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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第4章

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「代替試験の設計図」


代替試験は

その言葉の響きほど柔らかくはなかった。


むしろ――

制度が当然として積み上げてきた前提を一本ずつ抜いていく提案だった。


「命令があるから動く」

「肩書きがあるから従う」

「男は前に出ない」


そういう“当たり前”を静かに壊す。


---


会議室は王城の奥にあった。


窓は高く外の音は入らない。

代わりに革の椅子の軋みや紙をめくる音がよく響く。


そこに三つの陣営が揃っていた。


近衛騎士団の上層部。

魔法学院の教授陣。

そして王女アリシア。


俺は中央に立たされている。


椅子はない。

水もない。


立っているだけで分かる。


ここは対話の場ではなく

“採点”の場だ。


---


最初に口を開いたのは騎士団の老騎士だった。


白い髭。

肩の章は古いが重い。


「都市防衛シミュレーション」


言葉の意味を確かめるというより

「そんなものを言うな」と言いたい目だった。


ざわめきが椅子の背を伝って広がる。


それはこの部屋では半分“罪”だ。


---


魔法学院側の教授が眼鏡を押し上げた。


指先はインクで少し黒い。

書類に慣れた手だ。


「では」


「評価基準は?」


「明確です」


俺は用意していた紙を広げた。


机の上ではない。

手の中で見せる。


「死者数」


「被害規模」


「指揮系統の混乱度」


そして。




「命令なしでどこまで被害を抑えられるか」


空気が変わった。


“命令なし”という言葉が

この部屋の床を一枚剥がした。


---


騎士団の別の男が苛立ちを隠さず言った。


鎧は着ていない。

だが態度だけは鎧だ。


「命令なし?」


「それは統制放棄ではないのか」


「いいえ」


俺は首を振った。


「責任の集中です」


命令があれば責任は分散する。

命令を出した者。受けた者。実行した者。


だが命令がなければ逃げ場はない。


「命令がない以上」


「結果は全て私が引き受ける」


言った瞬間背中が少し冷えた。


自分の言葉に自分で縛られた感覚がある。


---


アリシアは黙って聞いている。


笑わない。

怒らない。

頷きもしない。


ただ目だけで記録している。


“王女の顔”だ。


---


教授が慎重に問う。


「想定敵は?」


「複合災害です」


俺は答えた。


「外敵侵入」


「内部暴動」


「魔法暴走」


「物流遮断」


「通信途絶」


列挙するたびに室内の空気が少しずつ重くなる。


みんな理解している。


それは“失敗したときの言い訳”を消す想定だ。


---


「それは」


教授が言葉を選ぶ。


「実戦よりも悪い想定だ」


「ええ」


俺は頷いた。


「最悪を想定しない限り」


「試験は訓練に堕ちます」


訓練なら失敗してもいい。

試験は失敗が意味になる。


だから最悪が必要だ。


---


老騎士が鼻を鳴らした。


「男一人でそれを?」


そこに悪意は薄い。

あるのは“常識”だ。


この世界では男は弱い。

制度も統計もそれを前提にできている。


俺は静かに答えた。


「一人ではやりません」


「では」


「協力者は私が選びます」


ざわめきが怒号に近づいた。


“男が人を選ぶ”

その一点が彼らのプライドに触れた。


---


「それは権限の逸脱だ」


「男が指揮官を選ぶなど――」


言葉が途中で止まった。


アリシアが手を上げたからだ。


たったそれだけで

空気が鎮まる。


怒鳴っていた者も息を飲む。


王女の手は刃より効く。


---


「静かに」


短い一言。


アリシアは俺を見た。


「条件を整理しましょう」


彼女の声は柔らかい。

だが否定も肯定も混ぜない。


ただ“決める”声だ。


---


アリシアは淡々と読み上げる。


「一」


「試験は実地に近い形で行う」


「二」


「命令系統はあなたに一任する」


「三」


「失敗した場合」




「あなたは制度の監督下に入る」


「異議は?」


「ありません」


俺は即答した。


ここで迷うと条件が“交渉”に変わる。

交渉になった瞬間俺は制度のゲームに負ける。


---


老騎士が低く言った。


「成功したら?」


その問いに今度は全員が黙った。


失敗の話は簡単だ。

罰だから。


成功の話は難しい。


“男が成功した場合”

制度がどう扱うかをここで決めることになる。


アリシアは一瞬だけ考えた。


「その場合」


「あなたは」


「制度に問いを投げた存在として扱われる」


褒賞でもない。

昇進でもない。


ただ無視できない“位置”だ。


それが一番厄介で一番効く。


---


会議は終わった。


誰も満足していない。


それが良い兆候だった。


満足がある試験は出来レースだからだ。


---


廊下に出ると空気が少し軽く感じた。


それでも背中の視線は消えない。


エリスが低く言う。


「敵を作ったな」


「ええ」


俺は否定しない。


「特に」




「“男を甘やかすな”派」


エリスの言葉はただの予想じゃない。

この国の空気の説明だった。


---


ミレイアが遠くから歩いてきた。


王城の廊下にいても彼女は浮かない。

歩き方が“場慣れ”している。


情報はもう掴んでいた。


「反発すごいわよ」


「騎士団内部」


「学院内」


「どっちも」


「男が前に出ること自体が気に入らない」


それは個人の好き嫌いではない。


制度の自尊心だ。


---


俺は立ち止まった。


石の床が冷たい。


「それでも」


「やる」


ミレイアが少しだけ驚いた顔をした。


そしてすぐ笑う。


「ええ」


「あなたはそういう人」


褒めていない。

止めてもいない。


ただ値札みたいに“性質”を言っただけだ。


---


夜。


セラが静かに報告する。


「監視が増えています」


「予想通りだ」


俺は頷く。


「でも」


「もう隠れる必要はない」


隠れたままでは試験にならない。

試験を受ける以上見られるのは前提だ。


見られてなお動く。


それが俺が選んだやり方だ。


---


王城の高い塔で。


ヴァレリアが報告を読んでいた。


《代替試験承認》


彼女は眉をひそめる。


「愚かだな」


だが。




「面白い」


それは好意ではない。


敵としての評価だった。


「壊す者」が

今度は制度の中で動く。


そして制度は

壊され方を観測できる。


――その状況が彼女にとって何より危険で何より魅力的だった。


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