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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第2章

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ヴァレリアは、剣を抜かない

王城は、妙に静かだった。


嵐の前の緊張ではない。

嵐が起きないと決まった後の、重たい静けさだ。


何も起きない。

誰も声を荒げない。

だが、水面下ではすべてが決まっている。


ヴァレリア・グラントは、その空気をよく知っていた。


---


動きは、目に見えないところから始まった。


まず軍部。


会議室で、落ち着いた声が交わされる。


「殿下は、少し感情に寄りすぎた」

「制度を試すには、まだ早かった」

「責任の所在が曖昧だ」


どの言葉も穏やかだ。

批判ではない。

ただの“確認”のように聞こえる。


だが意味は一つ。


――任せ続けるのは危険だ。


---


次に、貴族院。


ここでも直接的な非難はない。


代わりに、“懸念”が共有される。


「王女殿下は民に近すぎる」

「政治的な均衡が崩れかけた」

「我々が支えなければならない」


“支える”。


一見、味方の言葉。

だが実際は違う。


支えるということは、

権限を握るということだ。


---


三日後。


王城の非公式評議室。


アリシアは、すでに察していた。


ノック。


「入れ」


扉が開き、ヴァレリアが一人で入ってくる。

護衛も書類係もいない。


それが答えだった。


これは、もう“決まった話”だ。


---


「殿下」


形式だけは守る。


「要件は」


アリシアは立たない。

ヴァレリアも座らない。


「端的に申し上げます」


まっすぐな声。


「殿下は政治的に不安定です」


はっきりと言い切った。


「理由は?」


「三つあります」


指を一本立てる。


「第一に、制度実験の監督責任」

「成果は限定的。だが混乱は確実に起きた」


二本目。


「第二に、非公式人物への黙認」

「これは権力の私物化と見なされかねない」


三本目。


「第三に、軍の信頼が揺らいでいる」


部屋の空気が重くなる。


---


「それで?」


アリシアは静かに聞く。


「退けと?」


「いいえ」


ヴァレリアは首を振る。


「殿下は王族です。排除は現実的ではない」


一拍置いて続ける。


「権限を制限します」


それが本題だった。


「軍事と治安分野への発言権を凍結」

「制度設計への関与を停止」

「対外的には“調整期間”と発表します」


つまり――


政治の中心から外す。


---


「拒否権は?」


アリシアが聞く。


「ありません」


即答。


「すでに合意形成は進んでいます」


もう止められない。


剣は抜かれていない。

誰も怒鳴らない。


だが、完全に詰んでいる。


---


「あなたは、私が間違っていたと?」


アリシアが問う。


ヴァレリアは一瞬考えた。


「早すぎた。それだけです」


全面否定もしない。

全面肯定もしない。


最も政治的な答えだった。


---


「分かりました」


アリシアはゆっくり言う。


「受け入れます」


その瞬間、勝敗は確定した。


だがアリシアは続ける。


「条件が一つあります」


ヴァレリアの目がわずかに動く。


「制度実験の全記録を残すこと」

「改ざんせず、廃棄せず、未来に残す」


ヴァレリアはすぐには答えない。


記録は武器になる。

いつか誰かが、そこから再び動くかもしれない。


だが――


「承知しました」


そう言った。


「殿下は政治家としては未熟だが、王族としては厄介です」


アリシアは微笑む。


「褒め言葉として受け取ります」


---


会談は終わった。


勝ったのはヴァレリア。


だが、王女は折れていない。


---


その夜。


アリシアは一人、書斎で文書を書く。


《王政記録・補遺》


《試験施策は失敗した》

《だが、失敗は検証されねばならない》

《“切り捨てなかった者”は確かに存在した》


最後に、短く書き加える。


《次は、彼らの番だ》


---


同じ夜。


遠い村。

焚き火の前。


エリスが火を見つめながら言う。


「王城、かなり動いたな」


セラが淡々と返す。


「殿下、権限を削られた」


俺は黙って火を見る。


制度の内側で、調整は終わった。


王女は政治的に切られた。


なら次に動くのは――


制度の外だ。


ヴァレリアは一つだけ読み違えた。


王女を抑えたことで、

誰が敵かがはっきりした。


もう曖昧ではない。


火は、まだ消えていない。


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