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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第3章

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「割れる音」


分裂は、叫び声では始まらない。

石が投げられるわけでも、殴り合いが起きるわけでもない。


最初は――

小さな確認から始まる。


「あなたは、どう思う?」


その一言が、線になる。


---


灰色地帯グレイゾーン派の集会は、以前よりも静かだった。


火は焚かれている。

人も集まっている。

だが、熱が違う。


以前は、怒りや希望が入り混じっていた。

今は、警戒が混ざっている。


誰が、どちら側か。


それを、互いに測っている。


「あの男の言葉」


若い男が、小さく言った。


「どう思った?」


問いは穏やかだ。

だが、周囲の耳がそちらに向く。


答えは、すぐには出ない。


「分からない」


「少し、分かる」


「危険だと思う」


意見は、揺れた。


揺れた、という事実そのものが、亀裂だった。


---


その日の演台に立ったのは、若い女だった。


穏健派。


もともとは、夜間保護の世話役をしていた。

怪我人に布を巻き、

眠れない者のそばに座る、

そういう役目を引き受けていた女だ。


彼女は、両手を握りしめながら言った。


「私たちは、守ると約束しました」


声は震えている。


「夜だけでも、居場所を」


「それを」


一瞬、言葉が止まる。


「破ったのは、私たちです」


ざわめきが広がる。


怒号は、まだ出ない。

だが、空気が固くなる。


---


すぐに、別の声が重なった。


急進派の男だ。


背は高くない。

だが、声は低く、落ち着いている。

言葉に迷いがない。


「違う」


「俺たちは、基準に従っただけだ」


「基準は必要だ」


「でなければ、灰色地帯グレイゾーンは崩壊する」


“崩壊”という言葉に、何人かが頷く。


不安は、理屈と結びつくと強くなる。


---


穏健派の女が、もう一度言った。


「基準を作った瞬間」


灰色地帯グレイゾーンは、灰色地帯グレイゾーンじゃなくなります」


それは、静かな指摘だった。


だが、急進派の男は、ゆっくり息を吐いてから言った。


「だから」


「俺たちは、灰色地帯グレイゾーンを守る」


その“守る”は、以前の意味とは違っていた。


以前は、

外からの暴力から守る、という意味だった。


今は、

内側を整える、という意味に変わっている。


守る対象が、

人から思想に移っていた。


---


倉庫。


報告を聞きながら、ミレイアは目を閉じていた。


「来たわね」


その声に、驚きはない。


「はい」


俺は、短く答える。


「思想はね」


ミレイアが、ゆっくり言う。


「分裂した瞬間に、自分の純度を競い始めるの」


エリスが、低く続ける。


「どちらが、より正しいか」


「ええ」


ミレイアは頷く。


「そして」


一拍。


「より過激な方が、“本物”になる」


声が大きい方。

断言する方。

迷いがない方。


そちらが、支持を集める。


---


セラが、静かに言った。


「穏健派は、切られる」


「時間の問題です」


その言葉に、誰も反論しない。


ミレイアが視線を伏せる。


「急進派は、“守るため”に裏切り者を作る」


裏切り者がいるから、

自分たちは正しい。


その構図は、あまりにも扱いやすい。


---


事件は、派手ではなかった。


夜の集会で、穏健派の女が発言しようとした。


だが、誰も目を合わせない。


言葉を発しても、

誰も拾わない。


話題を変えられる。


咳払い一つで、流される。


追放ではない。

暴力もない。


だが。


それは、社会的な死だった。


そこにいても、いない。


声を出しても、響かない。


---


翌朝。


穏健派の数人が、灰色地帯グレイゾーン派を去った。


荷物は少ない。

振り返らない。


文句も言わない。


その静けさが、急進派を安心させた。


「ほらな」


灰色地帯グレイゾーンは守られている」


異物がいなくなった、と。


それは、勝利の確認だった。


---


倉庫。


ミレイアが、俺を見る。


「もう内部からは止まらない」


俺は頷く。


「分かってます」


ここから先は、内部の議論では戻らない。


急進派は、自分たちを正しいと確信している。


穏健派は、去るしかない。


残るのは、純化した思想だけだ。


「ここから先は」


俺は言う。


「壊すしかない」


エリスが、静かに問う。


「覚悟は?」


俺は、正直に答えた。


「できてません」


エリスの目が、わずかに和らぐ。


「それでも?」


「やります」


覚悟があってやるのではない。


やらなければ、もっと壊れるからだ。


---


その時。


セラが、短く言った。


「ミレイア」


「あなた、切られ始めている」


ミレイアは、すぐに微笑んだ。


「でしょうね」


「商人は、利用できなくなったら邪魔だから」


急進派にとって、

彼女は曖昧すぎる。


味方でもない。

敵でもない。


曖昧な存在は、

純化の過程で排除される。


「逃げる?」


エリスが聞く。


ミレイアは、首を横に振った。


「逃げたら」


「あなたたちが、もっと汚れる」


その言葉は、打算ではなかった。


自分が残ることで、

彼らの選択肢を一つ増やす。


それが、彼女なりの忠誠だった。


---


その夜。


急進派が、新しい言葉を使い始めた。


「浄化」


誰もが、胸の奥で違和感を覚える。


だが。


誰も、声に出して止めない。


止めた瞬間、自分が疑われるからだ。


---


俺は、遠くに灯る火を見た。


倉庫街の奥。


集会の火。


あれは、守るための火だ。


そう、彼らは言うだろう。


弱い者を守る火。


居場所を照らす火。


だが。


火は、守るだけではない。


燃やす。


焼く。


灰にする。


(もう)


(燃えている)


(守る火じゃない)


あれは、思想を純化する火だ。


そして。


その火を消すには、

もっと大きな火が必要になるかもしれない。


俺は、ゆっくりと目を閉じた。


もう、途中では済まない。


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