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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第3章

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「旗を振る前の夜」


集会は、翌日の夕方だとミレイアは言った。

場所は、王都の東の外れ。かつて倉庫街だった区画だが、今は半分が放棄され、残り半分は勝手に使われている。

エリスがそれを聞いて、少し皮肉っぽく言った。


「都合がいい場所だな」


セラが静かに頷く。


「視線が届きにくい場所だからね」

「だが」


エリスは一拍おいて、続けた。


「人が集まる」


人が集まる場所には、必ず役割が生まれる。

誰かが話し、誰かが聞き、誰かが煽り、誰かが従う。そして――

誰かが旗を振る。


---


翌朝、俺は外套を羽織ったまま、何もせずにただ座っていた。

焚き火はない。暖を取る理由もないからだ。

エリスは、少し苛立った様子で言う。


「行くのか」

「まだ」

「行かないなら」

「ミレイアが行く」

「それは」


エリスの声が低くなり、警戒の色が混じった。


「危険だ」


俺は、ただ頷いた。


「分かってる」

「なら」

「止めてください」


俺は、首を振った。


「止める権利は、ない」


---


セラが静かに口を挟んだ。


「あなたが出ない場合」

「集会は、誰かのものになる」

「出た場合は?」

「あなたの影が、落ちる」


正解がない。

俺は両手を見つめた。

剣はない。命令もない。肩書きもない。

あるのは、“見られてしまう可能性”だけだ。


---


昼過ぎ、ミレイアが戻ってきた。

いつもの外套だが、今日は少しだけ地味に見える。


「決めた?」


俺は答えない。

ミレイアは、それで理解したようだった。


「じゃあ」

「先に行く」

「危なくなったら?」

「帰ってくる」


軽く言って、ミレイアはそのまま外に出て行く。だが、彼女は“帰れなかった場合”の話は一切しない。


---


集会は、予想よりもかなり多くの人々が集まっていた。

遠くからでも、ざわめきが耳に届く。

エリスは、歯を噛みしめながら呟いた。


「早すぎる」

「ええ」


セラが言う。


「まだ、思想が熟成していない」

「だからこそ」


俺は呟いた。


「一番、暴発しやすい」


---


俺たちは少し離れた場所から様子を見ていた。

ミレイアは、群衆の中に溶け込むように静かに歩いていく。目立たない。だが、耳を澄ませば聞いている。それが、彼女の戦い方だ。


---


演台代わりの箱の上に立ったのは、若い男だった。

声は、よく通る。


「俺たちは!」

「守られなかった!」


群衆の中でざわめきが起こる。


「制度は!」

「弱い者を虐げる!」


そこに同意する声が上がった。

ここまでは予想通りだった。だが――


「だから!」

灰色地帯グレイゾーンに留まらない者は!」

「また、虐げられることになる!」


その瞬間、空気が一変した。

誰かが頷き、誰かが顔を曇らせた。

思想が、どんどん線を引き始めていた。


---


その時、ミレイアが動いた。

ほんの一歩。

ほんの一言。


「それは、違うわ」


声は大きくなく、ただ不思議と耳に届く。

男が彼女を見て、驚いたように尋ねる。


「誰だ?」

「通りすがりの商人」


ざわっと、空気が揺れる。


「商人が、何を知ってる?」


ミレイアは、微笑んだ。


「“戻った人”が」

「全員、虐げられた?」


男は言葉に詰まった。


「違うだろ?」

「戻った人の中には」

「虐げられず」

「静かに生きている人もいる」

「それを」

「決めるつけたのは、誰だ?」


その言葉が広がり、群衆のざわめきが一層大きくなった。


---


だが、その後、別の声が上がった。


「きれいごとだ」


中年の女だった。

疲れ切った顔をしている。


「戻れる人間は」

「元々、強いんだ」

「弱いままの私たちは」

灰色地帯グレイゾーンしか、ない」


その言葉は、正論だった。

そして――一番、危険な正論だった。


---


ミレイアは、一瞬だけ言葉を失った。

その隙に、誰かが叫んだ。


「だから!」

灰色地帯グレイゾーンは!」

「俺たちの国だ!」


「国」という言葉が出た瞬間、

エリスの顔色が変わった。


「だめだ」


セラが言った。


「旗が立つ」


---


俺は、立ち上がった。

足が、自然に前に出る。

エリスが、腕を掴んだ。


「出るな」

「出たら」

「象徴になる」

「分かってる」


俺は静かに言った。


「でも」


「今、誰も止めてない」


エリスは歯を食いしばり、セラは俺を見て言った。


「あなたが出ると」

「今日の集会は、勝つ」

「だが」

「明日から」

「あなたが、狙われる」


俺は、頷いた。


「それでも」

「今は」

「誰も死なせたくない」


---


その瞬間、遠くで小さな衝突が起きた。

押し合い。

怒号。

誰かが転ぶ。

空気が完全に熱を帯びた。


ミレイアが、こちらを見る。

目が合った。

彼女は、ほんの僅かに首を振った。

――出るな。


だが。

俺は、一歩踏み出した。


---


群衆の中。

声を張らず、ただ言った。


灰色地帯グレイゾーンは」

「正しくない」


一瞬、音が消えた。


「正しさになった瞬間」

灰色地帯グレイゾーンは、終わる」


視線が集まり、

誰かが叫ぶ。


「ここは」

「居場所じゃない」

「逃げ場でもない」

「じゃあ、何だ!」


俺は、答えた。


「途中だ」


それだけ。


---


沈黙が広がった。

理解はされない。

だが――

加熱は、止まった。


その瞬間、俺は理解した。


(やってしまった)

(これで)

(もう、戻れない)


---


その夜、倉庫に戻ったあと、ミレイアが言った。


「最悪の手」

「ですね」


俺は苦笑した。


「でも」


彼女は、少しだけ笑った。


「一番、人を残す手」


エリスが深く息を吐く。


「荒れるな」


セラが静かに言う。


「もう」

「思想は、引き返せない」


俺は頷いた。


「だから」

「次は」

「壊すかもしれない」


その言葉に、誰も否定できなかった。


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