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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第4章

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「選択肢としての命令」


王都からの使者は丁寧だった。


門を叩いたのは鎧を着た兵ではない。

紋章入りの外套を羽織った文官だった。


声も低く態度も柔らかい。

威圧する気配はない。


手渡されたのは封蝋のついた一通の手紙。


命令書ではない。

召喚状でもない。


招待状だった。


---


紙質は上等だった。


指で触れただけで分かる。

厚みがあり繊維が細かい。


王城で使われる正式な用紙だ。


文字は無駄がない。


《王女アリシアはあなたと話したいと考えている》


理由は書かれていない。

期限もない。

強制の言葉もない。


だが。


断ればそれ自体が意味になる。


沈黙すれば「拒絶した」と記録される。


応じれば「応じた」と残る。


どちらも選択だ。


---


エリスが紙を覗き込みながら低く言った。


「これは」




「逃げ道が無いな」


「はい」


俺は頷いた。


「行くか行かないか」


「どちらでも」


「“選んだ”と記録される」


王城は記録する場所だ。


善意も拒絶もすべて残る。


---


ミレイアは封蝋を指先でなぞりながら言った。


「上手ね」


「英雄扱いしない」


「敵扱いもしない」


「“市民として”呼ぶ」


それが一番断りにくい。


セラが静かに補足する。


「拒絶すれば」


「協調性が無い男」


「応じれば」


「制度に取り込まれた男」


「どちらも」


「使われる」


言葉にされる未来がはっきり見えた。


---


それでも。


行かないという選択はなかった。


拒絶は“語らない”という俺の流儀を壊す。


俺は逃げない。


「行きます」


俺は言った。


「ただし」




「何も約束しません」


エリスが苦く笑う。


「相手が王女でも?」


「はい」


「無茶だ」


「ええ」


俺は認めた。


「でも」


「無茶じゃないと意味が無い」


制度の前で無難に振る舞うなら最初から壊さない。


---


王城は静かだった。


門は開いている。

兵は立っているが視線は穏やかだ。


案内役の騎士は名を告げなかった。


階段を上り長い廊下を進む。


豪奢だが過剰ではない。


威圧はない。

儀礼も最低限。


それだけで分かる。


ここは力を見せる場ではない。


“試す”場だ。


---


執務室。


扉が開くと王女アリシアは立っていた。


椅子に座らない。

机の奥に隠れない。


同じ高さで向き合う。


「来てくれてありがとう」


声は穏やかだ。


だが逃げ道を潰す柔らかさがある。


歓迎でも圧力でもない。


ただ正面から見る視線。


---


アリシアは回りくどい前置きをしなかった。


「あなたは」


「思想を壊した」


「ええ」


俺は否定しない。


「そして」


「誰も英雄にしなかった」


「はい」


「それは」




「制度から見れば危険な成功です」


正直だった。


だからこそ油断できない。


---


「何を」


俺は聞いた。


「望んでいますか」


アリシアは少しだけ考える。


「協力を」


「どの形で?」


「制度の中で」


具体性を避けない。


「具体的には」


「魔法学院と近衛騎士団」


その言葉にエリスの肩がわずかに動いた。


学院と騎士団。


制度の中核だ。


---


アリシアは続ける。


「あなたは」


「男性でありながら異常な身体能力を持つ」


事実だけを並べる。


「自覚は?」


「あります」


「その理由は?」


「分かりません」


嘘はつかなかった。


分からないものは分からない。


---


アリシアは頷いた。


「だからこそ」


「調査と訓練を受けてほしい」


「命令ではありません」


「選択肢です」


その言葉が最も重かった。


命令ではない。


だが断れば意味を持つ。


---


俺は沈黙した。


制度に入れば守られる。


身分が保証される。

訓練も受けられる。


だが。


守られるということは管理されるということだ。


判断の一部を預けるということだ。


---


「条件があります」


俺は言った。


アリシアの目がわずかに細くなる。


「聞きましょう」


「命令は受けません」


空気が止まる。


部屋の温度がほんの少し下がったように感じた。


---


アリシアは怒らなかった。


すぐに反論もしない。


それが王女の怖さだ。


「理由は?」


「命令は」


「思考を止めるからです」


「私は」


「自分で考えた結果しか引き受けません」


命令に従った結果なら責任は分散する。


だが俺はそれを選ばない。


---


沈黙。


背後で時計の針が鳴る。


「それは」


アリシアが静かに言う。


「制度を否定する発言です」


「ええ」


俺は頷いた。


「だから」




「拒絶します」


これは命令拒絶ではない。


だが王女の提案を断った男。


前例はほとんどない。


---


アリシアはしばらく考えた。


怒りはない。

失望もない。


ただ計算がある。


やがて言った。


「では」


「代替案を」


「はい」


俺は答える。


「代替試験を提示します」


アリシアの目がわずかに見開かれる。


拒絶ではなく提案。


それは想定外だった。


---


「試験内容は?」


「実地です」


「具体的には?」


「都市防衛シミュレーション」


「魔法学院と騎士団が想定する最悪の状況で」


「私は」


「命令なしで動く」


「その結果を評価してください」


挑発ではない。


契約の提案だ。


責任を逃げずに引き受ける。


---


長い沈黙。


アリシアはゆっくりと息を吐いた。


「あなた」


「本当に制度が嫌いなのですね」


「いいえ」


俺は首を振る。


「制度が嫌いなんじゃない」


「思考を預けることが嫌なんです」


制度は必要だ。


だが思考まで渡すつもりはない。


---


やがて。


アリシアは微笑んだ。


それは王女の顔ではなかった。


一人の人間の興味の顔だった。


「分かりました」


「代替試験を受け入れます」


「条件は?」


「失敗した場合」


「あなたは正式に制度の監督下に入る」


管理を受ける。


命令を拒絶できない立場になる。


「了承します」


俺は即答した。


---


部屋を出たあと。


エリスが深く息を吐く。


「やったな」


「はい」


「後悔は?」


少しだけ考える。


「あります」


正直な答えだ。


「でも」




「拒絶しない方がもっと後悔しました」


選ばない後悔より選んだ後悔の方がいい。


---


その夜。


王女アリシアは私的記録に一文を書き足した。


《彼は命令を拒絶した》

《だが代替案を提示した》

《それは反抗ではなく責任の引き受けだった》


ペンを置く。


「危険ね」


小さく呟く。


「でも」


わずかに笑う。


「嫌いじゃない」


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