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マイラ・グランヴィルが幸せになるための、たったヒトツの冴えたヤり方  作者: 平乃ひら
マイラ・グランヴィルのノブレスオブリージュ
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マイラ・グランヴィルのノブレスオブリージュ3

 ――あれきり、フィデスとは一切の口をきいていない。

 風呂の準備で部屋を外していたメイが戻ってきてから雰囲気の変わった二人に戸惑いを覚えていたが、すぐにメイドの本質を思い出して仕事に徹してくれたのはマイラにとっても気が楽だった。とはいえ時折こちらの顔色を覗うような視線を送ってくる。

(メイには説明すべきかしら)

 メイはマイラにとって唯一の味方といっていい女性だ。メイがいなければ『マイラの計画のほとんどは成り立たなかった』ことだろう。後で説明するから、という意味を込めてメイに視線を送り返す。

「お風呂の時間ですね!」

 普段と違って互いを居ないかのように過ごすマイラとフィデスの空気を打ち破るように、メイは声を出した。視線を送るまでもなく、マイラに仕えると決めているメイですらそろそろ我慢の限界だったのだろう。

「マイラ様! フィデス様! さぁさぁお風呂ですお風呂! そろそろ入らないといけませんよ! なんかこう、いけません!」

「いやそこは何か一つぐらい理由を言いなさいな」

「マイラ様は減らない口を閉ざしてお風呂の準備です! こういうときは一緒のお風呂で背中を流すといいですよ!」

「なっ……!」

 今何と言った、私のメイドは。

 今とても気まずいフィデスと風呂を一緒にするだけではなく、背中を流せと? いやいやいくら図太い神経をしている自覚はあれどそれはちょっと気まずい、といったどころではない。勘弁願いたい。

「さぁさぁ行きましょういますぐ行きましょう!」

「さ、さすがにお風呂は別々にしましょう! ねぇ、メイ! ちょっと聞きなさい!」

「マイラ様」

 すっと通るような声色に、マイラは目を向ける。

「一緒にお背中、流しましょう?」

 このフィデスの提案に、マイラは軽い頭痛がしたのだった。


 ――地獄のような時間だった。

 お風呂場に着くなり、フィデスはなんかやたらと話かけてくるし、その様子をニコニコ顔のメイがじっと眺めているし、いざ身体を洗おうとすると、普段はメイが洗うのに自分が洗うと言い出してフィデスが背中を流すのだ。無防備な背後に現時点で一番危険な女がいると考えるだけで最早生きた心地がしなかった。メイがいる限り滅多なことは起きないとはいえ、それでも聖女と呼ばれる少女なのだ、どういった魔術が使えるか分からないということがマイラの緊張を誘って仕方無かった。

 とにかくフィデスはこのことをきっかけに、まるで以前のように、いや今まで以上に声を掛けてくるようになった。

(さっきまでの空気はどこへ消えたのよ!)

 全く以てフィデスの意図が読めない。彼女は自分と仲良くなりたいのか、それとも陥れたいのか。先ほどの行動を鑑みる限り、フィデスはマイラにとって明らかなる敵対行為に及ぶことは確実だと思えたが、いくらメイの前とはいえ今のフィデスからそういう気配はまるで感じられず、さすがに戸惑いを隠せなかった。

「マイラ様、明日の朝食が楽しみですね」

「――ええ、そろそろ寝る時間ですか」

 さっさと寝てしまいたい。これ以上起きてるよりかはまだ寝ているふりをしているほうがマシだ、とマイラはさっさと寝る準備をしようとしたところだった。

 コンコン、と扉が叩かれる。

「こんな時間にレディの部屋を叩くなんて、失礼なお方がいるものですね」

 口では軽く言うが、実際もう夜も深い。こんな時間に呼び出すということは何かしら火急の用事ということだろう。無視するわけにもいかず、メイに頷いてから彼女は扉に近付いてそっと開く。

「何でしょう」

「至急、マイラ嬢へこの手紙を渡したい」

「――どちらからでしょう」

「マイラ様のお父君からである」

「グランヴィル様から……? 承知致しました。マイラ様へは私から渡しておきます」

「待ちなさい」

 さすがにマイラは引き留める。本当は引き留めるべきではない、ここで止めることは受け取る側の礼儀に欠けるというのも当然承知の上だ。

「本当にお父様から?」

「はい、間違いなく。それでは失礼致します」

 メイがしっかりと手紙を受け取ったのを見た兵士は、一礼をしてから部屋を離れていく。小さな足音が遠ざかっていくのを聞きながら、メイがマイラに手紙を渡す。

「……」

 わざわざ手紙を寄越すということは、恐らく自分にしか伝えたくない用事があるからだろう。以前父親に呼ばれて王妃の前で第二王子エドアルドとの婚約話や、またフィデスとの同部屋となった会話以来、一度も会っていない。

(お父様はアズヴァルドと組んでいる可能性がある、と考えたけど、いざアズヴァルドが行方不明になってからこうして動きを見せるとなると、益々怪しいわね)

 フィデスやメイから見えないように気をつけて手紙を開き、中を読む。半ば予想していたとはいえ、父親からの呼び出しだった。グランヴィル家は王家に対し多大なる貢献をしている大貴族であり、この王城にグランヴィル家当主が代々使う執務室まであるぐらいだ。そこへの呼び出しとなれば、やはりただ事ではないだろう。

(ま、これも予想がつくけどね)

 アズヴァルドが真犯人だったと告げて謝ってくるか、あるいはアズヴァルドの失踪に関して追及してくるか。恐らくこのどちらかだろうという予想を立てる。

(というか、これ以外あるんだったら教えて欲しいぐらいだわ)

 どちらでも問題が無いように頭の中で返答を用意しておけばいい。あくまでも自分は犯人ではない。たとえ『短期間のこと』だろうと、父親を欺し抜けば問題ないのだ。

(フィデスにはしてやられてるけど、さすがに勝手知ったる父親相手にやられることはないわ)

 手紙に記された場所と時間を改めて確認したマイラは、結経寝る寸前まで最適な回答をすべく頭を回し続けたのだった。

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