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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第2章

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記録の解禁

解禁は、静かだった。

祝う声もなければ、非難の声もない。

ただ、記録が公開された。それだけだった。


---


王都中央記録院。

誰でも出入りできる閲覧区画に、新しい棚が一つ増えた。


札には、簡素に書かれている。


《試験施策・検証資料(第一期)》


目立たない。

だが、確かにそこに置かれた。


---


最初に気づいたのは、研究者だった。


分厚い資料をめくりながら、思わずつぶやく。


「全部、載ってる」


成功した事例。

うまくいかなかった事例。

現場の混乱。

医療利用率の数字。

軍部からの反発。


そして――なぜ途中で終わったのか、その理由まで。


削られていない。

言い訳もない。

美化もしていない。


ただ、事実が並んでいる。


---


次に気づいたのは、記者だった。


「これは書けるな」


だが、すぐに眉をひそめる。


「でも、王女の名前が出てるぞ」


政治的に危ない。

どちらかに肩入れすれば、敵を作る。


それでも――


隠されていない記録は、強い。


記者は、小さな記事を書いた。

断定せず、煽らず、ただ紹介する形で。


---


三人目は、市民だった。


倉庫街で働く女性。


資料の写しを読みながら、ぽつりと言う。


「男の話、載ってる」


名前は出ていない。

だが、確かに存在していたことは分かる。


「ああ、あの時、そういう人がいたんだ」


それだけだった。


---


広がり方は、派手ではなかった。


炎上もしない。

暴動も起きない。


ただ、じわじわと滲んでいく。


酒場で。


「失敗って聞いてたけどさ」


「全部が無意味ってわけじゃなかったみたいだな」


別の席では。


「途中で止められてるな」


「誰が止めたんだ?」


「そこは書いてない」


結論は出ない。

だが、疑問が生まれる。


それが一番厄介だった。


---


王城。非公式評議室。


ヴァレリアは報告を受け、目を細めた。


「合法か?」


「はい。王女が権限を失う前に登録された個人記録です」


抜け道ではない。

正規の手続きだ。


「なるほど」


彼女は静かに言った。


「先に打っていたわけか」


問題は、内容そのものではない。

タイミングだった。


今、灰色地帯グレイゾーンが広がり始めている。


そこへ、「前例」が出てきた。


「あの場所と、結びつけて読まれています」


副官の報告に、ヴァレリアは頷く。


「当然だ。人は、話をつなげる」


---


その夜。


王女アリシアは一人で紅茶を飲んでいた。


「後悔はありませんか?」


侍女の問いに、少しだけ考えて答える。


「ありません」


「私は正しいと思ったことをやろうとしました。失敗しました」


「だから、事実だけを残しました」


評価は、自分が決めるものではない。

未来が決める。


それだけだった。


---


同じ夜。


灰色地帯グレイゾーン


焚き火の前に、紙が持ち込まれる。


「王都で出回ってるらしい」


俺は受け取り、目を通す。


(出したな)


エリスが小さく言う。


「殿下は、守ったわけじゃない」


「はい」


セラが続ける。


「だが、消さなかった」


それは大きい。


---


人々の反応は、割れた。


「やっぱり甘い」


「でも、全部が無駄じゃなかった」


「もし、あの時これが続いてたら」


誰も断言しない。

だが、考え始める。


“完全に否定できない過去”が生まれた。


---


数日後、王都日報の夕刊。


小さな見出し。


《試験施策記録、公開》

《評価、分かれる》


それだけ。


だがヴァレリアは理解した。


これは止めにくい。


灰色地帯は制度の外にある。

記録は制度の内にある。


その二つが同時に存在している。


否定すれば、記録が残る。

無視すれば、灰色地帯が広がる。


どちらも、簡単には切れない。


---


焚き火の前。


俺は皆に言った。


「殿下は、俺たちを守ったわけじゃない」


「でも、消えなかった証拠を残してくれた」


それで十分だ。


エリスがうなずく。


「次は、私たちだな」


セラが火を見つめる。


「世論は遅い」


「だが、深く残る」


---


遠い王城。


ヴァレリアは窓の外を見つめる。


「王女アリシア」


「あなたは、戦場を変えたな」


剣ではなく、記録で。


灰色地帯グレイゾーンはまだ小さい。

制度はまだ強い。


だが、もう“なかったこと”にはできない。


誰かが読む。

誰かが思い出す。


それだけで、国の形は少しずつ変わる。


そして物語は、もう後戻りできない地点に入っていた。


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