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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第4章

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「記録する者」


王女アリシアは夜に仕事をする。


それは習慣というより意図だった。


昼は人が多い。

声も多い。

「正しい」という言葉が軽く飛び交う。


光の下では決断が美しく見えてしまう。


だが夜は違う。


窓の外は暗く音も少ない。

自分の呼吸と紙をめくる音だけが残る。


言い訳が通用しない時間。


だから彼女は夜に考える。


---


机の上には二種類の書類が並んでいた。


左に公文書。

右に私的記録。


公文書は整っている。

文体は冷静で感情がない。


灰色地帯グレイゾーン派騒動自然終息》

《外部介入の確証なし》

《制度への影響軽微》


問題は収束。

混乱は限定的。

制度は健在。


それで十分な報告だ。


だが右側の紙は違う。


彼女自身の手で書いた記録。


《思想は切られずに壊された》

《誰も英雄にならなかった》

《だから余韻だけが残った》


アリシアはその紙を指で押さえた。


「これを」


小さく呟く。


「公にできたらどれほど楽か」


だができない。


---


彼女は王女だ。


制度の中心に立つ者。


曖昧な成功を肯定すれば

次は誰かが真似をする。


「血を流さずに壊せるなら私も」


そう考える者が出る。


だがそれは再現性のない手段だ。


一歩間違えれば

同じ思想が今度は暴発する。


逆に否定すればどうなるか。


灰色地帯グレイゾーンは危険だった」と断じれば

あの壊し方は地下に潜る。


見えない場所で静かに広がる。


「困った人だわ」


彼女は静かに笑った。


責めているわけではない。


ただ扱いに困る。


---


扉が控えめに叩かれる。


「入って」


入ってきたのはヴァレリアだった。


互いに無駄な礼はしない。

この部屋では形式より内容が優先される。


灰色地帯グレイゾーン派」


ヴァレリアが口を開く。


「処理は終わりました」


「ええ」


アリシアは頷く。


「“形”はね」


一瞬だけヴァレリアの視線が揺れた。


それが答えだった。


形は消えた。

だが考え方は残っている。


---


「彼」


アリシアが言う。


「どう思う?」


ヴァレリアはすぐには答えない。


考えを整理してから言葉を選ぶ。


「危険です」


「理由は?」


「正しさを拒否できる」


その言い方は評価にも聞こえた。


正しさに酔わない。

正義を掲げない。

勝ちを誇らない。


それは扱いづらい。


---


アリシアは私的記録を閉じる。


「彼は」


「何かを求めていない」


「ええ」


ヴァレリアは頷く。


「だから要求が読めない」


制度は要求と引き換えに動く。


地位。

金。

名誉。

保護。


だが彼はそれを欲しがらない。


それは交渉の土台がないということだ。


---


アリシアは別の資料を引き寄せる。


統計だ。


《男性出生率:低下傾向》

《男性戦力化率:女性比で低》

《保護政策依存率:上昇》


紙の数字は冷たい。


「この世界は」


彼女は言う。


「もともと男性が弱い」


身体的にも数の上でも。


「制度は」


「それを前提に設計されている」


守る側と守られる側。


そのバランスで社会は回っている。


ヴァレリアは黙って聞く。


---


「でも」


アリシアは続ける。


「彼は」


「弱さを制度に委ねなかった」


守られる立場でありながら

守られなかった。


そしてそれを理由に

制度を否定もしなかった。


「それは」


「正解じゃない」


無責任にも見える。


だが。


「例外として無視できない」


例外は小さい。


だが無視すると歪む。


---


ヴァレリアが低く言う。


「保護を緩めれば」


「模倣が出ます」


「ええ」


アリシアは否定しない。


「だから」


「彼を英雄にしない」


「象徴にもしない」


英雄になれば真似される。


象徴になれば対立が生まれる。


「だが」


視線を上げる。


「排除もしない」


排除すれば物語になる。


---


沈黙が落ちる。


「では」


ヴァレリアが問う。


「どうするのです」


アリシアはわずかに微笑む。


王族の顔だ。


感情を隠し選択肢を示す顔。


「試験よ」


「試験?」


「ええ」


「彼が」


「制度の中でどう振る舞うか」


「それを見る」


---


ヴァレリアは理解する。


「公式接触」


「そう」


アリシアは頷く。


「命令ではない」


「依頼でもない」


「選択肢としての接触」


強制ではない。

拒否もできる。


彼のやり方に合わせた形。


---


アリシアは私的記録に一文を書き足す。


灰色地帯グレイゾーンは消えなかった》

《形を失い人の中に散った》


ペンを置く。


「彼が」


「次に壊すのは」


「思想か」


「制度か」


「それとも」




「自分自身か」


---


ヴァレリアは立ち上がる。


「では接触は私が?」


アリシアは首を振る。


「いいえ」


「あなたが行けば彼は拒否する」


制度の顔が出れば彼は引く。


「では」


ヴァレリアが続けようとした瞬間。


「私が行く」


その言葉に空気がわずかに張り詰める。


「危険です」


「承知の上」


アリシアは静かに答える。


「彼は剣を抜かない」


「でも」


「言葉で制度を揺らす」


「それを」




「聞く価値がある」


---


夜はさらに深まる。


王都は静かだ。


灰色地帯グレイゾーンという言葉はもう使われていない。


だが。


制度の外で考える者。

守られない選択をする者。

名乗らないまま動く者。


そういう“灰色地帯グレイゾーン的な選択”だけが


確実に増えていた。


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