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異世界に来たのでハーレムを目指したら、女性が強すぎて一歩も進めない件  作者: きなこもち
第1章

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18/90

幕間 騎士としての限界

王城を出てから、しばらくの間、私たちは何も話さずに歩いていた。


石畳を踏む音だけが、夜の王都に小さく響く。


昼間は騒がしかった街も、今は灯りを落とし、どこか静かに息を潜めている。


(…重いな)


空気が、ではない。


背負った立場が、だ。


王女アリシアの言葉は、あまりにも明確だった。


――資源。

――管理対象。

――拒否権なし。


騎士としては、理解できる。


王国を守る。

不安定要素を制御する。

感情より、秩序を優先する。


正しい。


(…正しい)


それでも、胸の奥がざらつく。


隣を歩く彼が、ぽつりと口を開いた。


「俺、大丈夫ですよ」


その言葉が、何より重かった。


「…何がだ」


「扱われることとか、選ばれることとか」


少し笑って、続ける。


「慣れてます」


足が、止まった。


「慣れている?」


問い返すと、彼は困ったように肩をすくめる。


「前の世界でも、立場とか、都合とか」

「誰かの決めた枠の中で動くことばっかりだったので」


(…そうか)


彼は、最初から“使われる側”だった。


選ぶ側ではなく、選ばれる側。


だからこそ、今の状況を受け入れられる。


だからこそ――


限界を越えるのも、早い。


「…それを」


私は、低く言った。


「当たり前だと思うな」


彼が、驚いたようにこちらを見る。


「騎士として言う」


言葉をはっきり区切る。


「“慣れているから大丈夫”という理由で踏み越えられるのは、間違っている」


彼は、しばらく黙っていた。


やがて、静かに問う。


「…じゃあ、俺を、どこまで守れるんですか」


その問いは、鋭かった。


私は、すぐに答えられなかった。


王命は絶対だ。

王女の決定を、覆す権限はない。

騎士団と学院の共同管理。


その枠の中でしか、私は動けない。


「…限界がある」


正直に言った。


「私は王国の剣だ」

「個人を最優先する存在ではない」


言葉にした瞬間、胸がわずかに痛む。


彼は、否定しなかった。


「…ですよね」


その一言が、妙に静かで、重かった。


(納得するな)


(そんな顔で受け入れるな)


私は、無意識に拳を握っていた。


剣を振るうときより、強く。


「…エリスさん」


彼が、遠慮がちに言う。


「無理しないでください」


「…は?」


「俺のために、立場とか、壊さなくていいです」


その瞬間。


何かが、はっきりと切れた。


「――ふざけるな」


自分でも驚くほど、低い声だった。


彼が言葉を失う。


私は、一歩距離を詰める。


「それは、君が決めることじゃない」


「私が、どこまでやるか」

「何を賭けるか」

「それを、君が制限するな」


夜の空気が、ぴんと張り詰める。


「…私は」


言葉が、わずかに震えた。


「騎士だ。だが――」


喉の奥で、ためらいが引っかかる。


(逃げるな)


「剣で守れないものがあるなら…私は」


深く息を吸う。


「騎士であることを疑う覚悟くらい、ある」


言い切った瞬間、胸の奥が熱くなった。


言ってはいけない種類の言葉だと、理解している。


王命に逆らう覚悟。


それは、騎士としての死を意味する。


彼は、ただ驚いていた。


(…言いすぎた)


私は視線を逸らす。


「忘れろ」


少し乱暴に言う。


「今のは、独り言だ」


だが彼は、すぐに返した。


「…忘れませんよ」


即答だった。


「それは多分、騎士としてじゃなくて」


一拍置いて。


「貴方自身の言葉です」


その一言に、返す言葉がなかった。


夜風が、冷たい。


石畳の上で、私の影が揺れる。


(…気づいてしまった)


私はずっと、線を引いて生きてきた。


命令と規律。

騎士としての役割。

感情を、剣の外に置くこと。


だが――


彼は、その線の外にいる。


彼を守ろうとすれば、私は騎士でいられなくなるかもしれない。


それが、はっきりと見えてしまった。


「…行くぞ」


それだけ言って、歩き出す。


背中に、彼の視線を感じる。


(選ばされるのは、彼だけじゃない)


私もだ。


騎士であり続けるか。

それとも――

剣を置く覚悟を持つか。


まだ答えは出ない。


だが一つだけ、確かなことがある。


この夜を境に。


私はもう、以前と同じ騎士ではいられない。


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