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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第1章

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夜盗の追跡と“狩る側”への反転

水を何度もすくって飲んだ。

冷たい川の水が喉を通り、さっきまでの熱を少し落ち着かせる。

顔も洗う。頬についた土や汗をこすり落としながら、さっきの三人の顔を思い出していた。


――逃げた。


「覚えとけよ」と言い残して。


(あれで終わるわけない)


ああいう連中は、一人で動かない。

山の中で三人だけというはずがない。上がいる。仲間がいる。


今の俺は強い。たぶん、かなり。


でも。


(強い=無敵じゃない)


刃物が急所に入れば死ぬかもしれない。

毒を使われたらどうなるか分からない。

そもそも、この世界の常識を俺は何も知らない。


普通なら――逃げる。


できるだけ遠くへ。

できるだけ人の多い場所へ。


それが正解のはずだった。


なのに、足が動かなかった。


胸の奥がざわつく。

いや、ざわつくというより、もっと生々しい感情。


(…ムカつく)


まず、それだった。


転移して最初に会ったのが強盗未遂?

ふざけるな、と思った。


そして、もう一つ。


(俺が強いってバレた)


あいつらの最後の目は、恐怖だった。

恐怖は、すぐに恨みに変わる。

恨みはしつこい。


(逃げても終わらない)


村に下りても、どこかで情報を集めて追ってくる可能性がある。


なら――


(先に潰す)


そこまで考えて、自分に驚いた。


(俺、何考えてんだ?)


日本にいた頃の俺なら、絶対に出ない発想だ。

トラブルは避ける。謝る。逃げる。

警察を呼ぶ。


でもここに警察はいない。


そして今の俺は、妙に冷静だった。


(身体が強いと、心まで変わるのか?)


それとも――この世界に来たことで、何かが変わったのか。


分からない。


ただ一つはっきりしている。


俺は、さっきの三人に「狩られる側」で終わりたくなかった。


(狩る側に回る)


そう決めた瞬間、恐怖が少し薄れた。

代わりに、頭が冴える。


森の中を見渡す。

折れた枝。踏み荒らされた草。

土に残る足跡。


(…追える)


やったことはない。

でも、なぜか分かる。


俺は川沿いを少し下り、それから森に入った。

理由は自分でもはっきりしない。体がそう動いた。


空が赤くなり始めている。


(夜になる前に)


走る。


――速い。


今の俺の走りは、人間というより獣に近い。

枝が当たっても大して痛くない。

地面を蹴るたびに体が前に飛ぶ。


(ヤバいな、俺)


興奮と恐怖が混ざる。

でも止まらない。


十五分も経っていないはずだ。


森の中に小さな窪地を見つけた。

焚き火の跡。踏み固められた地面。空き瓶。


(野営地)


でも、ここが本拠地ではない。

移動しながら狩りをする連中の中継地点だ。


さらに耳を澄ます。


――声。


「マジであいつ何なんだよ」


さっきのリーダーの声だ。


「腕が鉄みてぇだった…!」


「でも武器持ってなかっただろ」


「数で囲めばいける」


「チッ…一回引く。姐さんに話す」


(姐さん)


やっぱり上がいる。


「面ぁ良くなかった?」

「どっかの貴族かもな」

「だまれ」


会話を聞きながら、俺は木陰に伏せた。


(末端だな、こいつら)


ここで三人を倒しても、上が残れば終わらない。


(情報がいる)


場所。人数。武装。


(…一人捕まえる)


その考えに、自分でぞっとする。


でも、体は熱い。

血が騒いでいる。


タイミングを見る。


三人は気が緩んでいる。

一人が離れて用を足しに行った。


(こいつだ)


音を立てずに近づく。

背後から口を塞ぎ、腕で締める。


「――っ!?」


暴れるが、俺の腕は外れない。


「騒ぐな」


低く言うと、相手は一瞬止まった。


言葉は通じる。


俺は草の奥に引きずり込んだ。


「姐さんって誰だ」


「し、知らねぇ…!」


腕に少し力を入れる。


「痛っ!」


(力、強すぎる)


慌てて緩める。


「殺す気はない。ただ生きたいだけだ」


相手の目が揺れる。


「…オレもだよ」


その言葉に、少しだけ現実が戻る。

こいつも、生きるためにやっているだけかもしれない。


「答えたら逃がす」


「ほんとかよ」


「約束する」


しばらく迷ったあと、男は話し始めた。


姐さんの名前はミルダ。

山の南にある廃坑が根城。

常駐は十数人。外で動いている者もいる。

剣、弓、槍。そして――


「火が出る筒」


(銃か? 魔道具か?)


さらに、


「姐さんは魔術を使う」


魔術。


(身体能力だけで勝てるか?)


初めて、はっきりと恐怖を感じた。


でも。


(引けない)


ここで逃げたら、追われる側のままだ。


情報は十分だ。


俺は男の肩から手を離した。


「行け」


「…マジで?」


「約束だ」


男は森へ消えた。


残された俺は、空を見上げる。

太陽は沈みかけている。


南。廃坑。


(行くか)


恐怖はある。

でも、その上に決意が乗った。


俺はこの世界で生きる。


そのために、狩る側に回る。


俺は南へ走り出した。


廃坑へ。

ミルダへ。


そして、この判断が俺の運命を大きく変えることを――

このときの俺は、まだ知らなかった。


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