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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第4章

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プロローグ 「正しさの仕事」


ヴァレリアは報告書を最後まで読まなかった。


厚い紙の束を手に取ったが視線は最初の三行で止まる。


《余白派自然瓦解》

《主導者不明》

《死者なし》


そこで十分だった。


「死者がいない」


彼女は小さく呟く。


それだけが想定と違った。


---


ヴァレリアは制度の人間だ。


混乱は想定する。

暴動も想定する。

鎮圧も逮捕も必要なら犠牲も。


理屈の上ではすべて計算に入れてきた。


思想が暴走すれば血が流れる。

血が流れれば口実ができる。

口実ができれば整理できる。


それが制度の手順だ。


だが今回血は流れなかった。


思想だけが崩れ形だけが消えた。


「理論上ではある」


ヴァレリアは窓の外を見ながら言う。


思想を壊し象徴を作らず犠牲も出さない。


そんなやり方は学問上の例としては存在する。

だが現実ではほとんど成立しない。


「彼か」


名前は出さない。


だが顔は思い浮かんでいる。


---


副官が控えめに口を開く。


「表立った介入は確認されていません」


「分かっている」


ヴァレリアは即答する。


「だから厄介だ」


表に出ない。

命令もない。

証拠も残らない。


だが結果は出ている。


制度にとって最も扱いにくいのは

“成功してしまった無名の介入”だ。


処罰できない。

称賛もできない。

記録にも残しづらい。


---


ヴァレリアは立ち上がり窓辺に立つ。


王都はいつも通り動いている。


市場の声。

馬車の軋む音。

洗濯物を干す女たちの笑い声。


守られている日常。


「制度は」


彼女は静かに言う。


「守るために人を切る」


それは彼女が何度も選んできた現実だ。


危険な芽は摘む。

秩序を乱す者は排除する。

その代わり多くを守る。


冷たいが明確な方法。


だからこそ。


「切らずに壊す」


そのやり方が気に入らなかった。


きれいすぎる。

そして再現しにくい。


---


「副官」


「は」


「彼の次の動きを読む」


副官は一瞬言葉を選ぶ。


「余白派はもう存在しません」


「それは“形”の話だ」


ヴァレリアは机に戻りながら言う。


「彼は形を壊した」


「なら次は形を必要とする場所へ行く」




「制度の中へ」


---


「魔法学院」


副官が言う。


「あるいは騎士団」


ヴァレリアは頷く。


「あるいは」


視線が王城の奥へ向く。


「王女」


---


彼女は別の書類を開く。


《男性出生率低下》

《男性保護政策の再検討》

《余白思想の影響限定的》


指先で行をなぞる。


「男は」


「守られると依存する」


「依存すれば社会は歪む」


それが彼女の信念だ。


情ではなく統計と観測から導いた結論。


間違っているとは思っていない。


だが。


---


副官が静かに言う。


「彼は守られなかった男です」


ヴァレリアは視線を上げる。


「だからこそ危険だ」


守られなかった者が

守られないまま立つ。


しかも

“守らないことを肯定する”。


それは制度の根本を揺らす。


守る者と守られる者という前提を

静かに崩す。


---


「捕らえますか」


副官の問いは現実的だ。


捕らえることはできる。

容疑をでっちあげることも可能だ。


だが。


捕らえた瞬間彼は象徴になる。


弾圧された者。

制度に恐れられた男。


それは最悪の物語だ。


ヴァレリアはゆっくり首を振る。


「まだ」


「彼は」


「自分が壊したものの重さを引き受けている」


逃げていない。

騒いでいない。

名乗っていない。


それは処罰の対象としては弱い。


---


「ではどう扱いますか」


副官が問う。


ヴァレリアはわずかに笑った。


冷たいが楽しんでいるわけではない。


「使う」


副官が息を呑む。


「ただし」




「こちらの土俵で」


制度の内側で。

記録の中で。

責任の枠組みの中で。


壊す力を管理できる形にする。


---


夜。


ヴァレリアは王城の長い廊下を歩く。


足音が静かに響く。


目的地は一つ。


王女アリシアの執務室。


扉の前で立ち止まる。


「余白は」


「放っておけば思想になる」


「思想はいずれ武器になる」


だが。


「彼は武器にしない」


それが最も危険だ。


武器にしない者は制御しにくい。


旗を掲げない者は奪えない。


彼女は目を細める。


「ならば」


「武器を持たせるか」


「あるいは」


「持たせないまま使うか」


扉を叩く。


中から返事がある。


ヴァレリアは一歩踏み出す。


ここから先は


壊す者と

管理する者の対話だ。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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