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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第3章

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最初に虐げられたもの


最初に失われたのは、命じゃなかった。

血も出ない。叫び声も上がらない。だからこそ――誰も止めなかった。

ただ、“居場所”が一つ、静かに奪われただけだった。


---


知らせが来たのは朝だった。

空が明るくなるより少し前。まだ体も頭も起ききっていない時間に、ミレイアが戻ってきた。


いつもなら、彼女は音を立てない。息も乱さない。

でも今日は違った。外套は羽織っているのに留め具が雑で、歩くたびに布が擦れる。頬が少し赤い。

走ったんだ、と分かる程度に息も乱れていた。


「起きてる?」


その声が、いつもより硬い。

俺は迷わず答えた。


「はい」


嫌な予感は、もう胸の奥で固まりかけていた。

エリスもセラも、言葉を挟まずに立ち上がる。何かが起きた、と体が先に理解している。


ミレイアは一度、深く息を吸ってから言った。


灰色地帯グレイゾーン派の中で」



言葉を選ぶように、でも迷わず続けた。


「追い出しがあった」


エリスの眉が跳ねる。


「追い出し?」


「ええ」


ミレイアは頷いた。


「正式な言い方はね。“保護対象の再選定”」


言い換えだ。綺麗な言葉で包んだだけだ。

やっていることは――迫害だ。線を引いて、外に出した。


---


追い出されたのは、若い女だった。

名前はリュナ。


戦えない。魔力も乏しい。頭が切れるわけでもない。

誰かの役に立つ説明もしづらい。

ただ――そこにいた。灰色地帯グレイゾーンに。息をしていた。

それだけの人間だった。


「理由は?」


俺が聞くと、ミレイアは目を伏せた。


「“思想に合わない”って」


「何をした」


「何も」


即答だった。

その“何も”が、妙に重かった。


「ただ」

灰色地帯グレイゾーンに留まる理由を、説明できなかった」


セラが低い声で言う。


「沈黙が、許されなくなった」


「そう」


ミレイアが苦く笑う。


「“灰色地帯グレイゾーンはまだ途中だ”って」

「“結論を持たない”って」

「言ってたはずなのにね」


少し間を置いて、息を吐く。


「いつの間にか、“声をあげれない人”が“弱い”扱いになった」


分かりやすい言葉を言える者が上に立つ。

言葉が出ない者は、置いていかれる。

思想が形を持つと、必ずそうなる。


---


リュナは追い出された。

暴力はなかった。怒鳴り声もなかった。

ただ、扉が閉まっただけだ。


「今は?」


エリスが聞いた。


ミレイアは、視線を上げずに言った。


「どこにも」

「戻る場所が、ない」


その言葉が、倉庫の空気を冷やした。

居場所がない、というのは飢えより先に人を弱らせる。


俺は、しばらく何も言えなかった。

頭の中で同じ言葉が回る。


(俺たちが、作った)

いや、違う。

(作ってしまった)


“途中でいい”と言った。

“結論を持たなくていい”と言った。

なのに、途中で人が切られ始めた。

それが一番、最悪だった。


---


昼。

俺たちはリュナを探しに出た。


情報は少ない。

「東の外れで見た」

「崩れた小屋の近くにいた」

それだけ。だが、この手の話は早い。人は噂を回すのが得意だ。


見つけたのは街の外れ。

崩れかけた見張り小屋の前だった。風が入り放題で、日が当たっても暖かくならない場所。

彼女はそこに、膝を抱えて座っていた。


エリスがゆっくり近づく。急に詰め寄らない。逃げ道を塞がない。

剣を捨てた後のエリスは、そういう距離の取り方が上手くなっていた。


「怪我は?」


リュナは小さく首を振る。


「してない」


声は小さい。

でも泣いてはいなかった。

泣けないほど疲れている時の静けさで、逆に胸が痛んだ。


---


俺は少し離れたまま、声を落として言った。


「追い出された理由」

「聞いてもいい?」


リュナはしばらく考える。

答えを探して、見つからない顔をした。


「分からない」


それから、ぽつぽつと言った。


「みんな、“灰色地帯グレイゾーンの意味”を話してた」

「ここにいる意味とか」

「未来とか」

「でも」




「私は、言えなかった」


「それだけ?」


「うん」


それだけ。

言葉にできないことは、この世界では“無いのと同じ”扱いになる。

そのルールが、灰色地帯グレイゾーンの中にまで入り込んだ。


エリスが強めの声で言った。


「何も間違ってない」


リュナは困ったように笑った。


「そう、なの?」


その問いに、誰も即答できなかった。

“間違っていない”と断言してしまえば、次は「じゃあ、どこへ行けばいい?」が来る。

答えられない。今のこの国は、その答えを用意していない。


---


戻すことはできた。

力づくで押し返すことも、言葉でねじ込むことも、俺が“象徴”として前に出ることもできる。


だが――それをした瞬間、灰色地帯グレイゾーン派は「守られた組織」になる。

守られた組織になった瞬間、制度の管理対象になる。

管理対象になった瞬間、次に切られる“正当な理由”が生まれる。


俺が避けたかったのは、まさにその結末だった。


---


夜。倉庫。

リュナは毛布に包まって眠った。寝息は浅い。たぶん、夢の中でも追い出されている。


焚き火の小さな音の前で、エリスが低く言う。


「ここで助けたら」

「また別の誰かが切られる」


ミレイアが黙って頷く。


「彼らはもう、“基準”を作り始めた」


セラが淡々と言葉を足した。


「次は、反対意見を言った者」

「その次は、疑問を持った者」

「そして最後に」


「黙った者」


黙った者。

理由を言えない者。

つまり、リュナみたいな人間が、順番に落ちていく。


---


俺は立ち上がった。

拳が震えていた。怒りじゃない。もっと嫌なものだ。

“怖い”のに、止まれない感覚。


(来た)

(ここまで来た)


声が少し掠れた。


「俺は」

灰色地帯グレイゾーンを壊すつもりは、なかった」


本当だ。

続いてほしかったのは“場所”じゃなくて“やり方”だった。

でも、やり方が思想になった瞬間、勝手に刃が生まれる。


「でも」




「これ以上、“途中”で人が切られるなら」


エリスが俺を見る。

セラも、ミレイアも。

全員、次の言葉を知っている。

だからこそ、俺が言わなきゃいけない。


「壊す」


叫びじゃない。静かな決定だった。


灰色地帯グレイゾーン派を」

「“思想”として」

「壊す準備をする」


---


ミレイアが目を閉じた。

疲れた顔じゃない。覚悟を確認する顔だった。


「来たわね」


「ええ」


俺は頷く。


「俺が一番、やりたくなかった役割です」


「でも」


ミレイアはゆっくり言った。


「あなたがやらないと」

「もっとひどい壊し方をする人間が出てくる」


それが現実だった。

“正しさ”を掲げる者は、相手を切ることに迷いがない。

迷いがあるのは、いつだって“壊したくない側”だ。


---


外で夜風が吹く。

倉庫の隙間から冷たい空気が入ってきて、火が少し揺れた。


灰色地帯グレイゾーンは、もう灰色地帯グレイゾーンじゃない。

思想は、人を守る顔で、人を切り始めた。


そして俺は初めて理解した。

守らない、と決めた選択にも――責任は残る。


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