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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第2章

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王女の手紙

それは、命令ではなかった。


秘密の指示でもない。

助けてほしいという依頼でもない。


ただの――接触だった。


---


夜明け前。


小さな村のはずれ。

納屋の裏手。


エリスが最初に気づいたのは、足音ではない。

空気の変化だった。


風の流れが、わずかに違う。

誰かが、息を潜めている。


(いるな)


もう騎士ではない。

剣も持っていない。


だが、体は覚えている。


「出てこい」


低く、短く言う。


物陰から一人の女が姿を現した。

黒衣ではない。軍服でもない。


王城の文官服。


(王城?)


「失礼いたします」


深く一礼。


「私は、王女アリシア殿下の“私的連絡係”です」


その一言で、

三人の視線が揃った。


---


「追跡じゃないのか?」


セラが淡々と確認する。


「違います」


女は即答した。


「公式記録上、皆様は“関与対象外”です」

「追う理由がありません」


つまり、制度上は“もう存在しない人間”だ。


だから接触できた。


---


「要件は?」


俺が聞く。


女は封書を差し出した。


王家の紋章。

だが、公印ではなく私印。


公的文書ではない。

個人としての手紙。


「殿下より。“読むかどうかは任せる”とのことです」


それだけ言って、女は一歩下がった。


---


焚き火の前。


三人と封書。


エリスが小さく言う。


「毒の可能性は?」


「ない」


セラが即答する。


「毒なら、この距離で渡さない」


合理性の話だ。


俺は封を切った。


---


紙は一枚だけ。


文字は整っていて、無駄がない。


《あなた方へ》


《私は政治的に敗北しました》

《現在、ほとんどの権限を失っています》

《命令も、保護も、提供できません》


そこまでは、事実の報告だ。


だが、続きがある。


《それでも“記録”と“接点”だけは持っています》

《制度の外に出た者は、内側からは見えません》

《しかし、内側にいる者は外側から観測できます》


俺はゆっくり読み進める。


《もし、あなた方が“何かを始める”なら》

《私は止めません》

《手も出しません》

《ただ、“つなぎます”》


最後に署名。


《――王女アリシア》


---


読み終えたあと、しばらく誰も話さなかった。


最初に口を開いたのはエリスだ。


「うまいな」


責める声ではない。


「権限がないと言いながら、関係は切っていない」


俺も頷く。


「助けない。でも、見てるってことですね」


セラが静かに言う。


「観測者だ」


「彼女も、制度の内と外の境目に立っている」


---


連絡係の女が小さな紙片を置いた。


「“安全な接点”です」


数字でも名前でもない。

記号の列。


暗号だ。


「殿下が“切られても残る人々”と連絡を取る窓口です」

「使うかどうかは自由です」


女は一礼し、音もなく去った。


---


焚き火の前。


再び三人。


エリスが低く言う。


「使えば、殿下を巻き込む」


セラが続ける。


「使わなければ、完全に孤立する」


俺は紙片を見つめる。


アリシアは助けに来ていない。

命令もしていない。


ただ、“つながっている”と知らせただけだ。


「俺は」


ゆっくり言う。


「使う前提で、使わない」


エリスが眉を寄せる。


「どういう意味だ?」


「接点があるって知ってるだけで、選択肢が増える」


「実際に使わなくても、“孤立してない”って思える」


セラが小さく頷く。


「合理的」


「“完全に切られていない”という事実は、不安定要素になる」


味方でも敵でもない位置。

それが一番扱いづらい。


---


夜が深まる。


エリスがぽつりと言う。


「殿下は、まだ戦っているな」


「剣を持たずに」


俺は小さく笑う。


「俺たちと同じですね」


セラが火を見つめながら言う。


「違う」


「彼女は制度の中で、私たちは外だ」


「だが、方向は同じ」


---


その夜、王城。


アリシアは報告を受けていた。


「封書は届きました」


「返事は?」


「ありません」


アリシアは微笑む。


「それでいい」


「彼らは、自分で選ぶ」


「それが重要です」


侍女が小さく問う。


「殿下は何を期待されているのですか」


アリシアは窓の外を見る。


「期待はしません」


少し間を置く。


「ただ、続いてほしい。それだけです」


---


遠い村。


焚き火の火が小さく揺れる。


紙片は燃やさない。

かといって使わない。


ポケットにしまう。


それだけで、十分だった。


制度の外にいる。


だが、完全に孤立しているわけではない。


王女の手は伸びていない。

守られてもいない。


それでも――


確かに、つながっている。


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