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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第1章

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女騎士の言葉は、優しくない

「…怖くなかった」


俺がそう言った瞬間、エリスの目つきがわずかに変わった。

怒っているわけじゃない。

ただ、真剣に見ている。


「それは危険だ」


「…分かってます」


本当に分かっている。

でも、あの時は体が勝手に動いた。


エリスが一歩、近づく。


「君は、自分が何者か分からないまま、力だけを持っている」


黙るしかない。


「それは、刃物を持った子供と同じだ」


胸が痛んだ。


子供。


思わず言い返す。


「言い過ぎだ」


でも声に勢いはない。


エリスは淡々と続けた。


「君は昨夜、考えていたはずだ」


「追うか、逃げるか。誰から倒すか。どう無力化するか」


喉がひゅっと鳴る。


確かに、考えていた。


「それができるなら、君は子供ではない」


「だが――」


エリスの声が少し低くなる。


「その判断が“快感”に変わった瞬間、君は怪物になる」


空気が冷えた気がした。


快感。


否定したい。


でも思い出してしまう。


敵を見つけた瞬間の静かな集中。

距離を詰めるときの高揚。

殴ったときの確かな手応え。


あれは恐怖じゃなかった。

熱だった。


「…俺」


声がかすれる。


「怪物になりたいわけじゃない」


エリスは短くうなずく。


「分かっている」


「だから私はここにいる」


その言葉に、少し救われる。


でも同時に、別の感情も湧く。


守られている。


強いはずなのに。


俺は視線を逸らした。


「…悔しいか?」


エリスが聞く。


「…分かるんですか」


「顔に出ている」


淡々としているが、馬鹿にしてはいない。


「悔しいのは正常だ」


「君は自分を強い側だと思っていた。だが世界の危険の方が上だった」


言い返せない。


「だが」


エリスは続ける。


「その悔しさを暴力で埋めるな」


「それは弱い」


思わず笑ってしまう。


「女騎士が言うと説得力ありますね」


「当然だ」


即答。


「私は暴力で生きている。だから分かる」


一度だけ目を閉じる。


「暴力は、人の心を簡単に壊す」


朝の森は穏やかだ。

昨日の夜が嘘みたいに静かだ。


でも俺の中には、まだ熱が残っている。


「…どうして俺を助けたんですか」


思わず聞いていた。


エリスは首を少し傾ける。


「近衛騎士として当然だ」


「それだけじゃないでしょう」


言ってから、踏み込みすぎたと気づく。


エリスは一瞬黙った。


それが答えのように思えた。


「…私は」


視線を森の奥に向けたまま言う。


「弱い者を放っておけない性質だ」


少し間を置く。


「それに」


「君は、弱い」


反射的に睨む。


「どこが」


「心がだ」


はっきり言われた。


「強い力を持っているのに、それに怯えている」


「だから弱い。だから危ない」


図星だった。


何も言えない。


エリスがこちらを見る。


「だから私は、君を放っておけない」


その言い方は、ただの任務とは少し違って聞こえた。


喉の奥が熱くなる。


「…ありがとう」


エリスの肩がわずかに動く。


「当然だ」


でも声は、さっきより柔らかかった。


しばらくして騎士団の増援が到着した。

夜盗たちは縄で縛られ、荷車に乗せられていく。


ミルダだけは厳重に拘束されていた。

手枷、口枷。

あの火の筒も回収されている。


「魔道具だな」と騎士たちが話している。


この世界は、剣だけじゃない。

魔術も、道具もある。


エリスが俺に向き直る。


「王都へ行く」


「君の素性を確認する」


「…拒否権は?」


「ない」


即答。


「だろうと思った」


苦笑する。


でも嫌ではない。


一人になったら、また“狩る側”に戻りそうな気がするからだ。


「…あのさ」


馬の準備が進む中、小さく言う。


「俺、貴方のこと少し怖いです」


エリスが眉を上げる。


「失礼だな」


「でもありがたい」


「貴方が隣にいると、俺は変なことしなくて済む」


エリスは一瞬目を見開き、すぐに咳払いをした。


「最初から変なことをするな」


「善処します」


「努力しろ」


「努力します」


少しだけ空気が軽くなる。


俺は今、助かっている。


エリスが白馬の手綱を引く。


「乗れ」


「はい」


慎重に馬に跨る。


エリスが前に乗る。

背中が近い。


変な考えは浮かばない。

ただ、その温度が安心できる。


「行くぞ」


馬が歩き出す。


森が遠ざかる。


俺は振り返らなかった。

振り返れば、昨夜の自分が立っていそうだったから。


思う。


俺は強くなったんじゃない。

強く“されている”。


この世界に。


それが何を意味するのか分からないままでは、きっとまた危うくなる。


「王都で、俺のことが分かるといいな」


小さく呟く。


エリスは前を向いたまま言った。


「分からせる」


短い言葉なのに、妙に心強い。


こうして俺は、近衛騎士エリスと共に王都へ向かう。


軽い夢や都合のいい未来より先に。


まずは、自分が何者なのかを知るために。


夜明けは、ただの始まりだった。


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