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マイラ・グランヴィルは推理する7

「さて、話を続けよう。マイラ・グランヴィルが行ったことはそれだけではないはずだ。でなければ君はそこまで追い詰められなかった。ではこの国でも随一といっていい優秀な君を追い込んだ原因は何か」

「当然、彼女の魔術でしょう」

「唱えているところは?」

「見ていません。声も聞いていない。だがそうでなければ私が魔術の失敗をするなど考えられない……!」

「それだ。つまり彼女は何かしらの魔術を行使したはず。恐らく今までの謎を解く鍵はここにある。どういう魔術を使っていたのか、それさえ判明すれば君は無実を証明できるかもしれない」

「――実に巧みに隠していますよ。何しろ私の魔術紋検査すら通り抜けたのですから」

「ああ、一番簡単な、誰もが最初に使う魔術を唱えさせることで実際に発動した魔術の波紋を調べる方法か。これ自体の検査に疑問を抱いたことは?」

「……! まったく、どこまで読んでいるのやら。王子、貴方が言いたいことはつまり『マイラ・グランヴィルはその魔術が使えない』ということでしょう」

「え?」

 ゴドフロワがきょとんと両目を瞬かせる。

「前提が間違っていたんだ。マイラ・グランヴィルは確かに魔術が使えない。その使えない範囲というのは、この国において初歩の初歩である魔術だということになる。彼女は我々が明かりを灯す、火種を起こすといった生活必需とされる最低限の魔術を使うことができない」

「けれど高度な魔術においては別。あるいは特定の魔術のみを使える特異体質という可能性があるわけです。しかしどのような魔術が使えるのかを知らなければ彼女を追い込むことは難しいでしょうね」

 アズヴァルドもそういう結論に何度も至ったことはある。しかし今までの歴史でそういう特異体質がいなかったため、どうしても決め手に欠ける結論となっていたのだ。

「そうだ、だからボクは『マイラ・グランヴィル』という人物を知るために、この一ヶ月、いやそれよりも前から徹底的に調査をしていたんだ」

「調査……」

「幼い頃から今までの範囲で、可能な限り彼女の行動を追い続けてきた。どこで生活していたか、どういう教育を受けてきたか、そして一体どこに足を向けていたのか、を」

「……」

 アズヴァルドはすぐにその調査そのものについて疑問を抱いた。チャールズという王子は王位継承権を持つといっても実質的にお飾りだったからか、そもそも彼が使える部下はほとんどいない。いるとしてもそれこそ直接護衛担当をしているゴドフロワぐらいだろう。だが彼は騎士団長という身分でもあり、そうほいほい城下町や貴族の屋敷へ調べに行かせるわけにもいかない。仮にそうしたところでマイラ・グランヴィルに嗅ぎつけられて事前に証拠を消される可能性がある。このチャールズがそれに気付かないというのは不自然だ。

(この王子も何かを抱えている、か)

 ならば彼がその独自で抱えているだろう調査網を差し置いて自分にさせようとしていることは何か。

(大体想像がつくな。でなければ私に任せる理由が無い)

「この城を抜け出し城下町へ行き、とある場所を調査してもらいたい。うまくいけば全てがわかるかもしれない――」

 そうして、チャールズはある場所を伝えた。

 さすがにその場所を聞いただけではアズヴァルドといえど何があるか想像もできなかった。


 城下町に出るということは、つまり現在において厳戒態勢が敷かれている城内を脱出しなければならないということだ。いくらアズヴァルドが魔術の天才といえどそのこと自体は不可能に近い。

 何かしらの手段が必要だった。

 それについてアズヴァルドとリチャードがああでもないこうでもないと言い合っている間に、ゴドフロワがガッチャンガッチャンと音を鳴らしながらすっと二人の間に割り込んでくる。

「こういうのはどうでしょう」

「こういうのって……」

 彼が軽々と持ち上げているのは、非常に重そうなフルプレートアーマーだった。

「実戦用ではなく訓練用の鎧なので、アズヴァルド殿を隠すには十分かと」

「実践? 訓練 何?」

 猛烈に嫌な予感を覚えたアズヴァルドは咄嗟に断る理由探しをするが、まるでそれを遮るかのようにゴドフロワの両腕が彼の肩を掴む。万力の手によって天才魔術師の身体が強張った。

「これを着てください!」

「……」

 ちらり、と王子を見遣る。するとチャールズはそっと目を逸らした。

「いや、ほかに方法は」

「その方法があればお二人のことです、とうにアイデアの一つや二つ浮かんでいるでしょう?」

「ぐっ」

 この男、中途半端に口が上手い。

 この言葉を否定すれば自分が無能だと言っているようなものだ。さらに協力を申し出ている王子すら遠回しに下げるようなことにもなる。実際何も良い案が浮かんでいないのは確かだが、迂闊に否定することだけは避けたい。

「さぁ、さぁ、さぁ!」

「……ぐっ……!」

 なんか汗臭い。饐えた臭いがして、アズヴァルドはさすがに表情を取り繕えず眉をしかめた。

 ――これ、もしかして一度も洗ったことがないのではないか?

 そんなものを着ろと?

 いやいや、いくらこの城を脱出するためとはいえ頭からつま先までこの鎧の中に入っていろというのか? 衛生観念ゼロとしか言い様がないこの鎧の中を! 長い城の廊下を通り抜けて場外に出るまで! この私に着ていろというのか!

 そんなことをすれば鼻がひん曲がる! いやそれどころではない、何かこう危険な病気になってしまうのではないか!

「我慢しましょう!」

(我慢で済むかァ! この……熱血馬鹿が……!)

 頭の中だけで悪態を吐きながら、アズヴァルドは覚悟を決めるしかなかった。

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