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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第3章

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「名前を持ち始めたもの」


翌朝、もはや単なる“噂”ではなかった。

その広がりの速さに、俺は驚いた。あまりにも早すぎる。

人は、結論を待たない。特に――安心できる言葉を見つけた時は。


---


市場の片隅で、干し肉を売っている女が客に言っていた。

「昨日さ」

「“灰色地帯グレイゾーン”の集まりでさ」

「男が言ったんだって」


客が首をかしげて聞き返す。


「男?」

「うん」

「名前は知らないけど」


女は声を潜めて言った。


「“灰色地帯グレイゾーンは正しくない”って」

「え?」

「“まだ正しさの証明の途中だ”って」


その言葉は正確だった。しかし、切り取られていた。


---


同じ頃、別の通りでは若い男たちが話していた。


「聞いたか?」

灰色地帯グレイゾーンを否定した男がいるらしい」

「裏切り者か?」

「分からん」

「でも」


少し考えてから、男が続ける。


灰色地帯グレイゾーンを独占しようとしてるって話だ」


言葉が、意図を離れて走り始めた。


---


倉庫で、エリスは壁に背を預けたまま目を閉じていた。


「もう」

「“誰が言ったか”が重要になっている」


セラが静かに頷いた。


「思想が」

「象徴を求めている」


「象徴だな」


俺がそう言うと、空気が一層重くなった。

ミレイアがゆっくりと息を吐きながら言った。


「ええ」

「最悪の段階に入った」


---


ミレイアは地図を広げた。昨日よりも印が増えている。


「増えてるな」


俺が言うと、ミレイアは乾いた笑みを浮かべた。


「一晩でね」

灰色地帯グレイゾーンを名乗る集会が」

「三つ」


「名乗る?」


エリスが反応した。


「そう」


ミレイアは、はっきり言った。


「“灰色地帯グレイゾーン派”」


その言葉が、倉庫の中に落ちた。

名前。ラベル。分類。

思想が、形になった音がした。


---


「誰が」


俺が聞く。


「代表者は?」


ミレイアは少しだけ迷ってから答えた。


「表向きは」

「いない」

「だが」


少し間をおいて、


「運営している人間はいる」


セラの目が、僅かに鋭くなる。


「誰だ」

「まだ、表に出てこない」

「でも」


指が地図の一点を叩く。


「資金の流れが」

「一箇所に集まり始めている」


---


その場所は、倉庫街のさらに外れ。

放棄された工房跡だった。


灰色地帯グレイゾーンを」


エリスが言う。


「守るため、だろうな」

「ええ」


ミレイアは淡々と続けた。


「彼らは」

灰色地帯グレイゾーンを」

「“弱者の最後の砦”にしようとしている」


「聞こえは、いいな」


俺が言うと、ミレイアは首を横に振った。


「聞こえがいいものほど」

「人を縛る」


---


その日の夕方。

俺たちは、遠くからその場所を見ていた。

人々が出入りしている。

思ったよりも多い。

老若男女。

武装はない。

だが――

視線が揃っている。


セラが言った。


「訓練されている」

「戦闘じゃない」

「思想の訓練だ」


エリスが、歯を噛みしめながら呟く。


「始まってるな」


---


中では、話し合いが行われていた。

壁越しに、声が聞こえる。


灰色地帯グレイゾーンは」

「我々のものだ」

「誰にも奪わせない」


別の声。


「裏切り者は?」

「排除する」


その声は静かだった。だからこそ、重かった。


---


ミレイアが、俺を見る。


「ここから先」

「あなたが」

「関わらないなら」

「彼らは」


少し間をおいて、続けた。


「あなたの敵となる」


「分かってます」


「関われば?」


「象徴とする」


エリスが即座に言った。


「どちらでも」

「地獄だな」

「ええ」


ミレイアは、否定しない。


「でも」


彼女の声が、ほんの少し低くなる。


「まだ、希望はある」


---


俺は、考えた。

ここまで来て、まだ“守る”のか?

いや。


(違う)


守るのは、もう無理だ。

なら。


(壊す?)


その言葉が、胸の奥で形を持ち始める。


エリスが、俺の表情を見て言った。


「やめろ」

「まだ、そこまで行くな」


俺は、答えなかった。

だが。

セラが、静かに言った。


「あなたは」

「もう」

「戻れない」


---


その夜、

倉庫に戻ったあと、

ミレイアが俺の前に立った。

距離が近い。

だが、触れない。


「怖い?」


「はい」


正直に答えた。


「自分が」

「“壊す側”になるのが」


ミレイアは、しばらく黙っていた。

そして、言った。


「私」

「商人としては」

「壊すより、使う方が好き」

「でも」


少し間をおいて、


「使えなくなった時に」

「壊せない人は」

「必ず、次に壊される」


その言葉は、誘惑でも脅しでもなかった。

忠告だった。


---


俺は、深く息を吸う。


「まだ」

「壊さない」

「だが」

「壊す準備はする」


ミレイアは、ゆっくり頷いた。


「それでいい」


エリスが、苦笑する。


「随分と」

「分かってるな」

「商人だから」


ミレイアは言った。


「結末を想定しない取引は、しない」


---


外で、風が吹く。

遠くで、誰かが笑っている。

灰色地帯グレイゾーンは、

もう灰色地帯グレイゾーンじゃない。

名前を持ち、旗を持ち、人を集め始めた。

そして。

俺の中にも、確かに生まれ始めていた。

それを壊す覚悟が。


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