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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第2章

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名もないものが、影を落とす

始まりは、

「人が増えた」ことじゃなかった。


**戻ってこなかった**ことだった。


---


最初の男。


あの夜、倉庫を出ていった男は、

それきり姿を見せなかった。


数日後。


農夫がぽつりと言った。


「あいつ、隣の村で仕事見つけたらしいぞ」


「そうですか」


俺はそれ以上聞かなかった。


どんな仕事かも。

うまくやれているのかも。


大事なのは一つだけ。


**ここに戻らなかった**という事実。


ここに居続けなくてもよくなった。

それで十分だった。


この場所は、

誰かを囲うための場所じゃない。


通過点でいい。


---


次に変わったのは、

人の数じゃなくて――滞在時間だった。


最初は一晩だけ。

次は二晩。

三日。

五日。


誰も「いつまで」とは言わない。


だから、

自分で決めるしかない。


それが一番難しい。


「そろそろ出るか」

そう口にするまでに、

人は何度も迷う。


でも、

自分で決めて出ていく。


それが、この場所の決まりだった。


---


三人目に来たのは、女性だった。


珍しい。


この世界では、女性は基本的に守られる側だ。


エリスが小声で言う。


「それでも、ここに来るのか」


「ええ」


俺はうなずいた。


彼女は強かった。

魔力もあった。


でも、命令に従えなかった。

期待される役割に、どうしてもなじめなかった。


「戦えるけど、戦いたくない」


それだけで、

居場所を失うこともある。


セラが静かに言う。


「種類が増えてきたな」


その通りだった。


---


ここに来る人たちは、

共通点が一つだけある。


制度の中で、

**動けなくなった人**。


追い出された人。

切られかけた人。

役割をこなせなかった人。


強いか弱いかは関係ない。


止まってしまった人だ。


---


村の人たちも気づき始めた。


「あそこ、何やってる場所だ?」


「何もしてません」


「何も?」


「何もです」


首をかしげて去っていく。


説明できないものは、

広まりにくい。


でも、

違和感にはなる。


---


五人目が来た夜。


焚き火のまわりが、明らかに狭くなった。


誰もリーダーはいない。

指示もない。


でも、自然に役割が生まれる。


誰かが水を汲み、

誰かが薪を割り、

誰かが火を見ている。


セラが言う。


「自分たちで回し始めている」


エリスが続ける。


「それは、危ないな」


「ええ」


人数が増えれば、

数えられる。


数えられれば、

管理される。


管理されれば、

制度になる。


---


実際、王都では記録が始まっていた。


《非公式滞在者、増加傾向》

《治安悪化なし》

《労働市場への影響、軽微》


問題は最後だった。


**問題がない。**


だから、気持ちが悪い。


掴めない。

理由がない。


でも、増えている。


それが一番やっかいだ。


---


ある夜。


若い男が俺に聞いた。


「ここってさ名前あるの?」


一瞬、迷った。


名前をつけた瞬間、

これは“場所”になる。


場所になれば、

管理される。


「ない」


「じゃあ、“ここ”でいいか」


「それでいいです」


名前を拒む。


それが、最後の防波堤だった。


---


だが、翌朝。


遠い村から人が来た。


「噂で聞いたんです」

「居場所があるって」


胸の奥が冷える。


噂にならないはずのものが、

伝わり始めている。


これはもう、

自然発生じゃない。


広がりだ。


---


エリスが言う。


「これ以上は、無視されない」


「はい」


「潰されるぞ」


「必ずとは限りません」


「楽観だな」


「違います」


俺は焚き火を見る。


「選択肢が増えるんです」


セラがうなずく。


「制度は、掴めないものを嫌う」


「だから掴もうとする」


「だが、掴める形にした瞬間――」


エリスが言う。


「制度になる」


「はい」


それは、敗北だ。


---


その夜。


俺はみんなに言った。


「ここは、住む場所じゃない」


「必要な人が、必要なだけ通る場所です」


誰も反論しない。


でも、空気が少し重くなった。


安心できる場所が、

長く続かないと分かったからだ。


---


同じ頃、王城。


《非公式滞在地点、拡散傾向》

《抑止措置、検討段階へ》


アリシアは報告を読み、

静かに目を閉じた。


間に合わない。


でも、

一つだけ確かなことがある。


**《灰色地帯グレイゾーン》は、存在できた。**


それを一度でも証明できた。


---


焚き火。


人が増え、

声が増え、

火も大きくなる。


それでも、まだ旗はない。

名前もない。


だから今は、まだ切れない。


だが確実に近づいている。


「無視できない場所」へ。


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