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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第3章

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「切られる側」


商人は空気の変化に敏感だ。


値段が下がる前。

契約が破棄される前。

相手の目から「必要」という色が消えるその一瞬前。


それを肌で感じ取る。


だからミレイアは誰よりも早く気づいていた。


――自分がもう“不要”だということに。


---


朝。


倉庫の外が妙に静かだった。


いつもなら遠くで荷車の軋む音がする。

近所の子どもが走り回る声もある。

鳥が屋根に止まって羽ばたく音もする。


だがその日は違った。


音が薄い。


気配が遠い。


まるで周囲が意図的に距離を取っているみたいだった。


ミレイアは外套を羽織りながら留め具を丁寧に留め直す。


その動作は落ち着いているが目は冷静に周囲を測っている。


「来るわ」


低い声だった。


「誰が」


俺が聞くと彼女は迷わず答えた。


灰色地帯グレイゾーン派の急進派」


エリスが即座に立ち上がる。

足音が硬い。


「なぜ」


ミレイアは乾いた笑みを浮かべた。


「簡単よ」


「私は“守る理由”じゃない」


「“使う理由”だった」


彼女は自分の役割を正確に言葉にする。


灰色地帯グレイゾーン派がまだ曖昧だった頃彼女は“流れ”を作る存在だった。

資金を回し情報を整理し人と人をつなぐ。


だが。


「あなたが物語を壊した」


彼女は俺を見る。


「だから」


「私の役割は終わった」


思想が固まった今商人は邪魔だ。


思想は純度を求める。

打算を嫌う。

利用の匂いを排除する。


---


セラが低く言う。


「逃げ道は」


「ない」


ミレイアは首を振る。


「あるとしたら」


「あなたたちと一緒にいること」


それは冗談ではなかった。


彼女は計算の上で言っている。


急進派に戻る道はない。

穏健派はもう力がない。


ならば。


「価値が残る場所に身を置く」


それが彼女の生き方だった。


---


昼過ぎ。


倉庫の外に人影が現れた。


数は五。


歩き方に迷いがない。

周囲を確認しながら一定の距離を保って進んでくる。


武装は軽い。

短剣。

棍棒。

防具も最低限。


だが――


動きが揃っている。


エリスが歯を噛みしめる。


灰色地帯グレイゾーン派にしては」


「統制が取れている」


「ええ」


ミレイアは頷く。


「もう“思想の人間”じゃない」


「実務担当よ」


言い換えれば迷わず実行する役目の人間だ。


---


彼らは叫ばなかった。

名乗りもしない。


ただ倉庫の前で立ち止まり代表らしき男が口を開いた。


「ミレイア」


声は冷静だ。


「話がある」


命令口調ではない。

だが拒否を想定していない声だった。


ミレイアは一歩前に出る。


背筋は伸びている。

恐怖は見せない。


「ここで?」


「ここで」


男は答える。


「あなたは」


灰色地帯グレイゾーンを歪めた」


その言葉は責任を押しつけるためのものだ。


「違うわ」


ミレイアは静かに言う。


「私は歪みを見せただけ」


男の目が細くなる。


「言い訳だ」


「いいえ」


「商売」


その言葉は挑発でもあった。


利用したのはどちらだ。


それを暗に突きつけている。


---


次の瞬間。


男の手が伸びる。


襟を掴もうとする。


エリスが前に出かける。

だが――


ミレイアがほんのわずかに首を振った。


止めるな。


その合図。


エリスの拳が止まる。


---


「あなたは」


男が言う。


灰色地帯グレイゾーン派から排除される」


排除。


最近よく聞く言葉だ。


殴るより静かでだが同じくらい重い。


「理由は?」


ミレイアが問い返す。


「“利用した”からだ」


彼らは自分たちが利用していることを忘れている。


「面白い」


ミレイアは微笑む。


「それを一番やっているのは誰?」


男は答えない。


答えられない。


その沈黙が空気を張り詰めさせる。


---


その時。


セラが動いた。


気配が一瞬消える。


次の瞬間。


一人が地面に崩れた。


首筋への打撃。

正確。

無駄がない。


血は出ていない。

ただ意識を刈り取っただけ。


残りの四人が一斉に距離を取る。


空気が一気に緊張する。


---


「やめなさい」


ミレイアが言う。


「これ以上灰色地帯グレイゾーンを壊さないで」


その言葉は男たちに向けたものかそれとも俺たちに向けたものか。


分からない。


男たちは互いに目配せする。


ここで衝突すれば思想の問題ではなく単なる抗争になる。


その判断はできるらしい。


「逃げろ」


代表の男が言う。


「次はもっと正当な理由で来る」


それは予告だった。


思想という名の正当化を整えてからという意味だ。


---


彼らが去ったあと。


倉庫の前に重い沈黙が残った。


ミレイアはゆっくり息を吐く。


「これで」


「私も戻れない」


彼女は振り返らない。


だがその背中は少しだけ軽く見えた。


俺は何も言えなかった。


戻れないのは彼女だけじゃない。


---


夜。


俺たちは倉庫を離れた。


長く使った場所だ。

火を囲み話し合い決断を重ねた場所。


ミレイアは荷物をほとんど捨てた。


帳簿。

契約書。

取引記録。

名前が並んだ紙束。


「後悔は?」


俺が聞く。


彼女は少し考えてから答えた。


「ある」


即答ではない。

正直だ。


「でも」




「高く売れる人生より」


「安くても自分で決めた方がいい」


それは商人の言葉ではなかった。


利益ではなく選択の話だった。


---


エリスが低く言う。


「これで後には引けない」


「ええ」


俺は頷く。


「次は」


「こちらから行く」


ミレイアが俺を見る。


目は冷静だ。


「壊す?」


「はい」


「完全に?」


「はい」


沈黙。


風が吹く。


遠くで灰色地帯グレイゾーン派の拠点の火が揺れている。


ミレイアは小さく笑った。


「なら」


「最後まで一緒ね」


---


遠くの火。


あれは守る火。


彼らはそう言うだろう。


だが。


俺の目にはもう乾いた草に燃え移る直前の火にしか見えなかった。


広がる前兆。


止めなければ街ごと焼く火。


俺はその光を見つめながら思う。


もう守る側ではいられない。


壊す側になる。


それを選んだのは俺たちだ。


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