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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第3章

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灰色地帯(グレイゾーン)と彼女

その夜、ミレイアが去った後、酒場の空気は変わらなかった。

笑い声が戻り、杯も回り始めた。

でも、さっきと同じ音なのに、どこか違って聞こえる。

エリスが、低く言った。


「あの女」


「はい」


俺は頷く。


「分かっていることを、分かったまま言語化するタイプだ」


セラが補足する。


「最も危険」


「だな」


危険だ。

剣を向けてくる相手よりも。

思想を叫ぶ相手よりも。

なぜなら、ミレイアは――

こちらの選択肢を奪わない。

ただ並べる。

そして「どれを選ぶ?」と聞いてくる。

それが一番、断りにくい。


夜が深まり、酒場を出た俺たちは、外に出ると空気が冷えていた。

街灯は少なく、影が多い。


「来るぞ」


セラが言った。

足音が一つ、隠そうともしていない。

路地の角から現れたのは、昼間とは違う装いのミレイアだった。

派手さは消えている。

だが、質の良さは隠れていない。


「待ってくれてありがとう」


「待つとは言ってない」


エリスが冷たく返す。

ミレイアは気にしない。


「でも、逃げなかった」


それだけで、十分だという顔。


「場所は近いわ」


「信用できるのか?」


俺が聞くと、ミレイアは少し考えてから答えた。


「信用して」

「とは言わない」

「でも」

「今夜、あなたを売る気はない」


エリスが鼻で笑う。


「今夜は、な」


「ええ」


ミレイアは認めた。


「“今夜は”よ」


案内されたのは、宿でも屋敷でもなかった。

倉庫。

だが、古くない。

外からは分からないが、中は整えられている。

火を焚く場所。

簡素な椅子。

余計な装飾はない。


灰色地帯グレイゾーンに、似ているな」


エリスが言うと、ミレイアは軽く肩をすくめた。


「市場で生きてるとね」

「“余計なもの”を削る癖がつくの」

「削りすぎると、人も削れるけど」


その言葉は、冗談に聞こえなかった。


火を囲んで、四人。

ミレイアは、ようやく本題に入る。


「今日、東の街で集会があったわ」


俺の指が止まる。


灰色地帯グレイゾーン主義?」


「そう」


彼女は頷いた。


「穏健だった。最初はね」


「“制度は悪じゃない”」

「“灰色地帯グレイゾーンは逃げ場だ”」


「ここまでは、まだいい」


エリスが腕を組む。


「だが」


「ええ」


ミレイアの声が、少し低くなる。


「途中から」

「“制度に戻る者は弱い”」

「“戻った者は、また誰かを切る側になる”」


セラが静かに言う。


「排他化」


「その通り」


ミレイアは、はっきり言った。

「思想は」

「居場所を与えると同時に」

「敵も作る」


俺は、火を見つめた。

(早い)

(まだ、何も固まっていないのに)

「それで?」

ミレイアは、俺を見る。

「ここから先」

「思想は二つに分かれる」

「一つは、自然消滅」

「もう一つは」


「利用される」

「どちらに賭ける」


エリスが言う。

「賭けない」

「でしょうね」

ミレイアは苦笑した。

「だから」

「私がいる」


彼女は、懐から紙を取り出した。

地図。

いくつかの印。

「ここ」

「ここ」

「ここも」

「全部、灰色地帯グレイゾーン主義を掲げ始めた場所」

「共通点は?」

俺が聞く。

「資金が流れ始めている」


その言葉に、空気が張りつめた。

「誰が?」

セラが聞く。

ミレイアは、首を振る。

「まだ、分からない」

「でも」

指が、地図の一点で止まる。

「“誰かが”」

「思想を」

「固定化しようとしている」


エリスが、低く言った。

「それは」

灰色地帯グレイゾーンの、死だな」

「ええ」

ミレイアは頷いた。

「思想が」

「“守るため”に」

「規則を作り始めた瞬間」

「力が必要になる」

視線が、俺に向く。

「あなたは」

「力を持たない」

「だから」

「今は、都合がいい」


俺は、はっきり言った。

「利用する気だな」

ミレイアは、否定しない。

「ええ」

「でも」

「対等に」


沈黙。

エリスが、俺を見る。

セラも、見る。

選択は、俺に来ていた。

俺は、ゆっくり言った。

「俺は」

灰色地帯グレイゾーンを」

「守らないと決めた」


ミレイアの眉が、わずかに動く。

「知ってる」

「散らしたものを」

「また固定するつもりはない」

「それでも」


「歪められるのは、嫌だ」


ミレイアは、静かに笑った。

「その感情」

「とても珍しい」

「価値の話はやめてくれ」

「無理」

即答だった。

「商人だから」


その夜、彼女は帰らなかった。

だが、触れもしなかった。

距離は近い。

言葉は艶やか。

だが、一線は越えない。

それが、彼女なりの誠意だと、俺は理解してしまった。

理解してしまうのが、一番危険なのに。


夜明け前。

ミレイアが立ち上がる。

「明日」

「もう一つ、集会がある」

「今度は」

「少し、荒れる」


エリスが言った。

「見に行く?」

ミレイアは、俺を見る。

「あなたが来れば」

「場は、静まる」

「来なければ」

「誰かが、旗を振る」

俺は、答えなかった。

答えなかったが――

沈黙は、拒絶じゃない。

ミレイアは、それを分かっている顔だった。

「じゃあ」

「また後で」

そう言って、去る。


静かになった倉庫で、エリスが言った。

「これは」

「厄介になるな」

セラが頷く。

「思想」

「商人」

「利用」

「どれも」

「力で御しきれない」


俺は、火を見つめた。

灰色地帯グレイゾーンが、このままではいられなくなる話だ)

その中心に、

ミレイアという女がいる。

敵か。

味方か。

それとも、最悪の理解者か。

――まだ、決まっていない。

だが一つだけ確かなのは、

彼女は、灰色地帯グレイゾーンを“金に変えられる最後の人間”だ。


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