳が震える。


怒りだけじゃない。

悔しさと裏切られた感覚。


「ふざけるな」


「一人で全部背負う気か」


「はい」


俺は答えた。


「均衡派は君を切れば俺が動くと読んでいる」


「なら動かない」


「それが一番迷わせる」


---


長い沈黙。


エリスは俯き

深く息を吐いた。


「最低だな」


「ええ」


「最低な選択です」


否定しない。


正しいとは思っていない。

ただ損失が少ない。


---


彼女は踵を返す。


「二度と」


振り向かないまま言う。


「私を守るな」


扉が閉まる。


音が重く残った。


---


その夜。


ミレイアが静かに言う。


「これであなたは本当に一人ね」


「はい」


嘘はない。


エリスを制度の側に戻し

俺は制度の外に立った。


「でも」




「誰も切らせません」


自分が切られる側に回れば

刃はそこに集まる。


それでいい。


---


均衡派の動きは確かに鈍った。


エリスという

“分かりやすい標的”を失ったからだ。


だが代わりに――


噂の矛先は

まっすぐ俺に向き始める。


「女を利用した男」

「騎士を巻き込んだ男」

「責任から逃げた男」


言葉が刃になる。


そして今度は

俺自身が切られる対象になる。


それは

計算通りだった。


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