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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第1章

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幕間 王女はなぜ合格を出したのか

参謀は、慎重に問いかけた。


「殿下…それは、危険ではありませんか」


「ええ」


アリシアは即答した。


「非常に」


水晶板を指で弾く。映像が切り替わる。

中央通り――魔獣を制圧する瞬間。


拳を振らない選択。

骨を砕かず、首を極める。

無力化で止める。


「ここも」


次の映像。北区。


「そして、ここも」


参謀が静かに言う。


「彼は“最短距離”を取っていません」


「ええ」


「効率も、最大効果も、求めていない」


アリシアは、わずかに笑った。


「だからこそ、危険なのです」


参謀は、意味を測りかねた顔をする。


「力を持つ者が、最大効率を選ぶなら管理は容易です」


「評価も、予測も、計算できる」


「ですが――」


水晶板を消す。


「自ら制限をかける者は、読めない」


沈黙。


「彼は“勝てる場面”で勝たなかった」


「救える場面で、救わなかった」


「それは、優しさでも弱さでもない」


「思想です」


参謀の眉が動く。


「思想…ですか」


「ええ」


アリシアは静かに続ける。


「“全部やらない”という思想は、英雄よりも厄介です」


英雄は、求められれば応える。

称賛を糧にする。

旗印になる。


だが、あの男は違う。


「彼は旗にならない」


「道具にもなりにくい」


「だが」


わずかに目を細める。


「民は、そういう者を信頼します」


参謀は、ゆっくりと息を吐いた。


「…人気が出る、と」


「ええ」


「そして人気は、統治を揺らします」


王女は否定しなかった。


「ですが、同時に」


窓の外、王都を見下ろす。


「この国は、いずれ変わらねばなりません」


女性優位の構造。

魔力依存の防衛。

希少な男性という資源。


「強い女性が守る世界は、安定しています」


「ですが」


声が、わずかに硬くなる。


「守られる側が“選べない”ままでは、停滞する」


参謀は、ようやく理解したように目を伏せた。


「殿下は…彼を、象徴に?」


「いいえ」


即答だった。


「象徴にしてはいけません」


「象徴になった瞬間、彼は壊れる」


沈黙が落ちる。


「彼は“選び続ける者”でいなければならない」


「国家の意志でも、騎士団の意志でもなく」


「自分の意志で」


参謀が、慎重に問う。


「それは…制御不能になる可能性も含みます」


「ええ」


アリシアは、微笑んだ。


「だからこそ、試験を“力”ではなく“選択”にしたのです」


管理ではない。

枠組みの提示。


拒否権を与えた。

形式を選ばせた。

そして、選ばせ続ける。


「力のある者に、選択の責任を与える」


「それが、この国の新しい形です」


参謀は、静かに頭を垂れた。


「…殿下は、賭けに出ましたな」


「ええ」


アリシアは、窓の外を見たまま答える。


「彼が怪物になるか」


「それとも、人として立ち続けるか」


「どちらに転んでも、国は揺れるでしょう」


一瞬、表情から微笑が消えた。


「ですが、揺れない国は腐ります」


風が、塔の上を抜ける。


「彼は、都合の良い男ではありません」


「だからこそ――」


小さく、息を吐く。


「私は、合格にしたのです」


参謀が、最後に問う。


「もし、彼が将来…王国に刃を向けたら?」


沈黙。


長い沈黙。


やがて、アリシアは静かに言った。


「その時は」


「私が、止めます」


声音に、迷いはなかった。


「彼が“選ぶ”のなら、私も選びます」


王女として。

統治者として。

そして――


一人の、選ぶ者として。


水晶板は、完全に消えた。


模擬都市の記録は閉じられたが、

本当の観測は、今から始まる。


アリシアは、静かに呟く。


「あなたは、怪物ではない」


「ですが――英雄にもさせません」


それが、王女の決意だった。


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